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透明の「扉」を開けて  作者: 美黎
5の扉 ラピスグラウンド
105/1938

「ヨルには恋人が出来た」作戦


あの後エローラはさっさとハーシェルに連絡を取り、大体の事柄を把握し計画に着手している。



私達はまだマデイラ洋裁店で作戦会議中だ。

とは言っても、エローラとレナが物凄く盛り上がっていて、本人である私がその間に入る勇気がない。

朝と私はやや蚊帳の外で、お茶を飲みながら図案集みたいなものをめくっていた。いや、朝は床で寝そべってるだけだけど。

エローラの家には洋裁の本や刺繍、素材系の本も沢山あって私にとっては作戦会議よりもそっちの方に、気を取られていたのだ。


「…ちょっと。聴いてるの?」

「え?」

「主役はちゃんと話聞かないと!ロランは手強いよ?去年大変だったんでしょう?」

「うーん。大変と言うか、何というか…。」


去年ロランに会ったのは、エローラと別れてから。私が油断して、人形達を眺めようとしていたからだ。ロランの対応については、特に苦労した訳じゃ、ない。私、何にもしてないし?大変と言うか何というか………緊迫してたって言うか…。

なんか、ただ焦ってただけのような気がしてきたな…。でも今年は、シンじゃなくて気焔だからなんとなく安心感はあるよね…………うん。多分。


「でもさ。聞いた?去年は好きだって事に気が付いて人形を作ったんだと思うんだけど、多分ヨルがいなくなった事で、更に気持ちが盛り上がっちゃったんじゃないかと思うんだよね…!」

「成る程。それまでは?彼女いなかったの?」

「そうだね………いても、長く続かなかったんじゃないかな?結構仕事人間だからね…見た目は遊び人っぽいんだけど、多分そのギャップで損してるタイプ。でも本当に好きな人もいなかったのかもね…。そのロランがまさか結婚を考えるようになるとは…………。」


「…………けっ、こん?!?」

「え?その話してたんじゃないの?」


当然の様に言うエローラに、今度はレナが固まっている。

多分、レナは私達の話の最後だけ、聞いていたに違いない。「ヨルには恋人が出来た事にしよう」の、所ね。エローラは話石でハーシェルにきっと一から十まで聞いたに決まっている。

でもまぁ、諦めきれない理由としてどうしてもそこには行き着くよね……。

面倒な事になりそうだったから、「結婚」というワードは封印して欲しかったけど、やはり生半可な理由でエローラを納得させるのは無理だったのだろう。…それもどうなの?

それ以外にもエローラはロランが私の事を諦めていない話を何故か、知っていた。

まだ帰ってきて3日だよ?なんで??


「噂によるとさ、何人かに告白はされてるのよ。だってさ、去年の人形!……レナにも見せたかったわぁ。」

「人形って、聞いたけどみんなそれぞれ作るのよね?それが、どうして関係あるの?」

「そんなの決まってる!もう、腕とか、センスとか全部出るからね。不器用なら不器用なりにさ、どこまで頑張って仕上げるかとかまぁ色々あるんだけど。とにかく、その出来で家の守神になる訳だから出来がいいに越した事は無いわけ。」

「ふーん。」

「まあ、好きだったら多少は許せるかもだけどね?多少出来が不細工でもね?」

「…………!プッ!駄目だ!エローラ!可笑しい!」


急に私が笑い出したので、レナが怪訝な顔で見つめている。そのまま私が爆笑している間に、エローラが自分の話をレナにしていた。

まあ、笑うよね、レナも。




一頻り、みんなで笑った後で私はエローラに訊いてみた。


「今年はどうするの?去年はさ、すぐ出すのは駄目って事だったんでしょう?」

「そうね…出してみてもいいかなぁ?」

「「え?!」」


私と、レナがハモった。

多分、思ってる事は同じだと思う。レナと顔を見合わせて「まさか?」「だと思う。」「自分の事にはニブイ訳?」「そうなんだよ。」と、コソコソ言っていると「何?何よ??」とエローラ。


だって、ねぇ?

これだけ、ねぇ?人の事言ってるのに、ねぇ??


深く、頷き合っている私達を見て怪訝と言うよりは不審な表情のエローラである。

さて、私達から言ってもいいものか。でも、人形出して彼氏が出来ても困るしな…。私シャルムに怒られちゃうな…。いや、まあ怒りはしないか。でも、絶対ピッタリだと思うんだよね………。


「言う?」


レナが私に、訊く。


「そうだね…。まあ、駄目だったらここだけの話にしよう!それなら良くない?」


まあ、シャルムにとっては良くないだろうが知らなければセーフにしよう。だって言わずに彼氏が出来るより、いいよね?

どうやらレナも同意見らしく、「じゃあ………」と言って話し始めた。いや、私が言うより説得力抜群だからね………。


「エローラ。実は、いい人は身近にいるものよ?」

「え?どこに?」

「いや、今はちょっと遠いけど。」


なんか漫才みたいになってるな…。


「だって、シャットには「運命の人」を探しに行ったんじゃなかった?」

「そう、だね?まあ、いればいいなぁとは思ったけど?うーん?」

「心当たり、全然無い?ていうか、エローラの好みってどんな人なの?」


確かにそれは聞いた事がない。なんだか「棒の彼」の印象が強くて、掻き消されてたけどその彼センス以外は合ってたのかな?


「そうねぇ。まぁ、真面目で…浮気しなくて…仕事熱心で…趣味が合う?センスが合う人かな?そんなに厳しくないでしょ?」

「そうだね。」

「まあね。でも意外と難しいのよね。その、当たり前のことって。」

「そうなのよね~、ホント。その彼はさ、真面目だし仕事も頑張ってたし勿論、浮気なんてしそうもなかったんだけど、最後の、センスがね…………。」

「うん、センスがね…………。」


また一頻り笑うと、レナが本題に入った。


「じゃあさ、シャルムは?」

「シャルム?」

「ていうかエローラ、服を作ってあげてたなんて聞いてなかったよ!あの生地良かったよね?」

「そうそう、あれも試作品見て思い付いたんだけどスカートとかでも、暖かそうで売れると思うんだよね。」

「分かる!男性のパンツでもいいよね…。」


「ちょっと!」


あら。

私達がいつものようについつい服談議に入ろうとした所をレナに止められた。いかんいかん、私もシャルムを応援してるんだった。

逆に邪魔をしそうになって反省した私は、シャルムのオイシサをアピールする為に話し始めた。


「でもさ、あれってエローラが「こんなのがいい」って言ったら作ってくれたんでしょう?凄くない?かなり生地も滑らかだったし、もう少し光沢出るように研究してさ、高級向けにもいいしさ、あの薄さなら幅広く使えるから…。じゃ、なくて。」

間違えた。

「やっぱり、趣味も合うと思うよ?あの色も良かったよね。どっちが決めたの?」

「あれはシャルムが「こういう色がいい」って見本を持ってきてくれたの。それもまたいいタイでさ…。」


「ちょっと。結局全然進まないんだけど。」


あら。

レナ様がおかんむりだわ………。

すごすごと引き下がった私は、もう、レナに任せる事にした。そう、多分私が出ていくと脱線するのだ。


「で?どうなの?アリ?ナシ?」

「…………。アリかな…………うん。そう言えばそうね?全然、アリ。」

「ええ?そうなの?………いや、私は嬉しいけど。」


アッサリ、エローラが「アリ」と言ったので驚いたのは、私だった。レナは、すぐに納得した顔をしてエローラの返事に満足して、私の計画をメモしてるし。

始めは「シャルム?」なんて言っていたのにアッサリOKな理由がサッパリ分からない私は、素直にエローラに訊く。


「なんで?なんでアリになったの?」

「そうね。いや、多分好感は持ってたのよ、きっと。でも対象として見てなかった、って言うのが正しいかな…。何だかんだ、ウィールってやっぱり勉強しに行ってたし最初はみんなの雰囲気もアレだったじゃない?恋、って感じでも無かったしね。」


確かに。

始めの頃の休憩室ではまだ酷かったもんな…。

恋愛って感じ、全然無かったもんね。

なんだか私もしみじみしていると、レナが同意し出す。レナは「アリ」なのが分かるようだ。


「結局エローラはお店も継ぐし、条件みたいな所もあるものね?シャルムならラピスの人間だからその辺は問題無いし、業種も合ってる。センスもあの感じだと問題無さそうだし、見た目も悪くない。多分、一途そうだし。正直、ピッタリだと思う。」


…………成る程。全然違う視点で二人が相手を見ていた事に驚いた。やっぱり好きなだけじゃ、やってけない所もあるんだ。特に、エローラはこの店を継ぐ。確かにシャットに行く理由も「店を継ぐから」だった。

いつも「ラピスにはいい男がいない」なんて言ってたから、すっかり忘れてたよ…。

………と、いう事は?


「じゃあ服は出さないで、シャルムが帰って来るのを待つ方向で、オッケー??」


私がちょっと浮かれ気味で言うと、エローラは意外にも真剣だった。


「え?まずはシャルムの意見も聞かないと。人形作ってるか、聞いとけばよかった。」

「え?…………まぁ、そうよね、気付いてないからこうなってるんだものね。」

「そうだね………エローラ、自分の事にニブ過ぎるよ…………。」


真剣にシャルムが受けてくれるかどうか、考え始めたのだ。いや、本気になってくれるのはいいんだけどホンットに何も気付いて無いんだね、うん。


「「シャルムはエローラの事が好きだと思うよ?」」


こればっかりは、レナとハモった。

聞いていた、エローラはパチクリしていたけれど。


「うそ?ホントに?」

「本当のホント。」

「そうだよ?すぐ気が付いたよ?結構前からだよね?ていうか、始めからだと思うな…。」

「そうなの?レナ?」


ちょ、私の意見も結構正解だよ??エローラさん??


そのままレナが、あの時はどうだった、この時は………と色々と説明をしたら、やっとエローラは納得したようだ。

なんにせよ、良かったよ。信じてくれて。


「イスファに手紙でも頼んでおけば?」

「それいい!」


レナがそう提案して、私もすぐに賛成した。多分、エローラに連絡手段は無い。ルシアですら手紙は着かない事もある、と言っていたのでこの機会を逃さない方がいい。

エローラはその提案にしっかり頷くと、そこからモードを切り替えたように私にピッタリ向き直った。


「さ、次はヨルの番。」


や、ヤバい。…………完全に、まな板の上の、鯉。

仕切り直すように私達はお茶を飲むと、エローラはさっきから書いていたメモをテーブルにバン、と出して腕まくりをしたのだった。





そのままあれやこれや、私の当日の出立についての相談が始まってしまった。うう、図案集がっ…。


「お化粧はどうする?」

「そうね………いくら気焔が隣にいるって言っても、そこまで目立たない方がいいと思うんだよね。」

「それある。何しろ、夜はお酒が入るからね…。気焔もなまじ強いから絡まれると違う意味でヒヤヒヤするからさ。じゃあ、大人し目で。」

「分かった。じゃあ色はこんな感じで…。清楚系?」

「そうね。髪は?」

「もう、お下げでいんじゃない?」

「駄目よ。さすがに。だって、服はアレじゃないの?」

「そうね…。じゃあ結ぶ位置低めで…………」


「ちょっと。どこ行くの?」


…見つかった。

いや、いやね?なんだか二人で楽しそうに盛り上がってるからね?私は生地でも見ようかなぁなんて………。

口に出してはいないけど、二人とも私の事なんてお見通しだ。また、レナに引っ張り戻され椅子に座り、髪を梳かされる。「ウェーブにしようかしら?」なんて言いながら色々弄り始めた。

逃げようがなくなった私は、気になっていた事をあれこれエローラに質問する。やっぱり、「結婚」なんてワードが出て来ると気になるに決まっている。一応、私だって女の子だしね?


「ねえ、ラピスだとこのくらいの歳で結婚って、珍しくはないの?そんなもの??」


そんな私の疑問にエローラは「うーん」と少し考えながら答えてくれる。


「そうねぇ。ロランの場合はヨルと結婚の約束がしたかったんだと思うけど。流石に結婚自体は、成人してからって考えてたと思うよ?ヨル、まだ14とかだったよね?」

「うん。そろそろ15かな?って感じ。」


きっちりとした区切りがないラピスの暦だとイマイチ良く分からないのだ。そんな私の返事を聞くと、レナもグロッシュラーのことを教えてくれる。


「こっちも16だけど、ラピスも成人は16なのよね?」

「そう。成人の祭りが春の祭りで、それを過ぎれば結婚は出来るのよ。出来るんだけどね…。」


ああ、うん。そういえば…。エローラは春の祭りに出たくなくて、シャットへの出発を早めたんだっけ。でも?


「大体いくつくらいで結婚する人が多いの?エローラは19だっけ?」

「そう…そうなのよ。19。次の祭りの時には20!まあ、最近は前よりみんなのんびりしてるけどね。でも遅くとも25までには結婚させられるわ…。」


なんだか「させられる」という所が気になったけど、エローラにはシャルムがいる。そこはもう、大丈夫だろう。あまり待たせないようにイスファに伝えなきゃね。


「そっか。なんかびっくりしちゃったからさ。急にハーシェルさんが結婚なんて言葉出すから。」

「ま、それだけ本気って事だったんでしょ。いくら彼氏が出来たって言っても諦めきれるかしらね?」

「それ!ちょっと心配なんだよなぁ。一応ね?ロランの事狙ってる子に「チャンスだ」とは言っといたんだけど。」

「え。何?何それ?詳しく!」


あら。

話の方向性が変わって、また二人は盛り上がり始めた。私はお茶のお代わりを注ぎながら、レナがやってくれた編み込みを鏡で眺める。丁度、いい位置に姿見があるのだ。明日から編み込みもいいな?


「じゃあそれで行こうか。」

「そうね。大丈夫じゃない?」

「じゃあヨル、祭りの日はここに集合ね?」

「ん??」


全く途中から聞いていなかった私は「??」となっていたのだけど、レナがいるから大丈夫だろうと、タカを括っていた。ええ、ただおめかしして行けばいいものだと。はい。




そうしてまだまだおしゃべりをした後お昼ご飯まで頂き、家路に着いたのは赤の時間になろうかという頃だった。ま、朝は完全に途中から寝てたけどね。


「暗くなる前に帰らなきゃ!」


青の街が濃い橙に染まってゆく。

白の道はすっかり赤くて、窓から下がる冬の祭りの飾りも紺と橙に見える、時間。

焦りつつも、レナと夕暮れのラピスを堪能しつつ、長い影を見ながら、帰った。


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