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私の名前は鈴川詩音、21歳の何処にでもいるピチピチの女フリーターである。
人生これから、恋愛もこれからと奮闘していたのだが、それも先程までの話。
変な場所で目を覚まし、イケメン神様(自称)に声をかけられ、「貴女は死にました」と言われる。
死んだ理由は昔お世話になった近所のカルチお姉ちゃん。彼女は神様だったらしく、その時にやらかしたのが原因だそうだ。
そしてそのお詫び?として異世界に転生させてくれると言う話になり、アルさんがカルチを呼び出し、転生についてアルさんが説明しようとした瞬間…
カルチお姉ちゃんがやらかした。
何をやらかしたかって?それは…
ーーーーー
「…やっと光が収まったわね」
お姉ちゃんと私を包む光が徐々に小さくなっていき、完全に光が消える。
辺りを見渡すと、先程までいた白い空間とは打って変わって暗く、石壁で囲まれていて、所々に発光してる水晶が埋まっている洞窟の様な不思議な場所に居た。
私の隣には黒髪の女の子が居り、顔つきがお姉ちゃんに似ていて、雰囲気も何処と無く似ている。だが、中身は別として、お姉ちゃんの見た目は子供ではない。付け加えると、この子みたいにお姉ちゃんの頭にケモ耳なんかついてないし、狐みたいな黒い尻尾も生えていない。
決してお姉ちゃんはこの子の様なロリっ子ケモ耳狐っ娘ではないのだ。
一旦この子の事やお姉ちゃんの事は置いといて、此処は何処なのだろう。お姉ちゃんと一緒に転生して異世界の神様に会う予定だったのだが…もしかしてこの子が異世界の神様?いや、この子の態度からしてそうは見えない。まさか…此処は子宮の中で、この子は私の双子の姉妹とか?流石にあり得ないか。
等とくだらない事を考えながら女の子を見詰めていると、女の子は今更私の存在に気付いたらしく、ビクリと体を震わせて此方を睨む様に見詰めてくる。
そして何かに気付いたかの様にハッとした表情を浮かべたかと思うと、今度は目を泳がせながら口をワナワナと動かせ冷や汗を流し始める。
(なんか、昔のお姉ちゃんを思い出すなー。何かをやらかした時のお姉ちゃんにそっくりだ)
私が昔の記憶に耽ていると、女の子が困惑した様な、怯えた様な顔をしながら私に話しかけてきた。
「…もしかして、し、しお…ん?」
わぉ。どうやら女の子は私の名前を知っているようだ。
「そうよ。あなたは?」
私は女の子の質問に肯定し、名前を聞き返す。
「え…分からないの?いや、その方が都合がいいかも?…でも…ううん」
女の子は私の質問には答えず、顎に手をやりながら俯き、何やらブツブツと独り言を始める。
この仕草…この台詞…何かを誤魔化すときのお姉ちゃんと似ている。と、言うよりも全く同じなのだが…まさかお姉ちゃん?いやまさかね、でも一応聞いてみるか。
「…カルチお姉ちゃん?」
「ギクッ」
「お姉ちゃんだよね?その見た目、どういう事?」
女の子を見詰めると、気持ち悪い程に目を泳がせて狼狽し、何故か口を尖らせて息を吐いている。口笛のつもりなのだろうか。
さらに女の子を見詰めると、女の子は先程とは比べ物にならない程の冷や汗を流し始め、後ろを向くと「オネエチャンジャナイヨ」と、棒読みでそう言う。
先程からの態度、私の質問に対する反応、そして今の台詞…
断言しよう、こいつはお姉ちゃんだと。
「お姉ちゃん、一発殴りたいけどそれは後で、この状況を説明してもらえるかな?」
「うっ…分かってるんじゃん…。説明って言われても…転生するためにアルが言ってた異世界の管理者の所に行こうとしたら、間違えてそのまま異世界に…ヒェッ」
ふふふ、「間違えて」…ね。いきなり変な事をして、「間違えて」ね…。
「ごめんなさい!謝るからそんな怖い顔しないで!」
怖い顔?失礼な奴だなぁ、こんなに可愛い顔してるのに。
「謝らなくていいよ、許さないから。それより説明の続き」
「ええ!ひどごめんなさい何でもないです。えっとね、どこまで話したっけ?えっと、転生に失敗して、この世界に直接飛んじゃったの。で、魂だけでこの世界に来ちゃったんだけど、多分この世界の管理者がこの体をくれたのかな?そのお陰で無事にこの世界にいられるんだけどね。だけど急遽用意した体だからかな?子供みたいな見た目だし、人じゃないしでどうなってるのかな…」
長い、そして意味が分からない。最後の内容に関しては意味を分かりたくもない…。
「ごめん、長いし色々意味が分からない。まず、その管理者って何?」
まずはこれ、アルさんも説明の途中で口にしていた単語だ。大体想像はつくけど一応聞いておこう。
「神様」
あっはい、そうですよね。分かってましたよ。
だけど管理者か…アルさんは神みたいなものと言っていたが、お姉ちゃんは神だと言っているし…まぁ、私からしたらどちらでも同じか。
「あぁそう…。それでその管理人が体をくれたってこと?」
「そうだと思う。魂だけだと私達じゃこの世界に存在出来ないからね」
え…それってヤバイんじゃ…最悪、魂消滅とかあり得たんじゃ…?止めよう。深く考えるのは止めよう。
「そ、そう。それで一番気になってるのだけど、人じゃないってどういう意味?」
「えっとね、多分だよ?多分だけどこの世界で言う魔物みたいな体になってる…と思う… 」
は?魔物?魔物ってあの魔物ですか?ゲームだと人間の敵として出てくるあの魔物ですか?転生物で魔物に転生する話とかあるけど私がそうなるとは…。
これお姉ちゃんが余計な事をしなければ、多分人として生まれてたんだよね…。いや、この世界では魔物と仲良くしている可能性も…無いよな、アルさんもああ言ってたし。
「魔物ね…でもお姉ちゃんは魔物って言うより狐の獣人みたいな見た目してるよね。動物の耳に狐の尻尾とか羨ましいよ」
「え?あたしってそんな見た目なの?確かに尻尾や耳の感覚はあるけど…狐なのか。詩音は…あんまり変わらないね、小さい頃にそっくり。でも、髪の毛が水色ってのと、巻角が付いてたり、顔つきも少し違うから変わってはいるかな?」
いや変わりすぎでしょ、なに巻角って…。
動揺しつつも自分の頭を触と、こめかみの上辺りで何かが手に当たる。
ソレが何か確かめるために手全体を使い隅々まで触る。
拳くらいの大きさで、ツルツルしていて、等間隔に段差の様に線が入っていて、渦巻き状をしている。
(なにこれカタツムリ?キモッ…)
顔つきは見れないから分からないが、髪の毛は確かに水色だ。正確には銀色に水色が混ざった色。しかもすごく長い。
前髪は普通の長さだから気付かなかったが後ろ髪は腰まである。座った時に地面に髪が付きそうだ。
「これ、家族が見ても私だって分からないでしょ」
「そうかな?可愛いよ」
そう?やっぱり?って違うそうじゃない。いや可愛いのは認めるけど。
「話を戻すね、転生に失敗したのと、体の事は分かった。だけどここどこ?何で私達は洞窟みたいな場所にいるの?」
そう聞くとお姉ちゃんは頭を傾ける。
「それはあたしにも分からない。管理者が私達の体を作るのに都合がいい場所だったとかかな?」
分かんないのか。でも魔物として体を作るならこういう場所がいいのかな?如何にも魔物が出てきそうな場所だし。
「そう、でもこんな洞窟の中でも目が見えるのは嬉しいわね。水晶が光ってると言っても明かりは小さいし、普通なら何も見えないんじゃないかしら」
「だねー。魔物だからかな?」
そう、暗闇でも目が見えるのだ。それだけじゃない、聴覚や嗅覚も前よりよくなった気がする。といっても周りに物がないからあまり分からないが。
そして何か不思議な力を感じる。周りの空気や、自分の体の中に感じたことのない不思議な何かを。
「魔物で思い出したけど、私達って魔法使えるの?アルさんに説明してもらってないのだけど…」
「うーん、使えると思うけど…うむむむむ…」
そう言うとお姉ちゃんは両手を前に伸ばして唸る。
「何やってるの?」
嫌な予感がする。先程から感じている空気中の何かがお姉ちゃんの手に集まっていく感覚がある。
少ししてお姉ちゃんの手の前に火の玉が現れ、段々大きくなっていく。
これあれだ、光の玉と同じものだ。止めないとまたヤバイことになる。
「ちょっとま」
私が声を掛けた瞬間、大きくなった火の玉が強く光った。
私はとっさに体を丸めて守りの体制に入る。すると周りの何かも私の周りに集まってくる。
そして、周りの何かの動きが穏やかになり、火の玉は大爆発した。