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剣なんか嫌いです。  作者: 月風レイ
2/9

剣奴落ち

「おい、お前! あそこ見てみろよ!」

「な、なんだよ……って、なんだよあれ……」


 商人の格好をした男性たちが山の方を見て驚いている様子。


「火を纏った龍なんて聞いたことねぇぞ……」

「あぁ、俺もだよ……」


 商人たちの視線の先には火を纏って天に駆け上がって行きそうな巨大な龍。


「あっ……消えちまったな……」

「あが、そうだな……」


 商人たちが眺めている先に火を纏った龍が突如出現した思えば、すぐにその姿は消え去って、見えるのは立ち上る煙筋が一本だけ。


「なぁ……あそこ行ってみねぇか?」

「はぁ! お前何言ってんだよ……危険すぎるだろ……」


「いやいや……俺は金の匂いがするぜ」

「またそれかよ……前もお前はそうやって駆けつけて行って死ぬかけてたじゃねえかよ……」


「それとこれは別だ……今回はマジだ……今回は俺の勘がビンビンとしてやがる……」

「いや……俺は嫌だぞ……絶対に関わるべきではない……」



「そんなことを言うなよ……ダメそうだったらそのまま逃げればいいだろ?」

「いやぁ……お前は少し楽観的すぎるんだよ……だからいつまでもお前は貧乏商人なんだよ……もっと冷静に頭を使えよ……」


「そうだけどよぉ……好奇心ちゅうもんには抗えれないものなんだよ……」

「好奇心旺盛ならもっと勉強しやがれよ……この貧乏商が……」


「うっせぇよ……お前も人のこと言えんだろ。貧乏奴隷商めが」

「ハハ。何言ってんだよ……最近は奴隷はかなり高く売れるんだぞ? 特に闘技場に出せそうな奴はかなりの値がつく」


「ま、マジなのか? 確かに最近はお偉いさんたちは闘技場にハマっているらしいしな……ちなみにどれくらいなんだよ?」

「まぁ、最近の傾向からすると強そうな奴じゃなくて、弱そうなやつを闘技場に出して惨たらしく殺すのがが流行りらしくてな……だから小さな子供とかは結構高く売れるぞ。

子供だと大体、100,000セリスくらいじゃねえか?」


「マジかよ? めちゃくちゃ高いな、それ……でも、それってかなり酷ぐねぇか?」

「まぁな……貴族様たちが考えてることは理解できんよ……でも、俺らみたいな低俗が真向から歯向かうこともできんからな……」


「まぁ、そうだよな……俺たちもこれ以上貧しくなって借金を抱えるようになったら奴隷行きになるからな……」

「そうだな……」


「まぁ、そんなことはいいとして……あそこに行ってみねぇか?」

「……まぁだ。仕方ねぇ……でも、金目のものがあったとしても分け前は半分ずつだからな?」


「あったりめぇよ! じゃあ、行こうぜ!」

「あぁ! って、お前が先に行けよぉ!」


「…………いやぁ」

「なんだよぉ。お前ビビってんのかよ、お前が先に言い出したんだからなぁ……」


「あぁ……わかったよ……」

「んったく、情けねぇやつだな……」


 貧乏商人たちが山を駆け上り煙柱が立っているところに向かって歩いていく。


「ハァ。ハァ。ハァ。もう無理だぁ……」

「おいおい……お前、本当に情けねぇなぁ……あと少しだろ?」


「ちょっと休憩だ……」

「なんだよぉ……お前が行かないなら俺が先に行くぞ?」


 と、貧乏奴隷商が抜け駆けする形で……

 煙が立っている場所へと向かう。


 と、そこには……


「なんだよ……こんなサイズのジャイアントベアなんてみたことねぇぞ……」


 こいつおそらく4mは超えてるな……

 こいつの皮は完全に焼けてしまっているが、肉と骨だけでも1,000,000セリスは稼げる。

 1,000,000セリスもあれば1年間は何もせずに遊んで暮らせるぞ……


「とりあえず、こいつを消火しておかねえとな……」


 貧乏奴隷商は自分の上着を近くの小川で濡らし、ジャイアントベアから出る火を消そうとするのだが……

 

「ちぇっ……しぶとい奴め……」


 と消火に苦労していたところ


 バシャン。


「ふぅ……これでいいか?」


 さっきまで一緒に来ていた商人が体力を回復させたのか、どこで拾ったのか樽に水を汲んでおもっきり煙が出るジャイアントベアに水をかける。


「あぁ。サンキューな……それにしてもこいつデケェな……」


「あぁ。だから言ったろ? 金の匂いがするって! これ普通に売ったらどれくらいになると思う?」


「あぁ……そうだなぁ……低く見積もったとしても1,000,000セリスはあると思うぜ?」


「やっぱりお前もそう思うか?」


「あぁ、それにしても、——————

ん!? なんだこれ?」

「ん……どうしたんだ?」


「おい! これを見てみろよ……」

「あぁ!? はっ!? なんだこいつ……」



「ガキだな……どうしてこんなところに……」

「さっきこの場所に火の龍がいたよな?」


「あぁ、そう言えばそうだったな……じゃあなんでこのガキは火の龍に殺されたのか?」

「いやいや、違うぜ……よく見てみろよ……こいつまだ死んじゃいねぇ……」


「本当だ……生きてやがる……所々火傷が目立つが……」

「あぁ……でも、このガキなら売れるよな」

「ああ、それもさっき言った通り100,000セリスはあると思うぞ?」


「マジかよ……確かにこいつ男にしては小柄だし、可愛い顔してんな……」

「だろ? お偉いさんたちはこう言う少年が好みなんだよ……残酷なもんだろ?」



「あぁ、でも、やっぱりこんな子を売るのは俺にはできないな……うちにも同じくらいの息子がいるし……」

「まぁな……でも、生きていくには仕方がないことだってあるんだよ……」


「まぁ……とりあえず、この少年とジャイアントベアを運ばないとな……」

「あぁ。そうだな……」


  ⭐︎


 なんだかすごく体が揺れている気がする……それにどうしてか身動きが取れない……

 けれどどうしてかわからないが奇跡が私に起きたことを感じた……


「わたし……生きてる……」


 わたしは自分がまだ生きていることを認識して、絶望の淵に至ったのに死んでいないことに感動するのであった。


 わたしはすっと起き上がり周囲の状況を確認してみる。

 と、わたしが目にしたのは、


「ギィぁぁぁぁぁああ!」


 私のすぐ隣にわたしを殺そうとした巨大な熊が皮は焼き尽くされ、骨が丸出しの状態で置かれていたのだ。

 わたしはあまりの恐怖のあまり甲高い絶叫を上げてしまった……

 で、わたしは跳びのこうとするのだが……

 どうやら思うように体が動かない……

 と、よく自分の体を見てみると、


「え!? なにこれ……手錠? 足枷!?」


 私は首には首輪のようなものがつけられ、手は手錠で縛られ、足には足枷がつけられて動こうとしても動けない……


「どういうこと……それに体が痛い……」


 と、徐々に意識が蘇り、痛覚も戻ったようで、自分の腕や足が炎によって焼きただれていることに気づいた……


「やだ……こんなの……ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ」


 何者かに体の身動きを奪われていて、なぜかはわからないが肌が焼け爛れてボロボロになっている……

 よく確認してみると髪までも燃えてしまっていて、側から見たらわたしは女の子なんかに見えず、少年のような姿だった。

 頭をそっと触ってみると、ところどころ燃えて禿げてしまっている……


 なんなのよこれ……


「こんなの……ヤダ……ヤダヤダ……ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダ」


 と、あまりにも残酷な状況に陥ってしまった。生きていたのは幸いかもしれないけど……

 こんな風になるくらいなら、いっそのことあの時死んじゃえばよかった。


 お父さん……これが本当に訓練だなんていうの……本当にこれが……剣凪流の特別な訓練だっていうの……

 どうなのよぉ……

 答えてよ……お父さん……


 と、前の方から男の人が怒鳴るような声が聞こえてくる。


「おい! ガキ、うるせぇぞ! 黙ってろ!」


 ガキ!? って、わたしのこと? それに、わたしな今まで全然気づかなかったけど、なんでわざわざ馬車になんか乗ってるの……

 それになにあの格好……めちゃくちゃダサい……



 あっ……なんだ……そういことだったんだ……

 わたしの胸の中で何かがストンと落ちたような感じだった。


 突如、フラッシュバックしてくる香織との会話。


 ————はぁーあ! 本当に他の世界に行けたりなんかしないかなぁ……


 ————うん……本当にそうだよね……まぁ、それは物語の中の話であって、現実ではありえないよね〜


 わたしが答えを出そうとした時、前にいる男がヒントを当たえてくれるようで、


「おい、ガキ! お前は今から奴隷として売り飛ばす!」


 やっぱり、ここは私の知っている場所じゃない……

 私の知ってる場所はこんな大きな熊はいないし、こんなダサい格好もしない、それにわざわざ自動車より遅い馬車なんかに乗ったりしない、それに奴隷制はもうとっくの昔に消え去った。


 じゃあ、ここは私が住んでいた世界とは違う世界。


「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 今日1日でいろんなことがありすぎた……

 道場で寝ていたと思えば、洞窟へと転移させられて、熊に襲われるという絶望な状況に追い込まれ、何故か火傷を負い、肌はボロボロで、さらに追い討ちをかけるようにしてわたしは異世界の商人と思われる人に捕縛され、売り出させる……


 もう悲し悲しすぎて、涙も全然出てこない……

 出てくるのは壊れたみたいに、狂った笑い声。

 ハハハ。異世界なんて……全然嬉しくない……

 これなら剣凪流を極めてたほうがよっぽどマシだよ……


 ねぇ……どうしてなの?

 わたしが異世界に行きたいなんて思ったから、わたしは連れてこられたの?

 どうなの……答えてよ……

 私には女の子として生きてる価値なんてないよ……

 誰がこんなボロボロのわたしを貰ってくれるって言うの……

 現代で奴隷制を導入してもわたしを貰ってくれる人なんていないだろうに……


 殺してほしい……

 どうせなら殺してほしい……

 自分は臆病だから自決はできない……

 だからわたしを殺して、お願い……



 そして、そんな絶望に浸りながらわたしはある場所に連れてこられた……


「おい! ガキ! 降りろ!」


 と、乱暴に私は引っ張られる。

 わたしはもう生きる気力もなくしてしまい、黙ってその男についていくとにする……


 と、外に出てわたしが目にしたのは……


「コロッセオ……!?」


 そこは世界史の教科書で一度見たことがあるコロッセオみたいな形をした建物だった。

 わたしはそのままその建物の中へと連れてかれる。


 中に入ると、埃臭くて汗臭くて黴臭い臭いが漂っていた。

 

 部屋は鉄格子で分けられていて、そこにはわたしと同じように連れてこられたと思われる奴隷の人たちがたくさんいた。

 あるもの絶望に染まっていて、あるものは復讐心に染まっていて、とても居心地の悪い空間だった。


 そして、わたしはある部屋へと連れてこられた。

 こちらも鉄格子で区切られていて、中には奴隷らしき人が1人いた。

 壁にもたれかかるように座っていて、わたしが入る時、彼がわたしの方をチラリと見た。

 外見から判断するとおそらくわたしと同い年くらい……

 彼は切れ長の瞳をしていて、鼻筋も通っていて、唇も薄く端正な顔立ちをしていた。

 わたしはそんな彼をみて、一瞬鼓動が高まるのを感じた……


 わたしはこの時は知らなかった……わたしがこれから生き残りをかけたデスゲームに参加させられるということを……


 





 



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