表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/38

第9話「驚きのミーティング」

 本日の2試合目。

 試合の相手は富久少年FCだ。

 富久は毎年、馬少と優勝争いをしているチームで、僕たちにとっては格上の相手なんだ。

 これは気合をいれなくちゃ!


「みなさん!練習してきたことを出し切ってください!」

「「「はい!」」」


 と、威勢よく試合はスタートしたものの、6対2で負けちゃった。



☆☆☆



 5月5日、日曜日。

 今日は朝から公民館でミーティングという名の反省会だ。

 

 たんぽぽちゃんのお父さんは、僕たちのチームの父兄にも声をかけているらしく、ほとんどみんなのお父さんとお母さんも来ていた。

 あれはお姉さんかな?

 ちょっと怖い…健介くんと一緒にいる美人のお姉さんは誰だろう?


 昨日の試合はビデオに撮ってあり、それをみんなで見ながら、反省をするらしい。

 これまでは、前日の試合で失敗したところを監督が覚えていて、それを重点的に練習する、という感じだったんだけど、たんぽぽちゃんのお父さんは、ビデオで見て確認するようにしたいらしいんだ。



☆☆☆



「では、みなさん!ビデオをみますよ!さて、誰のから見ますか?」

 誰のから?

 ちょっと意味がわからない。

 誰のって言われても…


「そうですかー。みなさん、謙虚デスネ!では、一番シュートを入れた、こじろう君から見ましょうか」

 ええ?僕から?

 嫌だなぁ。

 僕は昨日、沢山シュートを決めたんだけど、沢山シュートを外したんだ。

 それに相変わらず、ディフェンスは下手っぴで、沢山ドリブルで抜かれた。

 

「では、こじろう君のハイライトを始めますよー」

 と、失敗ばかりを気にしてたんだけど、たんぽぽちゃんのお父さんが映したビデオは、僕が試合で活躍したシーンしか流さなかった。


 そして、ところどころ、映像をストップして、みんなに開設を入れている。


「オーウ!このタイミングで前に出るのは素敵デスネー!」

「ワーオ!みなさん、見て下さい!ボールをもらって、シュートをするまでの、このドリブル!まさにロナウドじゃありませんか!」

「ゴーーーーーーッル!素晴らしいシュートです!」

「はぁー。凄かった!この、こじろう君のハイライトビデオをyoutubeに貼って置くので、後でもう一度見て下さい!」


 僕の予想は大きく裏切られ、失敗したシーンは全く映されず、良かったシーンをただ流して褒め称えてくれるだけだった。


 そして、たんぽぽちゃんのお父さんから、最後に一言。

「こじろう君、これからも、良いパス、良いドリブル、良いシュートでチームを勝利に導いて下さい!」

「はい!」

 としか言えないよ。




「ふふっ。では、次は誰にしましょうか?あ!由香里ちゃんにしますか?」


 その後も同様に、たんぽぽちゃんのお父さんは、みんなの活躍シーンを集めた、ハイライト動画を編集していて、ここが良い!あそこが良い!というのを少し大袈裟に解説していた。

 たんぽぽちゃんのお父さんにかかれば、そんなに活躍していなかった、初心者の健介君やゴールキーパーの豪でも、大活躍をしたように思えるから不思議だ。


「健介君の切り替えしが良いよね!ちゃんとディフェンスに回ったら、ラインまで戻っているし、パスが回ったら積極的にボールを奪いに向かっている!ほらっ!健介君の切り返しで良さで、相手が失敗したね!健介君はまだサッカーを始めて間もないけど、抜群の感覚を持っているネ!」

 これだけ、褒められたら、いつも無表情の健介君も笑顔になっている。

 それに、険しい表情をしていた健介君のお姉さんも「あんたけっこうやるのね」と言って健介君の肩を抱いて喜んでいる。


「健介君のお姉さん!健介君は素晴らしいです!このままチームに入ってもらえないですか?」

「あら…やだ。私、母親です」

「え?お若いからてっきりお姉さんかと思いました」

「ほんっと、外国の人はお上手ね。チームに入るかどうかは、健介が決めることですけど、もう決まってるんでしょ?」

「うん」

 こうして、健介君は仮入部ではなく、入部することになった。



☆☆☆



 その夜。とあるおでん居酒屋。


「たんぽぽちゃんのお父さん、朝も一緒だったのに、夜もお呼びしてしまって、すみません」

「いえいえ。誘って頂いてアリガトウゴザイマス」


「いや。賭けはあなたの勝ちです。まさか1ヶ月も経たないのに、こんなにチームが強くなるなんておもっていませんでした」


「強くなっていませんよ」

「え?」


「チーム自体はまだ強くなっていません。すでにあなたが強いチームを作っていたので、昨日はそれを表に出しただけですよ」

「どういうこと…なんでしょうか?」


「このチームは元々強かったんです。あなたという素晴らしいコーチがいて、こじろう君や達也君や、雄二君…みんなどこのチームに行ったってレギュラーになれる選手だってことは、あなたもわかっていたでしょ?」

「はい…でも、勝てなかった」


「そうですね…そうなんです。このチームは上手くなることを目的としていたのです」

「え?今は違うのですか?」


「今のチーム目標はロナウドです。といったら、抽象的になってしまいますね。本当の目的は、前も今も変わらず、子供たちがサッカーを通じて成長することです」

「そうですね」


「そこは同じですので、その手段を変更しました。これまでは、【サッカーが上手くなること】が子供たちの成長とされていたのを、【サッカーで試合に勝つこと】にシフトさせてました」

「ん?どういうことでしょう。サッカーが上手になることと、勝つことは同じではないのですか?」


「はい。明確に違います。んー。例えば、パンチ力が強いボクサーが必ず勝つのでしょうか?」

「いえ。パンチ力だけでなく、テクニックやスタミナなどが影響するので、必ず勝つとは限らないと思います」


「はい。私もそのように思います。では、サッカーが上手い子たちが必ず試合に勝つのでしょうか?」

「んー。そうなのではないでしょうか…」


「そうなんですよ。まさにそう!サッカーはそう錯覚させるスポーツなのです」

「錯覚…ですか?」


「はい。それは錯覚です。現に私達もみたでしょう?由香里ちゃんのあの素晴らしいシュートを」

「たしかに。由香里ちゃんはサッカーを始めてまだ1ヶ月も経ってないのに、シュートを決めました」


「では、由香里ちゃんは、相手チームの少年よりサッカーが上手かったのでしょうか?」

「いえ…そう言われれば、そうかもしれません」


「そうです。私はサッカーの上手さと勝敗は、必ずしも一致しないと考えています」

「うーん…恥ずかしながら、そのようなことを考えたことはありませんでした…」


「ええ。だからこそ、私はヘッドコーチを依頼したのです。しかし、私はコーチングは出来ません」

「まさか、全く勝てなかったチームを勝利に導いたんですよ?」


「それはあなたの力です。あなたのコーチングが実ったのです」

「たんぽぽちゃんのお父さん、そう言って私も成長させようとしているのですね…本当にあなたは凄い人だ…」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ