第3話「チームの定義」
4月14日。
試合翌日、日曜日の9時に公民館に行くと、チームメイトのお父さんやお母さんたちもビデオ鑑賞会に来ていた。
僕はちょっといやだなぁ。と思っていた。
だって、僕が相手チームの選手にドリブルで抜かれたところとか、シュートを外したところを怒鳴られるのはわかっていたから。
☆☆☆
たんぽぽちゃんのお父さんは試合のビデオを見る前に、ホワイトボードに「心・技・体」と書いて話し始めた。
「選手のミンナ、お父さん、お母さん、今日はお忙しい中、お越しいただいてありがとうざいます。こじろうくんのパパと一緒にヘッドコーチを務めることになったアンダーソンです」
たんぽぽちゃんのお父さんの迫力にビビったのか、みんな拍手をしている。
「ありがとう。ありがとう。ミナサンに伺いたいのですが、このチームは何のためにあるのですか?」
ん?サッカーをするためじゃないの?
「わかる選手はいませんか?手を上げる必要はありません。わかる方はおっしゃってください」
「サッカーをするためでーす!」
お調子者の「雄二」がそう答えた。
「おーう。君は、雄二君だね。オッケー。サッカーをするため」
たんぽぽちゃんのお父さんはホワイトボードに「サッカーをするため」と書いた。
「他には?うーん。ご両親でも構いませんよ」
「サッカーを通じて、成長するため…でしょうか?」
「おお。あなたは?」
「剛の母です」
「剛君のお母さんですか。サスガです。もうこれが答えですね!」
たんぽぽちゃんのお父さんはホワイトボードに「サッカーを通じて成長するため」と書いた。
「雄二君、君の好きなサッカー選手は誰だい?」
「ロナウド!」
「スペインのクリスティアーノ・ロナウドだね?それはどうしてだい?」
「サッカーが上手いし、子供にも優しいし、それに頭もいいんだ!」
「パーフェクト!雄二君以外にロナウドが好きって選手はいるかい?」
みんなが手を上げた。
「凄いね!ロナウド!」
たんぽぽちゃんのお父さんはホワイトボードに「ロナウド、サッカーが上手い、子供に優しい、頭がいい」と書いた。
「オッケー。じゃあ、このチームの目標はロナウドになる!でいいかな?」
はい?全然意味がわからない。ロナウドになる?なれませんよね?
「おっと。ちょっとわかり辛かったよね。ロナウドみたいに、サッカーが上手くて、優しくて、頭がいい人になるってことでいいよね?」
ああ。なるほど。それはそうでしょうよ。
「いい人は拍手をお願いします!」
みんなが拍手をした。
「では、1つ目。サッカーが上手いってどういうことだい?」
「ドリブル、パス、シュートが上手いことだと思います!」
一太がそう答えた。
「一太君だね。ありがとう。そうだね!サッカーって技術が重要だよね」
そういって、初めにかいた「技」に赤丸を付けた。
「あ。体力も入ります!」
「一太君、鋭いね!体力も必要だね。最後は?」
「こころ…ですか?」
「そうだね。負けてても、逆転するぞ!って気持ちが大事だよね。ロナウドは諦めるのかい?」
「諦めません…」
「なら、心は重要だね」
「じゃあ、ビデオを見る前に、みんなに出してもらった意見をまとめるよ。まず、このチームはロナウドになるんだね。そのためには、サッカーを上手くなるんだ。サッカーが上手くなるというのは、パスやシュートの技術があって、体力があって、心が強くなることを言うんだね」
たんぽぽちゃんのお父さんは、さっき書いた文字を指さしながら話す。
「まだあるね?優しくなるんだね。これはサッカーをしている時以外にも、出来るね。困っている人がいたら、優しくするんだよ。それがロナウドってもんだろ?」
そういって笑ったたんぽぽちゃんのお父さんはかっこよく見えた。
「最後に、頭がいい人になるんだね。ならテストの点数が80点未満なら試合に出られないってチーム内ルールはどうだい?」
「え?でも、それってサッカーと関係ないんじゃ…」
「え?あるよね?ロナウドは頭がいいんだから。サッカーを通じて成長するには、頭がいいというのは絶対条件なんだよね?間違ってるかい?」
「間違ってません」
と、誰かの父親が答えた。狡猾な父親だこと。
「よーし。ここまでを踏まえて、ビデオをみよう!」
☆☆☆
試合のビデオを見たんだけど、たんぽぽちゃんのお父さんの指導は予想外だった。
僕のお父さんとは全くの逆。真逆だった。
「こじろう君のシュートはいいね~!」
「達也くんのパスはヨーロッパでも通用するよ!」
などなど、チームメイトのいいところをひたすら褒めまくった。
そして、最後に衝撃の発言が…
「来週までにチームメイトを16人に増やせナイデショウカ?」
「「「「「えーーーーっ!」」」」」
【古宿少年サッカークラブ】
こじろう:5年生。運動神経が良くドリブルとシュートが得意。ディフェンス全般は苦手。
達也:5年生。パスが得意。足が遅くドリブルが苦手。
雄二:5年生。体力バカのお調子者。ボールを蹴るのが苦手。
剛:5年生。なんでもそこそここなすタイプ。
豪:5年生。ゴールキーパー。でかい。キック力がある。
一太:4年生。サッカーは上手いが、軽い喘息持ちで体力がない。
拓海:4年生。キック力があるが正確性にかける。
【仮入部】
たんぽぽ:運動神経抜群の女の子。サッカーは初心者。
希:ピアノが得意な女の子。運動音痴で、サッカーは初心者。
由香里:水泳が得意な女の子。足は速い。サッカーは初心者。