第27話「なんとかなるもの」
午後の試合も問題なく勝利を収めた。
たんぽぽちゃんのお父さん曰く、「私たちの作戦が通用することが示されましタネ」と言っていた。
そうか!
練習試合は、練習で作戦とかテクニックを試す場だって、言ってたな、たしか。
☆☆☆
7月1日月曜日。
暑い。完全に夏だ。
いつもの朝学習が終わり、一日が始まる。
僕のクラスでは、事件が始まっていた。
5年生が始まって以来、初めての萌ちゃんの登校だ。
萌ちゃんは登校するにあたって、かなり身構えていたようだが、特に何も起こらなかった。
ちょっと長期に休んでいた、それだけだ。
萌ちゃんにしてみれば、健介に合わせる顔がない、って思っていたのかもしれないが、健介自身は怒っているわけではなかった。
つまるところ、ボタンの掛け違いだったのだ。
萌ちゃんが学校を休み続ける意味がなくなってしまった。
だが、心の動きは違う。
久しぶりに学校に行くのは怖い。
クラス替えも終わっているので、違う面子なのも、怖い。
だけど、その中に仲間がいる。
真子だ。
ほんの一日前、知り合った真子と萌だが、二人の親和性は高い。
一方は、今年、転校してきたばっかりのちゃきちゃきのスポーツ少女。
もう一方は、不登校だった、おっとりフェロモン少女。
真逆であるが故に、お互いに嫉妬もなく、尊敬しあえる。
なんといっても、サッカーという共通項が二人の絆を支える根拠となっている。
萌ちゃんが登校して、焦ったのは、隆二と陽介だ。
らら、るるね、キラリの3人の女子に唆されたとはいえ、萌ちゃんのおっぱいを揉んでしまった。
嫌がる萌ちゃんを無理矢理。
その後、萌ちゃんは不登校となったから、誰も知らない事実だが、ついに知られるんじゃないか?
あの時は、らら、るるね、キラリの3人が、自分たちの罪を全て健介に擦り付けてくれたが、その3人とも違うクラスになった今、もう守ってくれないんじゃないか?
二人は、戦々恐々としながら一日を過ごすこととなった。
☆☆☆
お昼休み。
真子は萌ちゃんに作戦を教えている。
「パス、パス、ドリブル…シュートの動きをするって決めとんねん」
「へー。勝手に動いてるんだと思ってた!サッカーってけっこう戦術スポーツなんだぁ!」
「うーん。うちのチームが特別かもしれへんわ。まあ、作戦を覚えな、練習についてかれへんから、覚えてまいっ」
「うん。ありがとう!土曜日までには覚えるね」
「うん。動きさえ覚えてまえば、細かいテクニックは練習で教えたるわ」
健介くんのお母さんの言っていたことって本当かな?
小学校の友達は、進学したらそれまでだ、って言ってけど、真子ちゃんたちとはずっと友達でいたい。
でも、一つだけは、絶対に事実だ。
イジメだって、不登校だって、無視だって、なんとかなるものだ。
☆☆☆
7月6日土曜日。
今日は公民館でビデオミーティングだ。
ビデオを観ながら先週の試合を振り返って反省するのだ。
たんぽぽちゃんのお父さんのプレゼンテーションから始まる。
「チームのみなさん!そして、お父さん、お母さん、お忙しい中、今日はお集り頂きありがとうございます!
父兄たちがたんぽぽちゃんにパチパチと拍手をする。
「では、新しいメンバーも入ったので…改めて、こじろうパパと一緒にヘッドコーチをしています、アンダーソンです。まずは、チームの定義から確認したいと思います。では、こじろうくん!このチームの目標をお願いします!」
「え…えーっと、ロナウドになる、です」
「そうですね!我が古宿少年サッカーチームの目標はロナウドになることですね!新加入の萌ちゃん!意味がわかりますか?」
「ロ…ロナウド…になるんですか…わかりません」
「ですよね!では素晴らしいゴールを決めた真子ちゃん!ロナウドになるということはどういうことですか?」
「はい!サッカーが上手く、人に優しく、頭が良くなることです!」
「真子ちゃん、よく覚えてましたね!では達也くん!サッカーが上手い、とはどういうことですか?」
「はい!短く言ってしまえば、心技体です。負けない心を鍛え、サッカーの技術を高め、体力をつけます」
「そうですね!テクニックだけではサッカーは上手くなりません。心と体も必要です。では、人に優しく、と頭が良くなる、について、正人くんお願いできますか?」
「はい。人に優しく、はサッカーの時だけじゃなく、困っている人は助けます。頭が良くは、学校のテストの点数が80点未満だったら、練習に参加できません」
「いいですね!完璧です!では、もうビデオをみましょうか!」
「「「はい!」」」
うちのチームのビデオミーティングは、もう自慢大会だ。
たんぽぽちゃんのお母さんが撮ったビデオを、各選手毎に編集しyoutubeにアップしている。
それを大画面で流しながら、「凄い!凄い!」と言って、盛り上がる会なのだ。
正直、めっちゃ楽しい。
自分が滅茶苦茶凄い選手のような気になってくる。