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第25話「カッコ悪いサッカー」

 ハーフタイムが終わり、両チームの選手がフィールドに戻ってくる。


「やった!見て!健介のやつ、後半はスタメンだ!」

 健介くんのお母さんがガッツポーズで喜んでいる。

 

 私は、今日、お母さんに誘われて、サッカー観戦にやって来ている。

 私が不登校になった原因、それは健介くんを裏切ったから…なんだけど、いつの間にか健介くんのお母さんは私と仲良ししてくれている。


 私は、クラスのみんなから無視され始めてから、小説ばかりを読むようになった。

 だって、小説を読んでいる間は、私は主人公でいられるから。

 

 それは不登校になってからも続いた。

 小説を読んで、主人公になる妄想をする。そうすればいつだって幸せだった。


 でも「何か違うなぁ」と思い始めた。

 そして、サイドラインからサッカーを見ていてやっと気付いた。

 部屋の中で小説をいくら読んでも、私は主人公になれない。

 でも、でも…どうやって…


「ねえ?萌ちゃん。健介ってちょっとカッコよくない?」

 健介くんのお母さんが、健介くんを指差して、言ってきた。

「え?」

 

「ほらっ。見てよ。相手チームの子、ムカつくくらい涼しい顔してサッカーやってんのに、健介のやつ、あんな一生懸命にボールを追いかけてるのよ?ふふっ。我が子ながらカッコよくなったわー」

「はい…」


「いや、私、サッカーって嫌いなのよ。うーん…いや、サッカーが嫌いじゃないなー。あ、サッカーをやってる男子って嫌いなの。なんか、サッカーをやってるってだけでカッコ付けたがるじゃない?」

「あ…ちょっとわかる気がします…」


「あ?萌ちゃんにもわかる?やっぱ、小学生のうちからそうなんだ。サッカー少年って。ほらー。あれ、敵チームのあいつとあいつ。上手いんだかなんだか知らないけど、負けてるくせに、俺からボールをとってみやがれ、みたいななんだか人をおちょくってるみたいな感じ出してるじゃない?あーいうのが嫌いなのよね」

「ぷっ。ふふふ。わかります!上手ければ上手い人ほどそうですよね」


「そうなのよ!そう!あーいうのがカッコ良いと思ってんでしょうね!はぁー情けないわ」

「健介くんは全然違いますもんね!」


「でしょ?あ!あの涼しい顔したやつから、ボールを奪ったわよ!うわっ!パスした!けっこうキック力あるじゃん!うわー走ってる走ってる、元気ねー!え?シュート!あー…外れたー…」

「交代しちゃいましたね」


「サイドラインでも、他の子たちと拳を合わせたりして。もう、私が知らない内に、あいつったらどんっどんっ成長していっちゃうわ!」

「楽しそうですね」


「ええ。楽しいわよ!あいつ、大人しいけど、芯は強いみたいだし、私がこんな適当な感じでも、なんとかなってるもの」

「なんとかなるもの…ですか…私、学校に…」


「あ。ごめん。知ってるわよ。4年生の時、健介と同じクラスだったもんね。あなたのことは、参観日で見て、同じクラスに可愛い子がいるねーって思ってたから、覚えてるもの」

「あの…私、まだ学校に行ってなくて」


「大人がこんなこと言うもんじゃないんだけど、小学校と中学校なんてどうでもいいわよ。勉強はしてるの?重要になってくるのは高校と大学だから、勉強さえしてたら、今は別にいいんじゃないの?あ。私が言ったって言わないでね」

「え?小・中学校は重要じゃないんですか?」


「重要じゃないわよ。だって、小・中学校なんて、たまたま近所に住んでるのが近いってだけで集まったコミュニティじゃない。小・中学校で友達だと思ってる子たちなんて、高校に入ってからは他人に戻るわよ」

「ええ?本当ですか?」


「帰ってお父さんとお母さんに聞いてみなさいな。いるでしょ?萌ちゃんのお父さんとお母さんにも友達が。その人達と出会ったのっていつ?って聞いたら、ほとんど高校とか大学とかよ」

「そうねんですか?」


「そうよー。さらに言っちゃうと、私なんて、小学校の先生のことなんて何にも覚えてないわよ」

「ええ?何でですか?ちょっと刺激が強すぎます…」


「だって、考えてごらんなさいよ。小学生の人生を決めるイベントって、ある?」

「え…ええ?人生を変えるイベントですか?」


「そう。人生を変えるイベント。ないでしょ?」

「えーっと、何人かは中学受験をします」


「あ。そうね。東京は中学受験があるわね。で、その中学受験に小学校の先生は何かしてくれるの?」

「いえ…それは…」


「そうなのよ。人生を変えるイベントに小学校の先生は何もしてくれないの。これ、高校の先生だったら、全力で支援してくれるわよ」

「そ、そうなんですか?」


「そうよ。一クラス40人全員の進路希望を聞いて、一人一人の受験対策を高校1年生から卒業するまで、ずーっと考えてくれるわよー。それが逆に鬱陶しくなって、先生と喧嘩になったりするんだけどね」

「そ、そうなんですね…高校の先生って凄いんですね」


「もっと凄いのが、大学よ。生徒に勉強を教える気がないんだもの」

「え?先生なのに…ですか?」


「そうよ。大学の先生って、自分の専門分野の研究がしたいから、大学に雇われてるの。だから、教えるのは、自分の研究のついでなの。教える専門家じゃないから、テストだって難し過ぎたり、簡単すぎたり適当よ。でも、知識の深さが段違いなのよ」

「大学って凄いんですね」


「楽しいわよ!授業も自分で選べるし!まあ、受験をするというのはね、自分で学校を選択するということなの、だから楽しいって思えるし、思い出も残るし、その時との友達とも繋がってるのかもね」

「なんか、受験って、大変なものだと思ってました」


「受験は大変よ。でも、その先に待ってるものは、乗り越えるハードルよりよっぽど価値が高いものよ」

「受験…しようかな…」


「あ。なんか、受験を勧めるおあばちゃんみたいになっちゃったわね。ま、でも受験はいいかもね。萌えちゃんの周りにいる、バカな子たちや、バカな先生と決別できるいい機会かもよ」

「なんだか…ありがとうございます」


「いえいえ…あ!健介、出てきた!行けっ!ボールを奪え!」


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