表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/38

第21話「僕がエースじゃないの?」

 6月22日土曜日~23日日曜日。

 今日・明日の練習は、基本練習と、来週の練習試合で使う作戦の精度を上げる練習だった。



☆☆☆


 日曜日の午後。

 達也と健介と僕は、僕の家でゲームをしながら、だらだらしていた。



 来週が練習試合ってこともあって、どうしても話題はサッカーの話しになる。


「やっぱり作戦を完璧に実行するのは難しいよね」

 これは本当に僕の心の声だ。

 実は、作戦に従って実行するだけのサッカーというのに、若干の抵抗がある。

「そうだよね」

 達也も同意しているのか?

「紙の上で上手くいくことも、実際にやってみると上手くいかなかったりしてるよね」

 あら?

 サッカー初心者の健介も同意する。

 

「だって、簡単なパス回しだってミスはするし、シュートなんて、キーパーがいると半分くらい入らないよね」

 そうなのだ。そんなにうまくいっていないのだ。

「だよね。なんかうちのチームの練習って、サッカーを上手くなる練習っていうより、作戦の精度を高めるための練習って感じだよね」

 達也もそう思ってたのか!うんうん。なんか違う!

「うーん。それって、おかしいの?上手くなることと、制度が上がるって、同じ事じゃないの?」

 たしかに。健介の言い分もわかる。うーん。

 確固たる何かが僕にはないから、そう言われるとそうだなー。くらいにしか思わない。


「うーん。実際、上手くなってるのかな?」

 すると、達也が紙とペンを持ち出して、何かを書き始めた。

「ざっと計算するよ。チームで一番良く使う作戦の2-2-1は、パス2回にドリブル、そしてシュートを打つよね。現状、パスは7割上手くいくから、パス回しが上手くいく確率だけで49%だ。そして、ドリブルが上手くいく確率が90%で、シュートがゴールの枠に入る確率が50%。つまり、シュートが枠に入るまでの確率は25%程度しかない」

 おお。まだ習っていない確率計算。

 でも、このくらいはアホの僕だってわかる。


「そのうち、ゴールが決まるのは、半分もないから…僕たちのサッカーはオフェンスに入ってからゴールを決めるまで10%くらいの確率か…」

 達也が結論をだした。

 なーんだ、10%か。たいしたことないな。

 あまりに確率が低いから意気消沈しちゃった。


 でも、達也は自分の計算をみて「すげえ!」と喜んでいる。

「なんで?凄いの?」

「バカ!これまでの俺たちのサッカーがどのくらいか知っているか?10回攻撃をして、1本シュートを打つくらいだったんだよ!だから0点の試合ばっかりだっただろ!」

「う…たしかに」

「それに、シュートを決めてたのだって、お前の個人技だ!それが止められたら終わりだっただろ?」

「うん」

 うーん。

 思い当たる節がありまくる。

 これまでのサッカーは行き当たりばったりで、攻撃をしていた。


 今みたいに、どうやって点数を取るのか、明確な答えを持っていなかった。

 

 社会の授業でいったら、世界の海洋を勉強せずにテストを受けて、ただ間違えて、答えが返って来るといった感じだった。

 だけど、今は違う。

 明確にどうやったら点数が入るのかがわかる。

 自分の動きだけじゃなくて、他の人の動きまでがわかる。

 これが、作戦か、と今実感した。


 そして、達也が変なことを言った。

「このシステムになってから、DFが脚光を浴びるようになって嬉しいよ!」

 ドヤ顔で達也がDF上位論を唱え始めた。

「へ?FWでしょ。FWを軸に作戦を考えてるとしか思えないんだけど…」

 いや。完全にFWだろ?

 シュートを決めるのに、前線でボールをキープするのも、FWだよ?

「え?ごめん…ちょっと待って、このチームの特異性は圧倒的に死神でしょ?」

 健介まで、そんなことを主張し始めた。


「ええ?DFの細かい動きで、相手のポジションをズラして、有利にしてるって知らないの?」

「いやいや。それは知ってるけど、FWは最前線でボールのシュートとキープを両立させてるんだよ?」

「え?最前線は死神でしょ?ディフェンスからカウンターまで、常に相手に緊張感を与えてるのは死神だよ?」

 

 何い?

 それぞれが、このチームのエースだと思ってたってわけか!


「ちょっと、待って、じゃあ、みんながエースって思ってるってこと?」

 また達也がまとめだした。

「うん!」

「うん…」


「って、ことはさ…俺ら以外の全員も思ってるってことじゃないの?」

「はっ!そうかも」

「だね…」


「僕と一太ってタイプが違うよね。僕はショートパスもロングパスも得意だけど、一太はそれよりも、フィールド全体を見渡す力が強い。まあ、一太は体力が全くないから、かなりフィールドにいる時間は限定的だけどね」

 達也が、急にもう一人のDF、一太をほめ始めた。


「つまり?」

「つまり、僕と一太がいる時じゃあ、チームの攻め方が若干変わってるってことなんだ。良いとか、悪いとかじゃなくて」

「うん」

 何が言いたいのかわからないよ?


「あー。これだからFWは!だから、俺と一太じゃ、同じ作戦でも違うように相手チームに見えるってことさ」

「ええ?そんなことある?」

「あるよ!だって、俺らの微妙なポジショニングで、お前らのパスのアシストとかしてるんだぜ?」

「そうなの?」

「そうだよ!」

 わからない。


「それはわかるかも!」

 健介が「わかる」発言をしやがった。俺はわかってないのに。

「だって、練習をしてるとき、達也は若干上がったりするだろ?その時、ディフェンスに入ってるとやっぱり、下がらないといけないもん」


「あっ。そういうことか。それなら、思い当たる節があるかも…」

「そうだろうよ!」

 達也にキレられた。

 うーん。全体のことが分かった感じがしてたけど、ちょっと考えが浅かったのかな?


「ということは、これ、チーム全員が思ってるぞ」

「何を?」

 何の話だっけ?

「自分をエースだって思ってるんだよ!」

「あー!そういう話しだったね!」


「それって、ダメなの?」

 さすが初心者の健介。エースは僕じゃないとダメってことをここでスパッと言わなきゃな!


「全然、ダメじゃないよ!むしろ最高だよ!」

「ええ!」


 この後、理論攻めにされて、僕はあえなく完敗した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ