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第20話「ディフェンスのコツ」

 前川先生の萌ちゃん家、襲撃事件はお母さん達の間では有名のようだけど、学校では話題にはなっていなかった。

 というのも、前川先生が単純に萌ちゃんの家に家庭訪問にいっただけだからだ。

 前川先生は萌ちゃんの担任の先生なんだから、そりゃあ家庭訪問にも行くか…



☆☆☆



 6月1日土曜日。

 今月はディフェンス強化月間らしい。

 既に死神ポジションの人たちは、このディフェンススキルを学んでいる。


「今日は、マンツーマン、つまり、プレスカバレッジを学んでもらいマス!では、雄二君に質問デス。ディフェンスで最も大切なことはなんですか?学びましたヨネ?」


 うーん?大切なこと?抜かれないように一生懸命相手についていくことかな?


「はい!焦らないことです!」

 お調子者の雄二がスラっと答えた。

 マジ?そんな答え?


「イエス!素晴らしい!大正解です!そうです!ディフェンスで最も大切なこととは焦らないことです。特にこれから練習をしてもらうプレスカバレッジは1対1で相手と対面するので、焦ってしまいがちです。まずは焦らないことを第一に考えましょう!では、たんぽぽ!プレスカバレッジではどこを見ていますか?」

 んん?

 プレスカバレッジってマンツーマンだろ?

 じゃあ、見るものってボールじゃないの?

 ボールを奪うのが目的なんだから、絶対ボールだよ!


「はい!腰の位置、もしくは背番号です!」

「イエス!イエス!イエース!完璧です!親の顔が見てみたいですね!」

 あんただよ、とは誰も突っ込まなかった。

「ふう。少し興奮してしまいました。みなさん、プレスカバレッジのコツは、まず焦らず落ち着くことです。あれをやらなきゃ、これをやらなきゃと思いを巡らせますが、冷静に落ち着いて、相手の腰か背番号を見つめて下さい」

 腰?

 腰の動きを見る?

 そんなの初めて聞いたぞ?

「いいですか?繰り返しますが、プレスカバレッジは腰の動きを読むのが大事デス。それで全てが分かります!相手の腰の位置が下がったら、ストップの合図デス!人間は腰を下げながら走ることは出来まセン!逆に腰の位置が上がれば、ジャンプしてボールをトラップする合図デス!そうなったら、ジャンプする前にボールと相手の位置を見て下さい!」

 え?本当?

 本当に走るときは腰が上がって、止まる時に腰が下がるの?


「ん?こじろう君?実感がない感じがしますね!よしっ。では、実際にやってみましょう!」

 雄二に手伝ってもらって、走ったり止まったりを繰り返してもらった。

 結果、めちゃめちゃ腰の位置だけで、相手の動きがわかった。


「どうですか?ディフェンスのコツの1つ目、腰の動きがわかったでしょう?」

「はい!」


「では、次に体の角度です。では、左のサイドラインに近い位置でディフェンスをしているとしましょう。由香里ちゃん体の角度と、抜かせる方向を教えて下サイ!」

「はい!左のサイドラインが近い場合は、左のサイドラインを背に、45度くらいの角度で守って、サイドライン側に抜かせます」

 抜かせる?

 抜かせるってなんだ?

 わざと抜かれるってことか?

 ちょっと待て!ディフェンスが抜かれちゃダメだろ?

 ええ?

 真正面に構えて、抜かせないようにするのがディフェンスじゃないのか?


「グレイト!その通りです!死神ポジション以外の方には説明が遅くなって申し訳ありません!プレスカバレッジや1対1と言っても、サッカーにおいて本当に1対1でボールを争う場面は多くありません。なぜなら、ディフェンスには9人目、10人目の仲間がいるからデス!」

 は?

 これは流石に意味が分からない!

 8人制サッカーで9人目、10人目の仲間がいたら、ルール違反になっちゃうじゃん!


「おっと、その前にサッカーでは、1対1で守っていると見せかけて、常に1対2で守っている事を説明しないといけまセン。」

 え?

 常に1対2で守ってる?


「プレスカバレッジはマンツーマンとは言え、常に1対2を意識して守ります。つまり、仲間がいる方向には相手を抜かせて良いのです。その方向へ相手を抜かせれば、隣の選手が一緒に守ってくれます。その上、相手同士が重なるため、さらにディフェンスが有利になります」

 まあ、それはそうか。

 オフェンスはコートを広く使ってこそ脅威が増すけど、自ら重なり合ってくれれば、ディフェンスはやりやすい。ゾーンディフェンスじゃないので、スイッチの混乱もないし。


「で、9人目、10人目の仲間デス!それがサイドラインです!」

 サ…サイドライン…

 なんか、騙されている気分だ。


「サイドラインはディフェンスの見方デス!相手のボールがサイドラインへパスを出したらこちらのボールです。もし、カットしてサイドラインへボールがこぼれたにせよ、ディフェンスの態勢を立て直す時間を稼いでくれマス。つまり、サイドラインを制するものはディフェンスを制す!デスよ!」

 そんな言葉あったっけ?

 絶対にない。

 絶対にたんぽぽちゃんのお父さんが作った言葉だ。

 でも、言っていることは理解できる。


「それって、1対2で守る、自分ではない、もう一人を、サイドラインにしろってことですか?」

 達也が手を上げて質問をした。

 あー。そういえば、そういう話をしていた気がする。


「その通りです!達也君はもう気が付いたようですね!」

「でも、サイドライン側に抜かれちゃったら、ゴールキーパーまでディフェンスが誰もいないってことになっちゃいますよね?」


「達也君!素晴らしい!では、その抜かれた時のアクションを、由香里ちゃん、解説してくれますか?」

「はい!抜かれたら、抜いた人を追いかけるんじゃなくて、ゴールに向かって走ります!」


「グッレイト!実際、このプレスカバレッジはほとんどの場合、抜かれマス。抜かれるのが本質と言っていいかもしれません。ですが、外側に抜くというのは、あまり意味がありません。やってみましょう」

 また、模擬的に1対1をやることになった。


「では、ジャエルがオフェンスで、大樹君を抜いて下さい」

「はい!」

 すると、やはりジャエル君はいとも簡単に、外側、サイドライン側から大樹君を抜き…去ってはいない。抜いたんだけど、大樹君は直ぐに追いついて、もう一度、1対1をすることになり…またジャエル君は外に抜くから、スペースがどんどんなくなっていった」

 どういうことだ?

 大樹君は足が速いが、完全に抜かれたのに、簡単に追いついて、何度も1対1を作り出した。

 つまり、本当の意味では、ジャエル君は大樹君を抜けなかった。

 ついに、ジャエル君はゴールから90度の位置まで追いやられ、シュートコースを失った。


「そこまで!」

 死神ポジションのやつらはニヤニヤしてその攻防を見ていた。

 やっぱりそうなるんだー、って顔をしている。

 わけがわからないよ。


「ジャエル君、どうでした?」

「はい…抜いたと思っても、大樹君はずっと付いて来ていました」


「ふふ。健介君、解説をお願いできますか?」

「はい!これはサッカーという競技の特殊性にあります!サッカーはゴールが相手陣最後尾の【中央】にあるということから、相手陣に向かっているのに、ゴールからは離れるといった矛盾が起きる競技です!」


「ファンタスティーーック!その通りです!サッカーゴールの位置は、錯覚を起こしやすいのです!」

 錯覚?

 サッカーのゴールはいつもそこでしょうが!


「オオ!こじろう君はいつもいい顔をしてくれマスネー!では、こじろう君!ゾーンディフェンスをする時、何に気を付けますか?」

「ボールを持っている相手を起点にゾーンが移動させて、危険ゾーンを埋めることです」

「素晴らしい!さすがよくわかっていますね!では、マンツーマンの場合は?」

「やっぱり、ボールを持っている相手を起点に、ゴールと自分の相手の三角形を意識して、少し下がって守ります」

「うーん。オッケー!言わんとすることはわかるので、よしとしましょう!では、こじろう君、問題です!危険ではないゾーンってどこですか?」

「あ…ゴールから90度の位置です」


「サウンズグッド!そうなので、ディフェンスは最終的にはボールを奪ってオフェンスにチェンジすることが重要なのですが、その手段として、危険エリアから脱出することが重要です。ですので、焦らず、腰を見て、サイドラインを使うのデス!」


「な…なるほど…」

「さて、やってみましょう!」

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