第2話「たんぽぽが入部するなら、僕はヘッドコーチですよ」
4月6日。
土曜日の8時にマンションに入口に行くと、たんぽぽちゃんと2mくらいありそうな外国人のおっさんが立っていた。
「あ、おはようございます!こじろうの父です」
「あ、どうも。たんぽぽの父です」
でしょうね!
たんぽぽちゃんは予想通り、ハーフの子だったんだ。
まあ、苗字がアンダーソンの時点でそう思っていましたよ。
「たんぽぽちゃん、おはよー」
「こじろうくん、おはよー。あ!達也くんもおはよー」
いつの間にか、後ろに達也がいた。
「おはよー」
「おはようございます。達也の父です」
「「おはようございます」」
お。今日は、達也のお父さんも来たんだ。珍しい。
ちょっとしたら、希と由香里もやってきて、みんなで歩いて小学校へ向かった。
「へー。それじゃあ、アンダーソンさんはニューヨークにいたんですねー」
「ええ。妻とはニューヨークで知り合って…日系企業の~で働いていて、日本語を教えてもらっていたのが縁で結婚しまして…」
たんぽぽちゃんがニューヨークから引っ越してきたらしいということが、道中のお父さんたちの会話から読み解けた。ところどころ、言っている意味がわからなかったけど。
☆☆☆
練習前に、お父さんが、たんぽぽちゃんと、希と由香里をみんなに紹介した。
古宿少年サッカークラブは、土日の9時から12時まで練習している。
次の試合は6月30日の大会だ。
月に1回、練習試合を組んでいて、その日は、1日サッカーをすることになる。
ちょうど、来週に練習試合が予定されているので、3人の女子の内一人は入部してもらわないと、相手チームにも迷惑がかかる。(大人が参加することになっちゃうから)
お父さんの指導にも力が入る。
「こじろう!ディフェンスだ!お前のディフェンスさえ良くなれば、このチームは強くなるんだ!」
「はい!」
くうう。僕はシュートは上手いほうだから、シュートを打ちたい。
苦手なディフェンスで怒られてたら、たんぽぽちゃんにかっこがつかないよ。
「達也!お前はパスが上手いんだ!それは武器になる!だけど、ドリブルが下手だから抜けないんだ!もっとボールをコントロールしろ!」
「はい!」
女子3人は、達也のお父さんから、ボールの蹴り方を教わっていた。
異様だったのは、たんぽぽちゃんのお父さんだ。
僕のお父さんや、達也のお父さんに、「この練習はどんな意味があるのか?」をずっと聞いていて、睨んだり、考え混んだりを繰り返していた。
大きい外国人が悩み姿は、それだけで恐ろしい。
立花先生とプロレスをしたらどっちが勝つかなぁ?
そして、練習の終わりにたんぽぽのお父さんは、僕のお父さんに恐ろしい事を言った。
「こじろうのパパ、私がヘッドコーチをしてもいいのなら、たんぽぽは入部しますよ」
「え?いや…それは…」
僕のお父さんはうろたえていたけど、僕たちクラブのメンバーの心は一つだった。
たんぽぽちゃんと毎週、サッカーがしたい!
「「「「「「お願いします!」」」」」」」
「おま、お前らー!」
「と、言っても少しサッカーを学びたいので、来週の練習試合の後からヘッドコーチをしますね!」
「へ?アンダーソンさん、サッカーのご経験は?」
「ありますよ!アメリカ人はみんな授業で1回はサッカーをやりますからね!」
「え?じゃあ、どこかのチームで…とかの経験は?」
「ありません!でもフットボールをやっていたからダイジョーブです!」
「フットボールってアメリカンフットボール?」
「イエース!」
じゃあ!大丈夫!
そんなことより、たんぽぽちゃんの入部が大事だよ、お父さん!
☆☆☆
4月13日。
翌週の土曜日。
この日の練習試合は、午前と午後の2試合だ。
午前は強豪チーム、馬込少年サッカークラブ、通称「馬少」との試合だ。
案の定、僕のディフェンスが甘く得点を許し、達也はドリブル中にボールを奪われた。
試合結果は、8対1とぼろ負けだった。
午後は普通くらいのチーム、西戸山少年サッカークラブとの対戦だ。
途中まで良い感じで持ちこたえていたけど、結局は4対2で負けた。
悔しいんだけど、なんだか負けるのに慣れてきた。
練習試合終了後、たんぽぽのお父さんから話があった。
「ミナサンお疲れ様でした。明日から私がヘッドコーチです。明日の練習は中止です!古宿公民館で今日の試合ビデオを見ますので、間違えずにキテクダサイ!」
ざわついているが、ヘッドコーチの言うとおりにしよう。