第13話「どんどん置いていかれるー!」
5月12日日曜日。
今日も健介と僕は練習に参加出来ずに、一緒に古宿御苑図書館に来ている。
「勉強って…何をしよう…」
「うーん。ひとまず、今週の授業の続きを予習する?」
「うん」
健介の提案に乗り、先週授業が進んだところまでを確認し、次のページを読んでみることにした。
僕たちは国語の教科書を開いて、次に授業をするところを読んでみた。
「ひとまず、漢字だよね?」
「うん。でも、知らない漢字を見付けて覚えるのって、こうやると案外少ないし、覚えられるもんだね」
健介の言う通り、新しく覚える漢字はそう多くない。
「うん…といっても、テストの時に覚えてなかったり、すんだんだもんなー」
「たしかに…うう…」
健介もそうなんだ。
「漢字は、良いとして、作者の気持ち問題って、僕解けたことがないや」
「本当だよ。大人と子供の思考回路が違うから間違うのかな?」
「あー。たしかに。大人っぽいやつって、だいたい正解してるもんね」
「僕らも、大人になったら、全問正解してるのかな?」
「その頃は、テストなんてないんだろーなー」
「そうだ!文章問題の解き方って、この図書館にないのかな?」
「あ!それいいね。さっそくあそこのパソコンで検索してみよう」
30分で完全に勉強に飽きた僕たちは、国語の問題を解く本を探し始めた。
しかし、小学生の国語の問題を解く本、なんて本は存在していなかった…
「うーん。こじろう。これでもいいんじゃない?」
「中学生の勉強法ね。へー、パソコンから、目次も見れるようになってるんだ…あ!現代文の解き方のコツってのがある!さっそくここを読んでみよう!」
「うん!」
この本を資料番号をプリントアウトし、探しに行くが…見つからない…
というか、探し方がわからない。
アホには図書館さえも使えないということか!ぬぬう!
素敵エプロンを身につけたなナイスなミドルレディがいたので、「すみません、これの探し方がわからないく…」と聞いてみた。
すると図書館のおばちゃんは「この背表紙のね、これ、ひらがなで【く】って書いてあるでしょ?それが、本棚と一致しているから、ほら、ここのフロアマップを見てみて、それで、その後ろに番号がかいてあるでしょ?本棚に行くと、番号順に並んでいるから探して見て。一緒に行ってあげようか?」
「いえ。自分で探しています!」
「偉いわね。じゃあ、またわからないことがあったら聞いてね」
「はい!」
「元気がいいのはいいけど、図書館では静かにね」
「…はい…」
健介と僕と「中学生の勉強法」の、第4章【国語の勉強法】の7 現代文の解き方のコツを読んで驚愕した
(1)答えは必ず本文中にある
(2)設問にヒントが隠されている
「「な、なにーっ!」」
中学生の勉強法によれば、作者の気持ち問題は、推理問題ではなく、本文中に書いてある言葉を、問題の選択肢で言い換えているに過ぎないのだそうだ!
騙された!
まさか…そんな…
作者がその時に、お腹が空いていたとしても、作者の文章の中に、「お腹がいっぱいでもう食べられないよ」と書いてあったら、その答えは「満腹だ」が正解なのである。
これには、健介も驚いたようで、「嘘だ!」と言っていた。
この「中学生の勉強法」という本は、僕たちの常識を壊そうとしているのか、それとも僕たちがマジでアホなのか。
明日の朝、立花先生に聞いてようということで収まった。
しかし、これ以上、この本を読むことはできない。怖い。禁書だ。焼いてしまえ。
☆☆☆
12時になり健介と僕はいったん家に帰ることにした。
今日も新しい作戦がありそうなので、健介は1時に僕の家に来る約束をして別れた。
案の定、達也が家にやってきて、「今日はコーナーキックからの作戦を覚えたぜ」と言ってきた。
もしかして、試合までに、毎日新しい作戦が追加されていくのか?
感覚でサッカーをやっていたので、毎回作戦を覚えていくのは苦しいんじゃないだろうか…
コーナーキックからの作戦は、単純で、昨日教わったMFからの囮役のFWへのパスフェイクとシュート役のFWへのパスからのシュートだった。
達也曰く、実はどれも同じ動きなんだけど、見た目が違うから、全く違うことをしているように見える、らしい。
そうか。たしかにそうだ。シュートを打つタイミングも、ディフェンスのポジショニングをズラす動きも同じだ。
シチュエーションが違うから、違うように「見える」のであって、やっていることは同じ。
だけど、やることが明確だから、練習でもうまくいった原因や、失敗した原因がわかりやすい。
つまり、みんな正解となる動きを理解しているので、「本当の練習」が出来ていているらしい。
達也の言う、「本当の練習」という意味がいまいちわからないけど、僕はみんなが羨ましい。
早くサッカーがやりたいよ。