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第12話「練習には参加させられマセン」

 5月11日土曜日。

 練習試合以来初めての練習日だ。


 いつも練習している小学校のグラインドへ行くと、やっぱりたんぽぽちゃんのお父さんは、僕たちをサッカーの練習には参加させてくれなかった。


「こじろう君、健介君、ノーです。約束しましたよね?いかなるテストであっても80点未満の人はサッカーの練習をさせることはできマセン」

 これには、僕のお父さんが反論した。


「アンダーソンさん!小学生が勉強をしなければならないのはわかります。ですが、勉強とサッカーは別なんじゃないでしょうか?」

「こじろうパパ…これは優先順位の問題です。小学生だけじゃなく、学生は勉強をした方がいいのです。学業成績とその後の幸福度が相関するというデータもあります。サッカーはきちんと勉強が出来ている者だけが行える活動なのです」

「しかし…」

「こじろうパパ、これはこのチームの定義でもありました。このチームの選手はロナウドになるのです。ロナウドはサッカーが上手くて、体力があって、優しくて、そして、賢いのです。一緒にそういうチームを目指しましょう」

「わか…りました。しかし、いつまで練習が出来ないのでしょうか?」


「そうですね。次のテストで80点以上が取れたら、練習に復帰しましょう」

「わ…わかりました。こじろう、健介君、今日は見学だ」

「こじろうパパ、ノーです。彼らは、この時間図書館でお勉強です。いいですね?二人とも」

「「はい…」」



 というわけで、健介君と僕は、土曜日と日曜日の練習を欠席し、古宿御苑図書館で勉強することになった。

「健介君、えーっと…今更なんだけど、勉強って何をやったらいいのかな?」

「う…うーん…僕もわかないや…あ!でも立花先生からもらった再テストの間違えたところを暗記するっていうのはどうだろう?」


「あ!そっか!立花先生が言ってたね。覚えるって言ったって、どうやって覚えたらいいのかわかんないや。どうやろう?」

「うーん。僕もわかんないや。ひとまず、10回ずつ書いていけば覚えられるんじゃないかな」

「うん…手が疲れそうだけど、やってみるしかないね…」


 僕たちは、この3日間で立花先生からもらった再テストで間違えたところを復習することにした。

 暗記問題は、ひたすらノートに書いて、解く系の問題はノートに従ってといてみた。


 2時間という時間は結構長く、そんなにテストの量も多くなかったので、1時間もせずに終わってしまい、時間が余ってしまった。

「うーん…健介君、次はどうしよう?」

「どうしよう…あ!予習をしろって言ってなかったっけ?立花先生」

「言ってた!じゃあ、今週やる国語の感じ問題と、社会の地図だっけ?を覚えよう!」

「うん!」

 ということで、ひとまず、漢字問題と、世界の大陸と海洋を覚えることにした。


 僕たちはひたすら、太平洋、太平洋…、インド洋、インド洋…、大西洋、大西洋…


「あ!こじろう君!そこはおおにしひろしだよ!ふとにしじゃないよ!」

「え?あ!本当だ!こっちはふとひらなのに、こっちはおおにしなんだ!また間違えるところだったよ!ありがとう!ってゆーか、僕のことはこじろうでいいよ!」

「え?うん。じゃあ、僕も健介でいいよ!」

「うん!」



☆☆☆



 12時になり家に帰ると達也が家にやってきた。

「バカのこじろうに、持ってきたやったぞー」

「何を?」

「今日教わった作戦だよ!来月、6月30日の練習試合までに、作戦が増えるらしいんだよ。ほら、説明するから、お菓子とジュースをだせよ!」

「うぉぉ!ヤクザかお前…ちょっと待って、健介にも教えてあげないと」

「あ。忘れてた。んー。健介の家ってわかる?」

「わかんないや。でもLINEは交換したから送ってみるよ」

「オッケー」


 健介にLINEを送ると直ぐに僕の家に来るということになった。



 健介が家に来ると、さっそく達也のレクチャーが始まった。

「えーっと、まず2-2-1死神ポジションというのは変わらないんだけど、立ち位置が変化するから覚えて。まずは前回の作戦の確認から…」

 健介が、紙にFW2人、MF2人、DF1人を書いて、先週の試合で使っていたパス回しの動きを書いた。

「「うん」」

 これは、何度もやったから、アホ僕でもわかる。


「サークルにパスを回す…といっても、2回パス回しをしたら、FWが2ステップドリブルをして、シュート。という流れが、これまでのシュートパターンだっただろ?」

「「うんうん」」

 ぶっちゃけ、先週までは練習ではこれしかやっていなかった。

 作戦は非常にシンプルで、ハーフラインまでボールを運んだら、パス、パス、ドリブル、シュートというシステムだ。

 このパスを左回りでやるか、右回りでやるかの違いでしかない。


「で、次の試合ではこの、2-2-1ポジションをちょっと変化させるんだ、こう…」

 達也は紙の上に、1-2-1-1の位置取りに〇を書いた。


「あれ?これじゃあ、1-2-1-1じゃないの?」

「お、こじろう、流石だね。それと同じことを僕も聞いたんだよ。そしたら、考え方を変えろっていわれてね。この2-2-1ポジションのFWとMFの位置取りを90度回転させただけだと思えってことさ」

「「あー」」

「ほら。90度回転させただけだから、見た目は1-2-1-1体型だけど、僕たちとしてはこれまでとやることはかわらないんだ」


「え?やることがかわらないの?」

「えーっと。途中までは同じさ。ほら、これまで、パス、パス、ドリブル、シュートだっただろ?」

「うん」

「この、パス、パス、のところまでは、動きも同じで、この先に変化があるんだ」

「うん」

「パス、パス、ときたら、MFの一人が、サイドの縦に上がって、そいつにパスするだろ」

「うん」

「そしたらパスをもらったMFは次に走って来るFWにパスするパターンと…」

「パターンと?」

「さらに、その後ろから、同じコースを走って来るもう一人にFWにパスをする2パターンに分岐するんだ」

「え?どういうこと?」


「オッケー。もう一回説明するよ。こうだよ。FWがMFにパスするだろう?」

「あ!そーか!90度回転してるから、MFとFWが入れ替わってるんだ!」

「そう!で、続きを説明すると、MFがMFにパスするだろ?ここまではこれまでと同じだよね?」

「「うん。うん。」」

「次に、ドリブルでシュートに持って行くんじゃなくて、MFがFWにパスするんだ」

「うん」

「これがパターン1。でもこのパターン1は、あんまり使わない…というのはパターン2を説明してからするね」

「ぬぬう?」

「パターン1だと、サイドから縦に上がっているMFがFWにパスをして、FWがシュートを打つよね?」

「うん」

「パターン2は、このFWにはパスを出さずに、そのすぐ後ろを同じコースで走って来るFWにパスをだして、そのFWがシュートを打つんだ」

「あれ?このFWはどこからやってきたんだっけ?」

「このFWは初めにMFパスを出した人だよ。パス回しの時、サークルを作って動くだろ?」

「うん」

「このFWはMFにパスを出したら、かの回転で360度回ってきて45度からボールを受け取ってシュートをするんだ。もちろん、その前のFWとの距離が近すぎず、離れすぎず、6mくらいを空けると良い感じになる」

「あの…そのFWについて来ているDFは考えてないの?」

「お前!全く俺と同じ事を言ってんのな!俺もそこに疑問があって聞いてみたんだけど、付いて来た時のためのパターン1なんだ。まあ見てくれ。FWがMFにパスをだして、そのFWはゴール前を横切るだろ?」

「うん。で、このDFは普通、次はどうやって動く?」

「あ!そうか!縦に上がっているMFがボールを持っているから、このFWにはついていかず、次に来る別のFWを警戒するんだ」

「そう!で、そのFWこそが、本当の囮で、DFに捨てられた、初めのFWにパスを出してシュートをするんだ。すると、相手のMFとDFの2人が、囮のFWについていくから、シュートを打つFWがフリーになるんだ!」

「なるほど!…ってそんなにうまくいくの?」

「それが、今日、練習で試してみたんだけど、めっちゃ騙される。で、慣れてきたころに、パターン1に切り替えると、これは、もう1対1だから、不利じゃない」

「スゲー!すげーよ!」

「あ!肝心なことを言い忘れていた!囮になったFWにはもう一つ役割があって、もう一人のFWがシュートを打った後、この位置、といっても走り抜けて、逆45度に行くだけなんだけど、そこでこぼれ球をを待つんだ」

「こぼれ球?」

「ああ。割と、高確率で、この位置にはじかれたボールがこぼれるから、そこでシュートだ」

「へぇぇー」

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