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短編・恋愛

世界は彼女を中心に廻っている

 


 彼女が笑うと世界の何処かで虹が架かり、彼女が泣くと世界の何処かで洪水が起こる。

 彼女が幸せだと人類は更なる発展を遂げ、彼女が不幸だと人類は破滅の道に足をかける。


 世界は彼女を中心に廻っている。


 では、彼女はこの世界を支配し、操っているのかと言われるとそういう訳でもなく。彼女は正義のヒーローでも悪の支配者でもなく、チョコバナナパフェとへなちょこなご当地キャラクターが好きな女子高校生で。

 彼女は、自分が世界に与える影響力を分かっていない。何て言ったって彼女は、自分をなんてことはないただの、いや、それよりちょっと劣った普通の女の子だと思っているのだ。


 全ては彼女のために。

 世界は彼女を中心に廻っている。


 彼女はきっと、この事実を知ることは一生ないだろう。世界のお偉いさん達がそれを必死に本人に悟られないようにしているのもあるし、彼女は元々鈍感だ。


 彼女はきっと、自分がこの世の誰よりも特別な人間だと言うことに気付かないだろう。彼女の幸せのためなら、日本の総理大臣だって辞任するし、米国の大統領だってコロリと変わる。


 世界は彼女を中心に周り、彼女は特別な女の子。

 そして、僕は彼女を幸せにし、世界を救うために送られてきた世界機構のエージェントだ。



「おはよう。佐々木さん。今日も早起きだね」

「お、おはよう。神崎君。えと、今日も花に水を……」

「そうなんだ。じゃあ、僕も手伝うよ」

「え、そんなの申し訳ないから」

「佐々木さんとお話する機会、僕から奪わないでよ」


 ちょっと、キザったらしい台詞を吐くと彼女は、顔を真っ赤にして下を向く。この反応で、世界の砂漠地帯に雨が降り緑化したという報告があったから、きっと彼女のこの反応は喜びだ。

 それにしても、一昨日の報告で知ってはいたが、また、係の仕事を押し付けられたらしい。彼女も断ればいいのに、気が弱いから。


「最近は、今まで続いてた異常気象とか地震とかないから平和でいいね」

「うん。前まで、色々変なことが多かったから、友達も本当に地球が終わるんじゃないかって騒いでたの。可笑しいよね」

「……まあ、あのままだったら本当に滅んでたかも知れないけどね」

「ふふ、神崎君も冗談言うんだね」


 本当に地球が滅びそうだったので、僕には全く笑えない冗談だったのだが、彼女はくすりと控えめに笑う。

 数ヶ月前まで、彼女の精神は不安定で酷い状態だったのだ。あのままでは、隕石が地球に衝突して七回目の大絶滅が起きていた。


「ここには、もう慣れた?」

「うん。ここは、良いところだね。ご飯が美味しくて、ちょっとのんびりしている所が心地好い」

「そう、良かった。……余計なお世話かもだけど、お隣さんなんだし、なにかあったら頼ってね……いや、私じゃ頼りないかな!?や、やっぱり今のなしにし」

「嬉しい。ありがとう。佐々木さん」

「う、うん」


 この世の誰よりも特別な彼女は、自分に自身がなくて引っ込みじあん。その上、ちょっと他人が苦手で、すぐに挙動不審になって顔を真っ赤に染め上げるのだ。

 それでいて、とても優しい。困っている人がいると、ほおっておけずに自分が損しても助けてしまう。


 自ら足を突っ込み、結果的に彼女が傷付いて、地球のあちこちで火山活動が活発になったり。そんな事はしょっちゅう起こり、止めて欲しいのだが、傷付いてもほおっておけないのが彼女なのだから仕方ない。

 特別な彼女に、指図出来る権利なんてこの世の誰にもなくて、僕なんてもっての他だ。僕は、彼女に気付かれないようにこっそりこっそりと彼女を幸せに導くだけ。

 それ以上の接触は、許されない。許されていない。


 そもそも、数ヶ月前に彼女の家の隣に引っ越して来た僕だが、彼女の人間関係は極めて、驚くべきほどに小さい。

 彼女と親しいのは、育ててくれている彼女の祖母と友人の會田万智(あいだまち)位しかおらず、世界の中心である彼女の世界は、とても小さくミニチュアサイズだ。


 彼女を幸せに導く為、交遊関係を拡げさせるべきか、それとも波風が立たないようこのまま小さい世界でいさせるかは、迷う所だったが、彼女と接触していくうちにこのまま小さい世界でいた方が彼女は幸せなのだろうかと思えてきた。

 その事を上司に相談すれば、根拠はなんだと睨まれたが、それは彼女と接してきた僕の直感に過ぎなくて、論理的な理由がなければ許可出来ないと、この件に関しては保留中である。


 また、彼女が世界の中心であることが発覚して未だに数ヶ月しか経っておらず、急いで僕は彼女の元に送り込まれたが、この様子なら僕は直ぐに彼女の友人になれるだろうと確信している。

 もしかしたら、彼女の認識的には友人認定されているのかもしれないが、判断するにはサンプルが少な過ぎて分からない。

 正面切って、僕たち友達かな?等と聞いたら、彼女はきっと驚いてしまうし、基本的に彼女の人に対する反応は怯えるか、信頼しきるかの両極端で。サンプルの内のひとつ、彼女の唯一無二の友人である會田万智には、全てを赦しきっていて、警戒心など忘れたかのように満面の笑みを浮かべるが僕には少し微笑むくらい。それでも、警戒心の高い彼女に微笑んでもらえると言うことは彼女のなかで僕は親しい間柄に入っているのだろう。


 ただ、僕にも會田万智に向ける笑顔を向けて欲しいと思うのは、今までトップを走り続けていたプライドが傷付いたのだろうか。


 彼女と僕は他愛ない話をしながら、学校に向かい学校脇の倉庫から2つ如雨露を取り出した。

 新しく納入されたプラスチックの青い如雨露と、昔からあった金属製の赤錆た如雨露。彼女は当たり前のように、綺麗な方を僕に差し渡し、またひとつ謝罪とお礼を述べた。

 気にしなくていいのに、と思いながらも、そう言うと彼女はまた挙動不審になるかもしれないから、僕も花が好きだから手伝うのは苦じゃないよ、と優しく告げた。


「あ、あ、うん。そう、なんだ。一緒だね」

「花好きが?」

「うん。私も花が好きだから」


 知ってる。彼女が一番好きな花は向日葵で、自宅の中庭に毎年植えている。それに、彼女は花を見ているとき、嬉しそうに口角を上げるから。

 照れたように笑う彼女。ただ花好きが一致しただけで、何故そんなに嬉しそうに笑うのだろう。

 どうして僕も微笑む彼女を見ると嬉しくなってしまうのだろうか。


 花に水をあげていると、携帯の着信音がなった。世界で大きな変動が起こると僕の携帯に連絡が来る仕組みになっているから、多分それだろう。

 彼女に見つからないようにこっそり、メールを見ると物理学の分野で、たった今偶然にも素晴らしい発見が得られたと言う内容だった。これが彼女によって引き起こされたものなのかは、分からないが、もしそうなのだとしたら今、この状況が彼女にとって幸福だと言うことである。

 僕は、世界のため、すかさず彼女に提案した。


「これからも一緒に水やりをしたいな」

「えっ、どうして」

「なんか、 朝から花を見ると癒されるというか、リフレッシュする気分になるから」


 キザったらしく、君ともっと一緒にいたいからとでも良かったが、これ以上押しすぎると彼女は逃げてしまうかもしれない。

 少し無理矢理な理由をこじつけてはみたが、彼女は、分かるよ!花を見ると癒されるよね!!と嬉しそうに詰め寄って来たのでこの答えは正解らしかった。


 花の世話を終え、学校に入ろうとするが、彼女は目立っている僕と二人行動をとるのが嫌らしく、さりげなくタイミングをずらそうとする。僕も無理に連れていくのは、彼女の精神衛生状悪いから素直に従っていてたが、今日は浮かれているためか、まだ、朝早く人が少ないためか、二人で正面玄関に入る事が出来た。


 僕も彼女と少しでも長い間、一緒に入れるのが嬉しくて気が抜けていたから、靴箱の中身を確かめるのを忘れていた。


「あっ」


 僕の靴箱からヒラヒラと白い封筒が落ち、そこには女の子独特の丸っぽい字で僕の名前が書いてある。

 反射で拾おうとしていた彼女は、ぴしりと固まり、何事もない風を装ってそれを僕に渡す。落ちたよ、と告げる彼女の声は少し震えていて、僕は咄嗟に誤解だと叫びたくなった。


「凄いね。ラブレターかな。うん。ラブレターだよね。だって神崎君凄く格好いいし、優しいし、頭良いし、運動も出来るし完璧だもん。いや、本当。絵本から出てきた王子様かなって感じだし、そりゃ、モテるよね。当然。いや、モテるのは当たり前だよね。うん」

「いや。そんなことは……」

「でも、初めてじゃないんでしょ?」

「それは、まあ、……そうなんだけど。でもさ!」


 でもさ、と言ってはみたがその後の言葉が見つからない。確かに何か言おうと思ったのに、何を言おうとしたのか分からなくて。そう言えば、彼女はまだ友達未満だと言うことに気付く。


「……良い子だといいね」


 突き放すように、そう言って彼女は先に行ってしまった。

 僕は、彼女に格好よくて王子様みたいと言われたことに対して少し喜んでしまった自分を叱咤して、必死に言い訳を考える。


 彼女に嫌われては、困る。

 彼女の笑顔が好きなのに。彼女といると心弾むのに。より良い世界のために、彼女を幸せに導くのが僕の役目なのに。


 IQ190を誇る僕の頭脳をフル稼働して、彼女と仲直りする方法を考えると、後ろから僕にとって少し憎たらしい女に声をかけられた。


「おっはー。何、どした?そんなところで固まって?うは、ラブレターかよ。古いわー、やり口古いわー。えっ、何!?その顔!?よっぽど嫌なの?そのラブレターの相手!?」

「……會田、君にモノを頼むのは物凄く不本意だが、頼みがある」

「うわ、いつもながら失礼だな。私にはネコ被れないわけ?」

「お前は、敵だ」

「ふん!その狭い心じゃ、いくらたっても由紀の心は掴めないね」

「……」

「え、何!?図星!?ウケる」

「佐々木さんに誤解された。誤解を解くの手伝え」

「ああ、それでラブレター睨んでたのね。御愁傷様」

「じゃあ、」

「まあ、手伝わないけど」


 がさつにわっはっはと笑いながら、僕の肩を叩き教室に走る會田万智は本当に彼女と正反対のタイプの女だ。

 彼女が清楚でおしとやかなら、會田万智はがさつで野蛮。彼女の友人でなければ、絶対に関わりたくない女だ。


 また、携帯の着信音が鳴り内容に目を通すと先程見つかった物理学分野においての大発見は、この世界を滅ぼす悪要因にしか用途が得ずに、慌てて抹消する予定に変更との内容だった。


 早く誤解を解かないと、世界が終わる。








 彼女が、僕だけに対しての些細な感情で地球が滅びる位に落ち込み、絶望するはずがないことに気付くのは、その日のお昼休みの頃だった。


 お昼、僕の周りに溢れる人混みからちらっと彼女を見たら、會田万智と楽しそうに笑いながら食事をしていた。僕がこんなにも落ち込んで、食事も味がしないと言うのに彼女は少し薄情じゃないのか、と少し腹立ったことは、流石に自分が子供じみていると反省している。


 放課後、彼女は掃除当番で帰りが遅く、會田万智はバスケ部に向かったのでこれは、チャンスと校門から少し離れた彼女の帰り道で、彼女を待つ。

 最初に、ラブレターの相手とは何でもないことを告げて、確かに、この学校に来てから何人かに告白されたが全部断ったことも告げる。あとは、彼女とまた元の関係に戻りたいと告げて。ぐるぐると彼女に告げる内容を反復して、じっと待っていれば彼女は、ご当地キャラクターポール君をじっと眺めながらやって来た。


「佐々木さん」

「え、神崎君!?どうしたの……その、告白してきた子と一緒にいるんじゃないの?」

「断ったよ。今までも、告白はされてきたけど全部断った」

「……やっぱり、いっぱい告白されてたんだね。神崎君、格好いいから」

「僕は、これからも誰かと付き合う気はないよ」

「え!?なんで……」

「それは、誰かと付き合う余裕がないというか、今は彼女とかはいらないかなって。だから、また」


 こう言えば、また彼女は笑ってくれると思ったのに、彼女は泣きそうな顔をして下を向いた。


 なんで。


 これで、また僕は君といられる筈だろう?なんで、そんな悲しそうな顔をするんだよ。


「……うん、分かった。でも、誤解されないように、朝一緒に水やり行くのはやめよう」

「なんで誤解される相手なんていないじゃないか。僕は君と」


 君といたいのに。


「それでも、ダメ。私が駄目」


 僕は、あまりにショックでその場に立ち尽くしてしまった。彼女は僕の脇を走って通り抜ける。止めたくても、僕にどうしていいかわからなかった。

 彼女に、嫌われてしまっただろうか。


 もう、彼女は話せない?

 彼女の笑顔を見られない?

 彼女の隣にはいられない?



 それなら、いっそ地球ごと滅んだ方がましだ。



 僕はその日、初めて携帯の着信音を無視して定期報告をサボった。その日は、眠れずに、彼女と元通りの関係になる手段を探ったが見つからず、初めて自分のことをポンコツさだと罵る。

 朝の六時に上司からのメールには、これ以上彼女の精神を乱すなら、この任務は止めて他の任務に当たってもらうと残酷な内容が書いてあり、もう終わったと。解決方法も分からず、彼女との関係が良くなる見込みもない。きっと僕は、この任務から外されて、彼女と引き剥がされてしまうのだ。もう現実なんて見たくなくて、携帯をマナーモードにして鞄の奥に追いやった。


 朝、どうやって学校に行ったか記憶がない。


「ちょっと!!神崎、あんたね……ってあんたも相当まいってるじゃん」

「……ああ、そうだな。僕は初めて自分が駄目なやつだと思ったよ」

「あっちも重症だけど、こっちはそれ以上だな。おい、ちょっと付き合え」

「断る。もう、終わりだ……」

「いいから、ちょっと来いや!!」


 朝のホームルーム前、無理矢理、會田万智に校舎裏に連れ出された僕は、ああ、最後に彼女の姿を見たかったなと 感慨に更けた。

 彼女は、花の世話でまだ教室に来ていなかったから。


「いい加減しゃっきりしろって。世界が由紀を中心に廻っているのはいいけどさ……え、何その顔」


 呆れた顔をして言った會田万智の言葉は僕にとって驚愕の一言に尽きる。

 世界のトップシークレットを何故、この女が。


「今、世界が彼女を中心に廻っているって。……お前、知ってたのか!?」

「はあ!?そりゃ、見れば分かるでしょ」

「な、僕たちだって最近になってやっと気付いたのに……お前はいつから」

「あのさ、流石に分かるって。あんたの世界が由紀を中心に廻っているって。あんなに分かりやすければ、誰だって気付くだろ?」

「は?何を言っているんだ?僕の世界って?」

「いや、こっちこそは?だよ。なに、その怪訝そうな顔?まさか、物理的に世界が由紀を中心に廻っているなんて、馬鹿なこと考えたわけじゃないでしょ?」

「いや、考えたが」

「あんた、頭良いのに馬鹿だね」

「いい加減怒るぞ」

「あんたの世界だよ。あんたの心が由紀を中心に廻ってるじゃん。それを、恋と言わずなんと言う気かね?元プレイボーイ?」


 恋?


「あんた、由紀のことで頭いっぱいでしょ?」


 当たり前だ。彼女は特別な存在で。

 僕は彼女を幸せにするためにやって来た。


「由紀が嬉しいときは嬉しくて、由紀が悲しいとあんたも悲しくなるでしょう?」


 当たり前だ。彼女の感情の機敏に世界の命運がかかっている。感情がシンクロするのは、至って特別やことじゃない。


「そんで、由紀に嫌われる位なら世界なんで滅んじゃえ!って思わない?」


 そんな、僕は世界を救うためにやって来たのに。



 ……思ってしまった。



 彼女に嫌われる位なら世界なんて滅んでしまえと望んでしまった。


「あ、図星だね!うん、本当は自分で自覚した方が良いんだろうけど、これ以上落ち込んだ由紀を見てられなくてね。おい、いつまでぽかんとしてるつもり?自分の感情分かったならさっさとやることやってこいよ」

「……うるさい。分かってる」

「元プレイボーイの初恋、ぷぷぷ」

「笑うな。だいたい元プレイボーイってなんだ」

「え、否定出来るの?」

「っ……、今は一途だ」

「自分が恋してたことさえ気付かなかったのに!だっせぇ!!」

「うるさい」


 非常に、不愉快だが會田万智によって僕が彼女に恋をしていることが判明した。

 恋なんてしたことなかったから、分からなかった。


 そうか。

 これが、恋。

 些細なことに一喜一憂して、頭が馬鹿になってしまうのが恋。

 僕を、どうしようもないポンコツに変えてしまう不治の病。いつの間にか、僕はこの病に犯されていたのか。


 それならば、することはひとつ。


「……まあ、後でお礼してやる」

「あ、焼き肉食べ放題件で宜しく」

「ふん、そんなものお安いご用さ」


 明るみに出た新事実に僕は気分が高揚していて、廊下は走らないなんて基本的なマナーも忘れ、僕と彼女の教室に向かう。

 彼女は自分の席でおとなしくポツンと座っていて、声をかけようとするがそう言えば、人前で話しかけられるのを彼女は嫌がる。


 それでも、僕は基本頭がいい。直ぐに、言い訳を思いつき、彼女の机の隣に立ち用件を素早く告げた。


「数学の菅井先生が今日の課題プリント取りに来てだって。今日の日付と同じ名簿番号の人が当番だから」


 彼女は僕に話しかけられたことに、驚きながらも慌てて頷き、立ち上がった。


 うつむきがちの彼女から微かに見えた目元は赤くなっていて、僕の胸はぐぅっと締め付けられる。今までなら、若いのに心不全か?と疑っていたが、これは病の症状なのだ。

 数学科は学生棟とは違う人の少ない部室棟にあるから、そこで待ち伏せして彼女を捕まえた。


「え、 神崎君!?あの、当番が」

「ごめん。嘘」


 予想通り、彼女は驚き挙動不審になる。

 いつもなら、彼女の精神衛生状を考えて引き下がる所だが、今回ばかりはそんなわけにはいかない。


「え……なんで」

「君と話がしたかった。二人で」

「……私は、」


 逃すものか。

 僕の初恋を。


「好きです。僕は佐々木由紀さんが好きです」

「……は、……え?」

「初恋だから、気付くのが遅れた。君が好きだ。多分、君が思っている百倍は好きだ。君を幸せにしたい。君を笑顔にしたい。君の隣にずっといたい。君の人生を僕の人生を掛けて誰よりも幸せなものにしたい」


 僕のいきなりの愛の告白に、彼女は目を見開き、耳を疑っている。

 ああ、彼女は鈍感だからこんなんじゃ足りないかな。


「ちょ、ちょっと、待って。え、え、ええ。あの、その」

「好きです。付き合って下さい」

「あの」

「言っとくけど、諦めないから。今は無理でも、絶対に君を僕に惚れさせてみせる」

「いや、あの」

「君を誰よりも幸せにするから。他の誰でもなくて僕が。だから、付き合って」

「あの、だから」

「僕は諦めないよ」


 間髪いれずに、愛の告白を繰り返すと彼女は急に決心したように僕をきゅっと睨んで来た。


「あの!だから、私も好きです!」

「え」

「私も神崎君が!好きです!だから、こちらこそお願いします!!」


 漸く視線が交じりあい、彼女の顔がインフルエンザにかかった時のように真っ赤に染まり、瞳は涙で潤んでいる。


「本当?嘘じゃないよね?嘘じゃないよね?佐々木さん!」

「こんなことで、嘘はつきません!神崎君だって、女の子なんて選り取りみどりな癖に私なんて、現実味なくて嘘っぽい」

「え、僕は佐々木さんより可愛い女の子見たことないけど」

「……恥ずかしい」

「ほら、そうやって直ぐに赤くなるところが可愛い」


 僕は、この時確実に浮かれていて、とりあえず彼女がいとおしくて仕方なかった。正直、彼女も少なからず僕のことを意識しているだろうと思っていたけど、彼女はある意味予測不可能だから。

 途中で、ホームルームのチャイムが鳴ってしまい慌てて教室に帰ったのは少しカッコ悪かったかもしれない。



 授業が終わり、彼女と付き合えて一安心したので、携帯の電源を着けたら十数件のメールが送られてきていて、さっきまでが不幸の知らせで、彼女と結ばれてから幸福な内容の報告だ。

 やっぱり、彼女は幸せならしい。


 そして、僕は彼女と付き合うことを報告した。案の定、上司は怒ったがこうなった以上僕を引き剥がすのは彼女の精神衛生状よくないと言えば、引き下がるしかない。

 


 こうして、僕と彼女と邪魔者、會田万智の穏やかな生活は再開した。



 世界は彼女を中心に廻っている。

 でも、それ以上に僕の心は彼女を中心に廻っている。





 完

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく拝見させて頂きました。ぶっ飛んだ設定にも関わらず、わかりやすく表現されていて面白かったです。
2017/06/28 16:27 退会済み
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