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プロローグ

 その日、俺が本日締め切りの提出書類をやっと仕上げて、ふと時計を見ると短針はすでにてっぺんを越えていた。


「まじか……。」


 俺は思わずつぶやいたが、返事はない。さっきまで後輩が居たはずだがいつの間にか帰ってしまったようだ。そういえば「川端さん、お先にー」とか言われたような気もする。


 凝り固まった肩を揉みながら、今日は帰らねば……とため息をついた。昨日も遅くなって漫画喫茶に泊まってしまったので、いい加減自宅のベッドが恋しい。そもそも風呂に入らないと、明日の商談で得意先に顔を出すにはまずい有様だ。


 ――チャリ。


 事務所に鍵をかけ、最終退館手続きをし、立体駐車場から営業車を発進させる。俺の通勤時間は自宅まで電車で約1時間半、終電はもう無いので自宅まで車で帰る事にした。


「おっと、これを忘れていた」


 ETCカードを取り出して会社貸与のものから自前のETCカードにすり替える。以前、真夜中に高速をつかったのが履歴からばれて始末書を書かされた為だ。


「こういうのって正に無駄な工夫だよな」


 苦笑しながら車を走らせ、高速に乗ってしばらく。川崎の工業夜景が見えてきた。昼間は寒々しい光景だが、夜中に見ると神々しさすら感じさせる幻想的なイルミネーションへと変貌する。


 俺は昼間のいかめしい景色も好きだが、わざわざこの夜景を見るツアーもあるとか。まあ、見応えのある風景ではある。


 少し眠くなってきたのでカーラジオのボリュームをあげた。よく知らないアイドルグループのニューシングルだという曲が車内に響く。


「早く寝てぇー」


 誰も居ないので大声で叫ぶ。こりゃ、シャワーは朝にして家についたらとっとと寝てしまおう。菓子パンの買い置きはあるし、自宅まで直行してそのままベッドにスライディングだ。


 そんな事を考えていると、大きな月が見えた。


「月ってあんな大きかったかなー。スーパームーンってやつ? 違うか」


 とても大きな青い月だ。こんな真っ青な月は見たことがない。



「……ふふふ」



「――えっ!? 今、何か声がした!?」


 やめてくれ、俺はホラーとか怪談とかそういうものが大の苦手なんだ。気のせい。気のせいだ。



「……ふふふ」


 

 やばい。また、声がした。

 俺は恐る恐るバックミラー越しに後ろを窺うものの、当然だが誰もいない。


「――……早く帰ろう。疲れてるんだ、きっと」


 アクセルを踏み、スピードを上げる。いざ我が家へ。俺には休息が必要だ。








 ――――それが俺の、川端 幸司(かわばた こうじ)の最後の記憶だった。


プロローグなので少し短いです。後でもう一話投稿します。

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