エピローグ ルカへ
「ふわぁぁ~」
目が覚めて、うーんと伸びをした。うん、今日も清々しい朝だ。と、足下を見るとノートが床に落ちている。
「ああ、ページがバラバラだ」
落ちた衝撃でか、綴じていた紐がゆるんで紙がばらけていた。ぶつくさ言いながらそれを拾い上げる。これは最初の事業改善計画か……懐かしいな。
「あれ、なんだこれ」
拾ったページをまとめていると、最後に残った一枚の紙。そこには確かにぼくの字でこう綴ってあった。
『ルカへ。これから大人になるお前に忠告だ。疑問を持って周りを見ろ、進むのをやめるな。俺からはそれだけだ』
「うーん? こんなの書いたかな……でも分かる。宿が新しくなっただけで満足しちゃいられないよ」
エリアス達がまた再びヘーレベルクに来た時も、『金の星亭』はちゃんとここに建っていなくちゃ。ぼくは、今日もお客さん達をもてなす為に軽やかに階段を降りていった。
*****
「う……」
目を覚ますと、白い天井があった。見慣れた木の天井じゃない。……という事は……。
「あっ」
急に耳元でした大声にびくりとする。そちらを見ると、看護師の女性が驚いた顔でこちらを見ていた。
「川端さん?」
「はい……なんでしょう」
そう答えた声はひどくかすれていた。ここは病院なんだろうか。そして俺はいつからこうしているんだろうか。
そこからはひどく慌ただしい日々か続いた。俺はやはりあの営業車で事故ったらしい。幸い外傷らしい外傷はなかったのだけど、いつまでも意識を取り戻さなかったのだと医者から聞いた。千葉から駆けつけた家族は大泣きしながら喜んでくれたし、会社の同僚や上司も見舞いに来てくれた。
「ふんっ……ふんっ……」
そしてそれからリハビリの日々が続いた。寝たきりで随分筋力が低下していたのだ。そしてそれらが終わり、退院の許可が下りると……俺は会社を辞めた。
代わりにはじめたのが、専門学校通いだ。俺は今、ホテル学校の生徒として随分年下の同級生達と席を並べている。
「川端さん、よく会社を辞めてまで決心しましたね」
「周りは色々言うけどね」
飯を食っていたら同級生にそう聞かれた。30過ぎて何考えているんだとか、ホテル勤めなんて大して儲からないとか実際色々言われたさ。でもな……と、俺は左手首に目を落とす。
そこにはこの世界で俺にしか読めない字で……「ルカ」と書かれたブレスレットが巻かれていた。
「夢を夢のままにしとかない為にさ、明日後悔しない為に俺は動きたいんだ」
「へぇ……かっこいいですね」
「そんないいもんじゃないよ」
――ルカ、いつか会えるよな。その時には俺は……お前に誇れる俺で居たいんだ。
(完)
これにて完結です。読んでくださった読者の皆様、ありがとうございます。約一年半に渡り読んで頂きありがとうごさいました。
今後はできたら番外編なんかも書いていきたいと思います。
新作の方もがんばってますので応援のほどよろしくお願いいたします。