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セラミックの激うま恐竜レシピ  作者: 印朱 凜
エピソード5 恐竜プリン 
73/74

恐竜プリン 13口目


「優勝は……! エントリーナンバー3番の恐竜バームクーヘンに決定しました! カフェチェーン店経営者であり、ベテラン級パティシエにしてショコラティエの山川邦之さん、本当におめでとうございます!」


「はぁ!?」


 森岡世志乃は、音速で鼓膜にまで到達した意外な結果を脳が認識した直後、思わず失望とも驚嘆ともつかない悲しすぎる声を上げた。

 そして同時に出品者全員を支えるステージが大音響で崩壊し、1メートル床下に沈んで尻餅をついたかと思うと、天井から大量の木材やらタライが次々と降ってきて音を立てて転がった……ような錯覚をセラミックは抱いたのだ。


 恰幅のよい山川氏が満面の笑みを浮かべて登壇し、まねや社長に向かって白髪混じりの頭を下げる。宮川と愉快な仲間達チームのイケメン3人組は、残念そうな土肥さんと一緒になって勝者に拍手を捧げ始めた。


「優勝の山川さん、コンテストに出品された『恐竜バームクーヘン』の受賞、誠におめでとうございます。今回我々審査員は、とても悩みました。出品された5種の創作お菓子は、どれも非常に完成度が高く、なおかつ美味で甲乙付けがたく、とても1つに絞る事ができなかったからです。それでも最後には、僭越ながらこの私、まねや代表の一声で優勝作品が選ばれました」


 パティシエ姿の山川氏は、首肯するように白帽を小刻みに揺らしながら、続く社長の言葉を待った。


「沢山ある出品作の中で、明日にでもお店のショーケースに並べられるのは『恐竜バームクーヘン』だけだったのです。他の出品者のアイデアと創意工夫に満ちたスイーツは確かに素晴らしかった。でも生産コストや、新商品としての受け入れやすさ、それに菓子職人の手間ひまの面を考慮した作品は少なかった。その点で既存の設備をそのまま利用できる『恐竜バームクーヘン』は、色々な意味で美味しくて私には魅力的に思われたのです」


 松上晴人と松野下佳宏は、静かに受賞の言葉を聞いている。他の審査員も、社長の後ろ姿を無感情な面持ちで見続けているだけであった。


「そうか……」


 セラミックが、溜め息混じりの小さな声を漏らすと、心配そうな隣の奈菜ちゃんに手を握られたのだ。


「お姉さん。ちょっと残念な結果になっちゃいましたけど……チーム世志乃との対決は、引き分けといった感じですかね?」


「そうね、勝負が付かなかったから、今まで通りβチームに居続ける事はできると思うんだけど。う~ん……実際は、どうなるのかな?」



 皆から少し離れた場所にいた森岡世志乃は、耳を疑うようなフランソワーズの台詞が確かに聞こえた。


「お父さん、優勝してよかったね……」


「えぇっ!? 私には今、お父さんって聞こえたのですが……ひょっとして……」


「あら、言ってなかったっけ? 実はパティシエの山川邦之って私の父親なのよ。でも安心して! 神に誓ってスパイの真似事なんか一切してないから。世志乃に関する事や、もちろん他の情報もだけど、一言たりともお父さんには流してないよ」


「つまりズルなしの正々堂々とした勝負だった、と言いたい訳ですか……それにしても、何だかなぁ~」


「私も自分の父親が出場すると聞いてビックリしたけどね。今更だけど、世志乃にはお父さんの情報を、こっそりと教えてあげればよかったかな」


「いいえ、結果は変わらなかったと思いますわ。フランソワーズ・山川さん」


 森岡世志乃は完膚なきまでに叩きのめされたように、頭を抱えて天井を仰いだ。観客からは、よほど優勝を逃した事が悔しかったのだろうと思われたに違いない。



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