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セラミックの激うま恐竜レシピ  作者: 印朱 凜
エピソード4 恐竜ステーキ 
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恐竜ステーキ 18ポンド目

 

 真美さんはセラミックの発言を耳にして、なおも不満らしく小声で漏らした。


「なぁ~にが的確なのか。御家族についた優しい嘘が、もしバレたらどうするつもりだったのか……。『美久さんは体調不良にて、長野で2、3日休んでから帰ります』って私から電話した時、緊張で手が震えたわ」


「もういいじゃないか。セラミックの御両親には、リーダーとして本当の事を話すつもりだ。今日はそのために来たんじゃないか……」


 道理でどんよりと暗くもなる訳だ。セラミックは、せめて恐竜料理で彼に元気を付けさせようとフライパンを振るう手に拍車を掛けたのだ。


「サラダの後は、いきなりステーキです」


「わお!」


 一堂の注目が集まる一皿……正確には木製プレート上にある、こんがりとした肉塊からは香ばしい何かが、まるで見えない狼煙のように湧き上がり、カウンター越しからの熱い視線を集める。

 ビジュアル的にはシンプル極まりない。飴色のパリッとした表面にはナイフが入れられ、6等分された傍にポテトフライも添えて肉汁を堰き止めている。断面からはフレッシュな肉色が覗き、それはクレソンの草色と見事なコントラストを描いていた。ニンニク入りマスタードと岩塩が、お供えのように盛られている。


「ふむ、これはおそらくトルヴォサウルスだね」


 まずは松上晴人の前に供された恐竜肉の正体が、呆気なく看破された。


「さすがはリーダー。若鶏じゃなくて若竜の揚げ焼き、ステーク・フリットです。高温のヒマワリ油を回しがけしながら火入れしているので、サクッとした食感としっとりとした中身が楽しめるんです」


 3名に配られたインパクトあるステーキは、みるみるうちにフォークで口の中に運ばれてゆく。真美さんは上品にナプキンで口元を拭いながら言う。


「肉食恐竜のモモ肉なんて固くてダメだと思ってたけど、これは本当に柔らかいね」


 白帽を乗せた頭を得意げに、ほんのちょっぴり傾げたセラミックは秘密を明かした。


「ふふふ、実は熟成(ドライエージング)をかけて肉を柔らかくしてみたんです」


 口中でじんわり拡がる凝縮肉汁と、鼻から抜けてゆく炒り豆やナッツにも似た熟成香……松上は己の味覚・嗅覚神経を総動員しながらそれらを受容すると、冴えた脳髄に叩き込んだ。そして溢れいずる幾千単位にも及ぶ各情報を瞬時に取捨選択した後、簡潔な言葉として刻んだ。


「乾燥熟成させるとタンパク質分解酵素の働きで、旨味成分のアミノ酸やペプチドが増えると同時に柔らかくなるんだよね。あれからだいぶ経つが、よく腐らせなかったな」


「父親のツテで専門業者に頼んでみたんです。肉が戻ってきた時は縮んでカビだらけだったからビックリしましたよ」


 カビという単語に中山健一が過剰に反応した。


「えぇ!? カビ! 夏場にそんなもの食べて大丈夫なの?」


「まあ、白カビ・青カビのチーズと同じようなモノだと思ってもらえれば……。大きかった肉も、悪くなった部位を削っていくと、最終的に食べられるところは1/3ぐらいになっちゃいました」


 セラミックと中山健一のやりとりに真美さんも一言。


「健一君は海外生活も長いのに食文化の違いくらい経験してるでしょうに」


「海外でも人一倍、食あたりには注意してるから言ってるのよ!」


 姉妹いや、兄妹のような2人にセラミックは、クスクスと笑いをこらえるのに必死となった。さりげなく松上のプレートをチラリと確認すると、綺麗に平らげている事が分かり、少し安心する。


『良かった……食欲もあるし、口に合わない事もなかったんだ。……よ~し! これはいける!』


 セラミックは次の料理に取り掛かった。何と掟破りの連続肉料理、ダブルメインディッシュ、焼き肉食い放題の店状態である。


 




 



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