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セラミックの激うま恐竜レシピ  作者: 印朱 凜
エピソード4 恐竜ステーキ 
54/74

恐竜ステーキ 13ポンド目


 ……おい、セラミック……。

 ……起きろよ。いつまでそうやって寝てるんだ?

 

「おい、セラミック! 起きてくれ!」


「う~ん……?」


 セラミックは誰かに揺り動かされて、再び眠りから目覚めた。くすんだ顔を起こすと、目の前にある焚き火の炎がパチパチと爆ぜながら、優しい光と暖かみを供与し続けている。


「ん? ……どうしたんだ? 泣いているのか?」


 松上晴人が、心配そうにセラミックの顔を覗き込んでくる。彼は深夜まで寝ずの番をしてくれたセラミックの事を気遣い、長時間ぐっすりと眠らせてくれたのだ。

 思わず耳まで真っ赤になり、両手と毛布で顔を隠した。


「ごめんよ、セラミック。もう家に帰りたいのか……。そうだよな、家族も心配しているはずだし。……本当にすまない。俺のせいでこんな事になっちまって……」


「…………! 違うの! 悪い夢のせい」


 思わず声が出た。そしてセラミックは見た。やつれ気味に戸惑う松上晴人の横顔を。申し訳なさそうに、目も合わせてはくれない。

 彼も負傷し、極限状態の中で相当に頑張っているはずだ。なのに泣き言も一つ漏らさず、気丈に振る舞っている。その態度を目の当たりにして、セラミックは複雑な感情が渦巻き、何だか更に涙が溢れ出してくるのだ。


「さあ、もう泣かないで聞いてくれ」


「うん……」


「実は外部から微かに聞こえてきたんだ。俺達を呼ぶ声が、崖の上の方から確かに聞こえた」


「!! ……ひょっとして救援隊?」


「そうかもしれない。いや、きっとそうだ!」


 松上は手短に説明した。まだ動くドローンを飛ばして、2人がまだ生きている事を救援隊に知らせる手筈を。更にどこで救助を待っているのか、崖下までドローンを使って誘導すると言う。


「セラミック、君の力がどうしても必要なんだ」


「ええ、何でも言って」


「電波が届く外部にて、ドローンをリアルタイムで無線操縦する訳だが……」


「VRゴーグルを通して操縦している間は、無防備になって周囲の状況が全く分からなくなるのね!」


「……そうだ。外にはまだ凶暴なトルヴォサウルスがウロウロしているはずだから、セラミック! コントロール中の俺を守ってくれ」


「分かったわ!」


 松上とセラミックは向き合うと、笑顔で握手を交わした。言葉にはできなかったが、無事に2人で現代に帰還するという固い意思を伝えたのだ。

 涙が乾いた目には迷いなどなかった。セラミックは立ち上がると、89式小銃のコッキングレバーを引いて初弾を装填、セレクターの安全位置を確認した。


「我々の生存が絶望視され捜索打ち切りになると、グッと生き残る確率が低くなってしまう。何としても今、俺達が崖下で救助を待っている事を知らせるんだ」


「ええ、もう食料も乏しいし、現代に戻ってお風呂にも入りたいわ」


「ああ、温泉にでも浸かってゆっくりビールが飲みたいな。セラミック、その時は背中でも流してくれないかな?」


「いいですよ……って言う訳ないじゃないですか!」


 笑うセラミックの脳裏には、もう少し松上と2人でこの空気を味わっていたいとチラリと過ぎる物があったが、内緒にしておこう。傷口の化膿が始まったのか、彼の包帯を取り替えた時、臭ってきた事実が心に重くのし掛かる。



 焚き火を揉み消して荷物を纏める頃、セラミックは匍匐前進しながら外部の様子を伺った。

 土砂崩れの現場は、バラバラになったアロサウルスの巨体が転がり、相変わらずトルヴォサウルスの若い個体が骨をむしゃぶっている。首筋にフサフサとした羽毛が密生しており、ライオンの鬣を連想させる姿だ。

 松上も息を殺して静かに洞窟外に出ると、電波送受信状況を確認しながらドローンの無線操縦にベストな位置を探り始めた。


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