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セラミックの激うま恐竜レシピ  作者: 印朱 凜
エピソード4 恐竜ステーキ 
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恐竜ステーキ 6ポンド目


 カンプトサウルスの群れが、兎のように背伸びしながら警戒している。その方向へ、松上はドローンを方向転換した。高度を若干上げて、何が接近中なのかを空から探るのだ。

 草食恐竜の視線の延長線上には、原始的な被子植物の森が鬱蒼と茂っているだけで、上空からは特に異常が見られない。気になるのはβチームが休憩している開けた場所から、それほど距離的に離れていないという事だ。


「肉食恐竜でも潜んでいるのか? まさかアロサウルス?」


 枝葉が邪魔して地表を移動する生物は分かりづらい。体色を変化させてカメレオンのように周囲の風景に溶け込む技を持つ恐竜もいるらしい。


「おい、中山君! ベオウルフの出番だ。周囲の警戒レベルを上げたほうがいい」


 今回のターゲット恐竜、アロサウルス用に特別手配されたベオウルフは、M-16系では最大となる50口径を誇る化物じみた銃である。セミオート・オンリーのライフルだが反動が凄まじく、扱う人間を選ぶ。なよなよとした中山健一は、こう見えても腕利きのガンマニアで、こういった銃を平気で使用する。


「さあ、あなた達も、いつでも撃てるようにして……」


 彼は銃口付近のハンドガードを横から伸ばした左腕で保持する“ソードグリップ”の構えを決めた。

 上着の前をはだけ、銃の初弾を装填した吉田真美が、緊張した様子で叫ぶ。


「ちょっと、リーダー! いつまでドローンを飛ばしてるのよ。ゴーグルを外さないとヤバいよ!」


「分かってるよ。何とか、ここまで戻そうとしているところ……」


「きゃあ! 前、前!」


 セラミックは思わず悲鳴を上げてしまった。前方の獣道ならぬ竜道となっている開けた地形から、黒っぽい地味な体色の全長8メートルクラスの大型恐竜が現れたのだ。

 頭に乗った枝葉を首振りで払い落とした後、2足歩行の恐竜は顎を半開きにして周囲の臭いを嗅ぎながら駝鳥のような足取りで迫ってくる。肉食らしいナイフのような牙と鋭い爪が特徴的だ。


「アロサウルス! アロサウルスよ! 間違いないわ!」


 銃を構えた中山健一は、空に向けて一発の威嚇射撃を行った。ベオウルフが凄まじい反動と炸裂音を発すると、さしもの巨大肉食恐竜も停止せざるを得ず、その場で驚いたように伸び上がる。


「きゃあ! 後ろ、後ろ!」


 セラミックの叫びに松上晴人は、ついにVRゴーグルを額に上げて操縦を止めた。囲まれてしまった状況を察知して、ドローンを放棄する事を決めたのだ。


「チッ! 頭のいい連中だ」


 舌打ちした松上がコントローラーからレミントンM870ショットガンに持ち替えた時、後方から近寄ってきたアロサウルスは、すでに走り出していた。巨体にも似合わず結構なスピードが出せるようだ。


「どいて! 二人共、早く伏せて!」


 焦って射撃を開始した吉田真美とセラミックが屈んだ瞬間、黒鉄色のベオウルフが吠えた。


 リップクリームのような巨大な薬莢が2つ宙を舞う時、アロサウルスの頭部は爆散し、腹部も風船のように割れて血煙が立ち上る。


 勢い余ったアロサウルスは松上に向かって突進し続け、彼の前で派手に崩れ落ちる。


「わわ、わ~!」


 2トンクラスの恐竜が倒れる時、運悪く松上周囲の地面が崖崩れを起こしたのだ。


「松上さん!」


 セラミックは反射的に飛びつくと、彼に腕を伸ばし続けた。アロサウルスと一緒に崖下に滑落しようとする松上晴人の手を掴んだ刹那、バランスを崩した彼女は巻き添えを食う形で運命を共にしたのだ。


 崖上では真美さんの悲痛な声と、中山が放つ銃声のけたたましい響きが交錯していたが、セラミックと松上には届きそうになかった。






 

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