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セラミックの激うま恐竜レシピ  作者: 印朱 凜
エピソード3 恐竜ずし
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恐竜ずし ごちそうさま


 ジョンとマックスも、アマチュアとは思えないセラミックの工夫と手間暇掛けた和食のプレゼンに賞賛を送った。


「ごちそうさま、瀬良美久さん。貴女は将来、きっと有名な恐竜ハンター、いや恐竜シェフとなるでしょう。その時は、また私と一緒に仕事しましょう」


「そうさ、困った時は知らせてくれ! 俺達は世界中のどこからでも、すぐ助けに来てやるぜ」


 ガタイのいい男達は余韻に浸る事もなく、頼り甲斐のある言葉を残して去って行った。Dr.も日本に馴染む前に帰国しなければならない事を、最後まで嘆いていたようだ。

 今回、不気味なほど無口な松上に、セラミックはイヤなツッコミをひしひしと予感して厨房から思わず逃げ出したくなる衝動に駆られた。

 2人っきりになると、ジュラ紀へのダイブ時に起こった思わず恥ずかしくなってしまうような事件の数々がフラッシュバックしてきた。着替えを覗かれそうになった事、メトリオリンクスに襲われかけた時にギリギリで助けられ、抱き合って見つめ合った事……等々。


「セラミックさん」


「はい!」


「和食として魚竜をすしにする事は正解だったかもしれない」


「ありがとうございます。目玉ちゃんは美味しかったですか? 松上さん」


「その呼び方はちょっとよせ。……それより一言だけ言わせてくれ」


「うっ、何でしょうか?」


「恐竜、いや古代の魚竜を生で食べる事は、どれほど危険なマネか分かっているんだろうな?」


 セラミックは言葉に詰まった。それでも全てのすしに何らかの仕事を施し、完全な生食をさせた訳ではなかったと思う。


「いくらお金を取って客商売していないからといって、安全性に問題のある物を平気で出すのはどうかと思うんだ」


「ごめんなさい。すし屋の大将からもアドバイスを貰ったんですが」


「ジュラ紀のオフタルモサウルスには未知の寄生虫が存在しているかもしれない。酢〆やズケ程度では現代のアニサキス幼虫も生き残ると聞いている。周りを焼いたタタキでも中心温度が低けりゃ然りだ。何より……」


「何より?」


「もう俺も食っちまったが、寄生虫以外の感染症が心配だな。古代の細菌やウイルスなんて研究が始まったばかりで、誰も詳しくは知らないのだ」


「ひええ! 試食で生魚竜を大量に食べてしまいました」


「とにかく、安全性が確立するまで生は避けておけ。恐竜狩猟調理師の国家試験では魚竜は生でも大丈夫となってはいるがな」


「何だか急にお腹が痛くなってきたような」


「多分ジョンとマックスは平気だろう。何せ、あいつらは不死身の特殊部隊員だからな。体力とサバイバル能力は常人レベルを遙かに超えている。ハンク先生もエネルギッシュで、あの調子じゃあ簡単には死なないだろう」


「本当に大丈夫なんですかね?」


「さあね。病気になったら一緒に入院しようぜ、セラミック!」


 松上晴人はいつもの仏頂面ではなく朗らかであった。明らかに2人の距離が縮まり、信頼関係のような物が芽生えてきたのだろうか。セラミックは松上の満足げな笑顔に、目玉ちゃんの魂が浮かばれたような気がしたのだ。言葉にはしなかったが、絶対美味しかったに違いない。そう思えるほどの純粋な笑顔だった。

 

 ふと胸がキュンとし、信頼関係とは似て異なる、もっと感情的な何かがスパークリングワインの泡のように立ち昇ってきた。

 ……もし松上さんと結婚するような事態になれば……親友の佳音が親戚になっちゃうのか……馬鹿! 目の前にいるのに何考えてんだ、私!


「どうしたセラミック? 救急車でも必要か? 言っとくけど、重篤患者様のために軽はずみで呼んじゃダメなんだぞ」


「違いますよぅ……!」




 目を閉じれば刹那に、魚竜が悠々と泳いでいた、かのジュラ紀末の荒々しくも清涼な海が思い起こされる。現在の海とは繋がっているようで、隔たりもある不思議な世界。ちょうど夢と現の関係みたい……。

 セラミックは何だか切ないような、漠然とした心持ちを彼に気取られないように微笑み返したが、確かな胸の内でそう感じたのだ。






 

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