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セラミックの激うま恐竜レシピ  作者: 印朱 凜
エピソード3 恐竜ずし
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恐竜ずし 11貫目


 松上晴人は森岡世志乃から89式小銃を借りると、セラミックの傍へと向かい一緒に佇んだ。いつものおちゃらけた態度は、ジュラ紀末の空に潮騒と淡い飛沫のごとく昇華させた。


「セラミック、たとえ今すぐ海に戻しても、尾を失ったオフタルモサウルスは長く生きてはゆけない。それは分かるだろう? じわじわと苦しんで死ぬより、今すぐ楽にしてやった方がいい……」


 89式小銃がセラミックの両腕に手渡された。いつもよりズッシリと冷たい重みが伝わってくるように彼女は錯覚した。


「俺は、ほったらかしにしたままの松野下の所に戻る。いいな、セラミック……命懸けでコイツを守ろうとした君自身が手を下してやれ。最後まで面倒をみてやるんだ」


 セラミックは、涙が後から後から溢れてきて、何だか止まらなくなってしまった。中型の魚竜は大きな眼球表面が若干乾燥を始めたようだが、まだまだ元気で苦しげに長い前びれを鳥のようにはためかせている。

 真美さんが艶を失った唇から、たまらず言葉を口にした。


「ほら、セラミック……魚竜の心臓の位置は肉厚で、正確には分からない。即死させるには頭を撃った方がいいよ。ちょうどデカい目の上辺りを狙えば確実かな」


「……目玉ちゃん!」


 さすがに森岡世志乃も涙なくして見ることはできなかった。


「セラミックさん、ぐずぐずしていると私が代わりに撃ちますわよ! あなた、一流の恐竜ハンターを目指しているんでしょう? 何を手間取っているんですか!」


 震える銃口は、流線型で洗練された哀れなボディをなぞり、やがては強い意志によりピタリと頭部へと固定されたのだった。

 海上に進出した松上と松野下は、乾いた一発の銃声が海面を伝って響き渡り、それがボートのエンジン音に混じって掻き消されてゆくのを確かに捉えたのだ。



   ☆☆☆



 やがてアメリカ調査隊の硬式ゴムボートが、松上らの水先案内によりテチス海から帰還した。船上の7名は全身ずぶ濡れとなり、指が固まって銃のグリップから外れず硬直したようになっていた。ジョンとマックスも視点が左右・遠近と定まらず、クールとは正反対の顔付き。もはや誰もが放心状態であった。……ただ1人を除いては。


「いやいや、古代の海はエキサイティングで、大いに研究心が掻き立てられたよ。1秒たりとも無駄にはできなかったね。残念ながらサンプルの捕獲は無理だったけど。……だが装備を見直して、またいつかここに来る事を約束しよう」


 少年と見紛うDr.のハンクは興奮気味に語り、松上と松野下の背中をバンバン叩きまくった。アメリカのダイナソー研究センター長であることを今更ながらに明かしたのだ。


 ジョンは砂浜に乗り上げたボートから最後に降りた後、誰も怪我しなかった事に胸を撫で下ろした。SCAR小銃の機関部の水濡れを拭きながら、落ち着きを取り戻したマックスは、向こうの渚に横たわる魚竜の姿を見定めるなり仰天した。


「嘘だろ! あれは我々が探し求めていた魚竜じゃないか!」


 アメリカ調査隊は小走りで集合すると、動かない尾なしオフタルモサウルスを取り巻きにした。

 ジョンとマックスは、まじまじと魚竜の大きさと頭部の弾痕を見つめる。そして造形のディティールを手で確認した後、捲し立てるように問いかけてきた。心なしか震えているのが見て取れる。


「一体どうやってコイツを仕留めたんだ? 本当に信じられない。お前達がやったのか?」


 松上は悲しげなセラミックとは裏腹に、堂々と胸を張ってネイビー・シールズに答えた。


「ここにいるビキニの瀬良美久さんがやってくれました。……我々は海に囲まれた島国育ちなんでね! 漁に関する経験とノウハウの歴史が違うのだよ。よく分かったかね、カウボーイ諸君!」 


「Oh~!」


 ジョンとマックスは首を左右に振る仕草で眉を下げ、大袈裟に肩を竦めると顔を見合わせた。だが研究員達はセラミックに対し、惜しみない賞賛の声と拍手を捧げたのだ。特にDr.のハンクは、満面の笑みで両手の固い握手を求めてくる。


「いい腕だ、日本のキュートなハンターさん。これからもずっとサポートしてくれる事を願うよ!」




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