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セラミックの激うま恐竜レシピ  作者: 印朱 凜
エピソード1 恐竜カレー
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恐竜カレー 11皿目

 街路樹の緑が絵の具をパレットに絞り出したような色を誇っている。鹿命館大学の大学院は、ちょっとした緑に覆われた山中にある。街中でない分スペース的に余裕があり、雑多というより図書館的に整然とした印象だ。歩いている学生達も、男女共に派手な印象もなく理知的だとセラミックは感じた。松上晴人は自然科学研究科の研究室が存在する棟の1階にいる。

 ロビーというかラウンジスペースには、この度のジュラアナ長野へのダイブに協力してくれたメンバーが勢揃いしていた。あのような事件が起こったので、ちょっとした事情聴取が行われたようだ。

 

「……アレクセイは国外退去処分になったよ」


「そうですか」


 白衣姿の松上は、まるで別人のように物静かな振る舞いだ。その優しげな口元から発する言葉にセラミックは複雑な表情を浮かべた。


「別にあなたには何の責任もないのよ。むしろ謝るべきは、巻き込んじゃった私達の方ね」


 吉田真美は普段のラフな格好から一転して、銀行員のようなスーツを着こなしており、いつにも増してクールだ。着痩せするタイプなのか、自慢のお胸は目立つ事もなくスマートな姿である。

 松上は中生代にダイブしている時以外は、あくまでも紳士的で思慮深い研究員。ダイブ中に見られる芸人チックな、お調子者の印象は微塵もない。わざとそういった振る舞いで皆をビックリさせたいのか、内心何か企んでいるのかなと思わず身構えてしまう。こちらの方が本来のメンタルなのだろうか? そうあって欲しいとセラミックは切に願うのだ。


「松上さん、吉田さん! 今日はセラミックが何か持ってきてくれたみたいですよ! まあ、この匂いで鍋の中身が何なのかはバレバレですが……さっきから腹が鳴って仕方ないです。ちょうど昼飯時なんで」


 救援に駆け付けてくれたαチームのリーダー、松野下佳宏が涎を垂らしながら犬のように興奮している。彼は学者然とした松上とは正反対で、日焼けした筋肉質のスポーツマンタイプ。しかも任務遂行中は無口で冷徹な職人風、仕事を離れた現代世界でのOFF中は、陽気でおしゃべりな先輩風になる。名前といい、笑ってしまうほど松上とは好対照な人物だと思われた。

 セラミックはキャンプに持っていくような鍋を火にかけて温め直す。表面が溶岩のように沸き立つ頃には、スパイスの香りに釣られて学者達が次々と足を止めて集まってくる。タイミングよく、炊飯器にかけた白米も炊き上がった。

 店から持ち出した皿にご飯を盛り、鍋底からすくったソースをかけると湯気の中からゴロゴロとした魅惑の肉塊が躍り出てきた。何時間もコトコト煮込んだにも関わらず野菜のように煮崩れることもなく、しっかりとその存在感を主張してくるのだ。


「さあ、“カレー屋セラ”特製の恐竜煮込みカレーを召し上がれ!」


 松上研究員と吉田真美、それに松野下佳宏の前にボリュームのあるディノニクス・カレーがエプロン姿のセラミックによって供された。1階スペースは香辛料の放つ心地よい刺激と新鮮な驚きに満たされ、響めきが歓声のように湧き起こる。


「恐竜カレーだって! なんて贅沢かつ庶民的で親しみやすく、それでいて色めき立つ料理なんだ!」


 松野下がスプーンをくの字に曲げんばかりに握り締め、小刻みに震えながら大袈裟に言い放った。

 一方で松上は白衣の袖をたくし上げると、無言でカレーソースの香りをクンクン嗅いだ。そして肉をスプーンに乗せたと同時に一口噛み締めたのだ。傍で見守っていたセラミックが、お盆を胸の前でギュッと抱いて今か今かと気をもみながら次に出てくる言葉を待っている……。



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