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セラミックの激うま恐竜レシピ  作者: 印朱 凜
エピソード1 恐竜カレー
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恐竜カレー 8皿目

 アレクセイは、松上らの視線が自分越しになっている状況に、ようやく気付いた。

 3人に向けたショットガンの狙いは逸らさず、慎重に後ろを振り返った瞬間……アレクセイは心臓と胃の間隙を氷で撫でられたように全身、鳥肌が総立ちになったのだ。


 人間の背丈をゆうに超える二足歩行のトンビが、左右から無音で迫ってきていた。

 茶色の羽毛は猛禽類にそっくりだったが、頭部の先にはクチバシがなく代わりに鋭い歯がビッシリと並んだ巨大な顎が開いている。おまけに手羽先と足先には鋼鉄の刃物でできたような鉤爪を備えており、特に足の第二指に当たる爪の鋭さたるや、極太の釣り針のようでピーターパンに出てくる海賊フック船長の義手を思わせた。

 

「ディ、ディノニクスだ!!」


 複数の肉食恐竜の接近を許したアレクセイは一瞬でパニック状態に陥った。恐竜ハンターの経験が浅い彼は対処の仕方を誤ったようで、緊急通信の鉄則を破ったばかりでなく単独で戦い始める。

 よく映画で恐竜が怪鳥音を発しながら襲いかかってくるシーンがあるが、実際には無音だ。鷲や鷹や梟は獲物に悟られないように音もなく滑空し、気付いた頃には鋭い爪の餌食となっている。ディノニクスも待ち伏せが得意なのか、忍者のような静けさと佇まいだ。


「アレクセイ! 皆に銃を渡せ!」


 冷徹な松上の言葉はアレクセイの耳に届かなかった。生餌の物色を数10メートル先から始めたディノニクスに向かって、彼はショットガンをぶっ放す。だが間合いを詰めつつ高速旋回する恐竜には散弾の1発も命中しない。虚しく付近の地面を漆黒に掘り返しただけだった。


「ウージャス! 10番ゲージが効かない!?」


「当たってねーよ!」


 背中合わせに縛られた吉田真美とセラミックは息を合わせて器用に立ち上がり、そう叫んだ。

 幸いな事に派手な羽毛の1頭は大きな銃声に驚いて森の方に逃げ出した。だが大きな片方は、怯みもせず硬直するアレクセイに向かって飛びかかってきたのだ。

 次の瞬間、アレクセイは頭頂部と右肩に尖った爪が食い込む痛みを自覚した。しかも左腕が大顎に万力のように挟まれている。深々と突き刺さった鋭い牙が肉を引き裂き、骨にまで達していた。


「……!」


 噛まれた男はあまりの事態に声も出せない。そのまま大腿部に足の鉤爪を打ち込まれ、ディノニクスに地面に引き倒された。

 松上は拳大の石を拾うと2、3個恐竜の頭部にぶつけたが効果はない。苦痛に顔を歪めるアレクセイは、かろうじてショットガンを握り締めていたが、左腕に食い付かれているので当然リロードなどできない状態だ。


「馬鹿野郎! 俺のライフルを返せ!」


 力任せにライフルを奪い取った松上は、銃床でディノニクスの鼻先を殴りつけた。しかしながら人肉の血と味を覚えたディノニクスは容易に引き剥がせそうにない。ズルズルとアレクセイを森の方まで引き摺り始める。


「こん畜生! 哺乳類を舐めんじゃねーぜ!!」


 追いすがってきた松上にディノニクスは全身の羽毛を逆立てると、大口を開けて威嚇してきた。血に染まる鋭角三角形の牙がノコギリのようで、狂った光を反射するのだ。ライフルの安全装置を外す松上に向かってノコギリ歯が迫る。


「松上さん! いやああぁ!」


 セラミックは何もできず、松上の名を連呼するだけだった。



 



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