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セラミックの激うま恐竜レシピ  作者: 印朱 凜
プロローグ
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表紙

挿絵(By みてみん)

 Illustration――キウイ将軍/pixivハンドルネーム(わいじ)



『長野県の松代市、皆神山に巨大穴が出現』


 これが約10年前、新聞に掲載された記事だ。当時の人々は太平洋戦争中に掘られた数多くの首都施設移転用地下壕が崩れた結果だと噂したが、事態はそんなに単純なものではなかった。

 群発地震後に溶岩ドームである山の頂上付近に突如出現した巨大陥没穴。ほぼ円形で直径1キロ近くもあり、地殻を貫いて地獄に続いているかのごとく底が観測できなかった。実際どのような測量技術を用いても白い霧に包まれた底部は調査不能で、ようやく世界が大騒ぎを始めたころ、更に度肝を抜かれる事件が発生した。それもそのはず……白い霞に覆われた陥没穴から、見た事もない生物が一匹飛び出してきたからだ。


 そいつは現生のどの動物にも属さない完全に新種の飛行生物だった。だが同時に誰でも図鑑で知っている見覚えのある生物でもあった。

 蝙蝠のような被膜に、鳥みたいな大き目の頭と鋭い歯。全身金色の羽毛で覆われていた3メートル級の巨大飛行生物は翼竜と呼ばれる古代生物だったのだ。気の遠くなるような過去に繁栄していた確固たる証拠はあるが、化石になってしまうほどの大昔に全て絶滅したはずである。


 最初に墜落した翼竜を偶然にも発見した地元の老人は、あまりの出来事に腰を抜かして入院したらしい。警察が大勢駆けつけたが埒があかず、地元の猟友会、大学の古代生物学研究室の偉い先生、果ては自衛隊まで出動して弱った個体は最終的に捕獲された。そして驚愕のニュースは電撃のように世界中を駆け巡ったのだ。


 それからが大変だった。世界中の注目を集めた松代市は一夜にして奇跡の街として有名となり、人口も倍増した。最初の翼竜は残念ながら研究者達の懸命な努力にも関わらず死んでしまったが、そんな事はすぐに忘れ去られてしまった。数週間後には陥没穴から次々と翼竜が現世に飛び出してきたのである。


「あの巨大な陥没穴は、1億年前の恐竜時代に繋がっているらしい」


「天然のタイムトンネルだ、時空を超えたワームホールだ」


「いや、地球の内部は空洞で地底世界に通じているのだ」


 人々の噂は無責任に広がるが、学者や探検家の数年に渡る努力にも関わらず霧に覆われた陥没穴の正体は依然不明のまま長野県に存在し続けた。

 歴史が刻まれ始めて以来、人類が直面した最大クラスの謎は、大いなる謎のまま放置され、今日も日常的に世界は回っている。情報過多で飽きっぽい日本では、翼竜が出現しても『里山にツキノワグマがこんにちは』程度の新聞記事にしかならなくなったぐらいだ。人々がなぜ落ち着いているのかと言うと、幸いな事に穴から飛び出してくるのは飛行可能な翼竜だけで、凶暴な巨大肉食恐竜がのしのしと歩いて現世へ登場のケースはありえない、と分かったからなのかもしれない。 


 ここまで来ると人類の知的好奇心と冒険心は留まる事を知らず、今度は人類が現代から古代へと進出する番がやって来た。毎年外国からの陥没穴探検隊が数週間、決死のダイブをして巨大恐竜の姿を撮影し大量に卵やサンプルを捕獲してきた。時を同じくして、一大恐竜ブームが湧き起こり世界の各地で恐竜動物園も次々とオープンした。明らかに人類は宇宙進出より古代進出に力を注ぎ始めたようだ。

 これは、そんな夢のような嘘のような時代のお話。



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