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初めてのダンジョン

ただし清掃側

この異世界”エレストガルム”には、数え切れない程のダンジョンが存在する。

果てしなく続く迷宮に多種多様な魔族が棲み、それぞれに至大な宝を守っているのだ。


これまで何千何万もの冒険者がその攻略に挑んだが…あまりの広大さと迎え撃つ敵の強さに圧倒され、命は落としていないものの、全ての人間が挫折していた。



………郡八代が現れるまでは。









「……なーんてカッコイイ感じの前書きから始まっても、その見た目じゃ説得力ないね八代君」





魔王ディクセルの間にて、メデューサの能力により体が固まっていた八代は、無理やり甲冑を脱がされ…まるでホテルで働く清掃員のような、青くさっぱりとした制服に着替えさせられていた。




「では、そろそろ楽にしてあげましょう。……ほい」



フラウンは人差し指で軽く八代の額を突いた。

硬直が解け、言葉を発する事が可能になった彼は早速、今自分が置かれている現状に対して激しく怒りをぶつけた。




「……お…………おおおい!!!何なんだこの格好!!?どっから持ってきたんだよ!!世界観どうしたんだよ!!!」

「魔王様の言う通り、本当節操ないですね…」

「ね?節操ないんだよ…」

「節操節操うるせえ!!!言っておくけどそれ使い方間違ってるからな!!?」




八代の叫びを全く意に返さず、フラウンは冷たい口調で告げた。




「八代さん。先程魔王様が言っていた通り、大前提である全ダンジョンの清掃を行なってもらいます」

「”清掃”って何なんだよ……!!何で勇者に魔物の巣窟掃除させるの…!!?」

「君は、”あらゆる魔物が獲物を狙って身を潜ませている恐ろしい場所”…という認識で、これまでいくつものダンジョンを踏破してきたのだろうけど……本当はそうではないんだよ」

「また説教か……じゃあ本当は何なのか教えてくれよ!」



これまで誰一人として攻略した者がいなかったダンジョンであったが、八代は魔王討伐の旅に向かってから現在まで…なんと100以上を踏破していた。彼の実力は本物である。ただこの魔王があまりにも規格外過ぎるだけだ。




「それを今から君に見てもらうんだ。じゃあフラウンちゃん、よろしくね」

「御意。……行きましょう。八代さん」

「え、何処に行くんだよおい!!いや、多分ダンジョンなんだろうけど流石に急展開すぎじゃ…」



フラウンは八代の体を悠々と片手で持ち上げた。

そして突然、彼女の足元に巨大な魔法陣が紫の閃光を発しながら現れる。



「うわぁ完全にゲートだよこれ!もはや抵抗しても無駄なやつだよそれにしても力強いなアンタ!!」

「いい加減口縫い付けますよ……!!!」



もはやどうすることも出来ないと諦めた八代。そんな彼に魔王は、思い出したかのように声をかけた。




「あ、そうだ。八代くーん!!契約は制服着せてる間に済ませといたからね!!左の手の甲を見てごらん!」

「そんなあっさりやっていいの!!?………左手の…甲……うおっ!?何だこれ…?」



言われた通り見てみると、そこには真四角の盾と長い剣が交差したような…赤い紋章が刻まれていた。



「それがある限り、君が魔族に手を出したら一瞬で四肢もげるから注意してね!!健闘を祈る!!」

「もう……何も言う気力が出ないわ………。因みにこれ、俺が勇者だから剣と盾なのか…?」

「いや、(ほうき)(ちり)取りをイメージにデザインした紋章だよ!!」

「作り直せやああぁぁぁあああああぁぁあああああ!!!!!!!」




刹那、フラウンと彼の体は…魔法陣に呑み込まれた。







「………っと。…さぁ八代さん到着です」

「ぐぉぉ……ちょっとこれ……転移の衝撃強すぎだろ……!身体痛ぇ……」


彼女に持ち上げられながら、八代は苦悶の表情を顕にした。



「普通の人間なら、転移完了前に臓物全部潰れてますからね。…本当に最強の英雄なんですね、びっくりしました」

「あっぶねぇ!!そんな曖昧な認識で転移させないで!!」

「まぁまぁ落ち着いてください。………ここが、あなたが最初に担当するダンジョン。”ルーイ・ヴィレッジ”です」

「ヴィレッジ………?」


静かに顔を上げると……そこには、想像もしていなかった光景が広がっていた。


どこまでも広がる地平線に、夥しいほどのレンガ造りの住居が立ち並び…その合間を縫うように隙間なく淡い緑の草原が覆っている。あちこちから子供達の甲高い笑い声や男性の勇ましい掛け声なども聞こえ、そしてそれらを暖かく包み込む陽光まで降り注いでいた。



「こ……これって本当に……ダンジョン…なのか………!?」




八代のダンジョンへの認識は、この時点で既に覆され始めていた。



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