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囚われの英雄

こんにちは、郡八代(こおり やしろ)19歳です。

言わずもがなのトラック転生&チート能力で”歴代最強の英雄”としてこの異世界に知られている者です。


さて、私はこの度………魔族に捕らえられました。







「く……っそ…!!こんなのアリかよ!!!おいコラ!!これ解け!!!」

「こらこら静かにしなさいヤシロ君。でないと口から魔剣ぶっ刺して串焼きにしますよ」



極東にある、魔族達の象徴でありこの異世界の闇の本丸…魔王城の一室。


真紅の絨毯が敷かれ、禍々しい髑髏と松明が壁に隙間なく装飾された広大な妖しい空間で、八代は体中を縄で縛られ、魔王本人に説教を食らっていた。黄金の甲冑に英雄の大剣を背負い、英雄オーラに溢れた彼だが…この状況では完全に”何故かめちゃくちゃフル装備の捕虜”にしか見えない。



「大体君ねぇ、私に何の断りも無くバンバンバンバン魔族切り倒して……節操というものを知らないのかい?」

「何で魔王に節操について問われなきゃならないんだよ!!これが俺の仕事なんだっつの!!」



魔王ディクセルは彼の眼前の玉座に鎮座していた。



人間大の体長、鬼のような二本の角。漆黒のマントに地鳴りのように低い声。いかにも魔王という雰囲気だが…その口調や内容は、完全にヤンチャな中高生を諭す担任教師のそれである。




「はぁ……君のように、最初から恵まれてるタイプは聞く耳を持たないからねぇ…。そんなんだから慢心して私にやられてしまうんだよ?」

「ぐっ…!!これは……只単に俺の力不足で……別に慢心なんかしてねぇよ!!…ていうか何でいつまでも殺さずに説教してるの!?最大の反乱因子だよ!?許されるのこの状況!?」

「全く問題ないよヤシロ君」

「そりゃそうだよお前が責任者だもん!!余計な事聞いてごめんね!!?」



彼は完全に動揺していた。

これまで少しでも敵に追い詰められた経験が無かった人間からすれば…この状況はあまりにも異常で非現実的なものに思えるのだろう。




「君は間違いなく、これまで私に挑んできた中で最も強い者だ。この私の左手だか右手だかの薬指……いや、中指にほんの少しの切り傷だか何だかよく分からない傷………え、これ傷…?を付けるなんて…」

「何もかも曖昧じゃねぇか!!こんなに微妙な気分になる褒め方初めてだよ!!」

「しかしねヤシロ君。私は常に”無血の和平”を望んでいる。ありふれた言葉かもしれないが、復讐は更なる復讐を呼ぶからね」


彼は自分の両手に傷があるのか確認しながらそう言った。



「……魔王が何言ってやがる。俺はこの世界に来た時から”魔族は絶対悪だ”と教えられてきたんだ。あらゆる種族を殺し、領地を奪い、長きに渡って私腹を肥やしてきた忌むべき種族だってのは紛れもない事実だろうが!」




魔王は一つ、大きな溜息を吐いた。そして、八代を憐れむような表情で再び語り始める。




「情報収集係のアンデッドのロータム君から聞いたけど…、君は数千年に一度現れる”転移者”らしいね。そして現在君の齢は18程度。故に……この世界にの真実について、まだ何も知らない」

「し……真実だと?」

「……ここで第一章から語っても良いけど…多分人間の寿命じゃ全部聞けないと思うからやめておこう」

「何章まであるんだよ!!簡潔にしてくれ!」

「あーもうそんないちいちギャーギャー騒がんといて!!本当に節操がないな君は…」

「あまりにも想像と違いすぎるんだよ何もかもが……!!そりゃ騒ぎたくもなるだろ…」

「…ま、それはさておいて。早速君にはこの魔王直々に”矯正カリキュラム”を施工してあげよう」

「は…?」




すると魔王は、玉座から静かに立ち上がり、指笛を思い切り吹いた。

鋭く、どこまでも通るその高音はこの一室だけでなく…魔王城全体に響き渡る。


数秒後、どこからともなく魔王の傍らに、魔族の少女が現れた。

透き通る程の白い肌と長い金色の髪、黒いローブ。そして…微かに胸元に見える”蛇”の紋章。




「うおおおぉぉぉおお!!?ど、どっから出てきたんだ!!?」

「彼女はメデューサのフラウンちゃん。これから君の”教育係”になる者だよ」

「き……教育係だと!!!?何ふざけたこと…」



咄嗟にフラウンという魔族の方を見る。彼女はこちらを睨んでおり、目が合った八代は体だけでなく、喋る事すら出来ない程体が硬直した。





………沈黙。先程まで轟いていた八代の声は、むしろ物悲しく感じる程に消え去った。






「………ディクセル様。これ本当に英雄なんですか?最強の」

「勿論!私の右手の薬指に数ミリ単位の傷をつけるレベルだよ?」



何とか傷は付ける事が出来ていたようである。



「そ……それは恐ろしい程に強大な力ですね……。私がメデューサだって聞いたのにも関わらず平気で目を合わせてくる馬鹿には到底思えません…」



依然石のように固まっている八代へと、魔王は近づき…顔を覗き込みながら言った。



「ヤシロ君。今から君にはある”契約”を交わしてもらう。怖い事を言うけど、これを破ったら君の命は無い。もう一度言う。私は無欠の和平を望んでいる…その為に、君には直接この世界の真実を見て欲しいんだ」

「ではディクセル様。この者に与えるカリキュラムというのは…」

「そうだ」




その一言から、俺の第二の人生は変遷を遂げた。




「”全ダンジョンの掃除及び、魔族との交流”。そして、彼以外の転移者達の対処だ」






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