異変
「出やがったな………緑色の怪物………ゴ…ゴブ…何だっけ……?」
「”ゴブリン”だよ馬鹿野郎!!さっさと戦うぞ!」
上下左右を覆う冷たい岩肌。数メートル先すらまともに見えないこの薄暗い不気味な空間にて、二人の”転移者”が敵と対峙していた。一人は先程街で購入したばかりの初心者向け鋼の甲冑セット。そしてもう一人は防具屋で一番安い盗賊装備一式を身に纏っている。
彼らの眼前には2体のゴブリン。目を血走らせ、今にも襲い掛かりそうな程に鼻息を荒立てている。
「んじゃあ、早速俺の火炎魔法で………焼き殺してやるぜ!!!」
甲冑男は、右手を高らかに掲げ魔力を集中させた。瞬く間に掌に大きな炎が塊となって現れていく。
それを見たゴブリンは、更に鼻息を荒くし……ついに彼らに飛びかかった。
「遅ぇよバァカ!!喰らえ!!バレット・オブ・ファイア!!!」
”三秒で思いつきました”みたいな技名と共に、彼は迫り来るゴブリンにその火炎の塊を投擲した。
一瞬にしてその塊は2体のゴブリンにまとめて着弾し、体表から吸収されていく。
…ゴブリンの動きが止まる。そして数秒後、吸収された炎は彼らの体内で爆裂し……その緑の小さい身体は血と臓物を撒き散らし、跡形もなく吹き飛んだ。
「うっわ…グロ過ぎだろお前の技………」
「別にいいだろ?どうせ魔物なんだしさぁ。悪い奴はいずれ殺される宿命なんだよ!それよりほら、早速金と経験値入ったぞ!」
甲冑男は、左腕に巻かれたブレスレット状の青い端末機器を目の前に翳し歓喜の声を上げた。
そこに表示されていたのは、”獲得exp78 獲得賞金50オルト”という文字であった。
それを横から覗き込む盗賊装備の男。彼はさほど興味の無さそうな反応を示した。
「ふーん…ま、ゴブリンならこんなもんか。…じゃあさっさと先進んで中ボスぐらいまで倒そうぜ」
と、次の瞬間………ゴブリンの血が塗れた地面よりも更に前方より、乾いた足音が聞こえてきた。
「ん?敵まだいたのか?」
「みたいだな。……お!?”推定獲得経験値125”だってよ!中々大物じゃね!?」
盗賊男は咄嗟に懐から短剣を取り出して身構え、甲冑男は端末のその通知を見ながらはしゃいでいる。
未だ足音は鳴り止まない。そして彼らは徐々に感じ始めた。何か恐ろしい…負の瘴気を。
「お…おい、何か……変じゃないか?普通の魔物ならもっとバカみたいに突っ込んでくるのに……」
「図体デカイ魔物なんじゃねぇの?…………………え……”推定獲得経験値……540”…?」
「はぁ!?何で上がってんだよ!おかしいだろ!!」
その数値は、瞬く間に上昇していく。784…947…1404…2745……この時点で既に先程のゴブリンとは比較にならない。だが上昇は一向に止まない。5700…14750…784450…9541111……そして…
「………8………”億”……」
「……え…………?」
数値は”875641000”でようやく動きを止めた。
それと同時に、向かってくる足音も鳴り止んだ。
静かに彼らは暗闇の中…顔を上げ、その魔物の容貌を微かに視認した。
咄嗟に口からでたセリフは、互いに同じものであった。
「「に……人…間……!!?」」
この日、一つの”ダンジョン”に、二人の転生者の断末魔が木霊した。




