第90話 魔王と魔神、災厄再び
なんかいつもの倍ぐらい話が長くなった・・・!
町が、家が、人が凍っている。その横を全力で駆け抜けながら、俺はディーネを追って西に向かう。
「許してくれるのならって、別に怒ったりなんかしてないっつーの・・・!」
彼女は言っていた。こうして凍らせているのは神罰の使徒に占領され、神罰の使徒の兵しかいない町だと。
魔物達を何度も仕留めてきた人間の俺が、魔王復活を望む人間を殺した魔族のディーネに怒りをぶつけたりはしない。でも、これ以上彼女一人に罪を背負わせるわけにはいかない。
「くそ、どこだ!どこだ・・・!」
しばらく走り続けると、また凍りついた町が見えてきた。ディーネもここを通ったんだ。大丈夫、絶対に追いつける。
「っ、今のは!」
魔力を感じ、立ち止まる。ディーネの魔力だ。そう遠くない場所に彼女は居る。
「待ってろディーネ・・・!」
他にも多数の魔力を感じるから、きっとディーネは神罰の使徒と交戦してるんだと思う。今ならまだ間に合う。
そう思った直後、向こうに見える山で爆発が起こった。ここからなら全力疾走して三分程度で到着できる。俺は地を蹴り、その山を目指して再び駆け出した。
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「よく来たね、大海のディーネ。いや、氷魔王ディーネとでも呼ぶべきかな?」
「・・・あなたが、ハーゲンティか」
「そのとおり。君がここに来るのは分かっていたよ。元々魔力を感知して敵の居場所を探るのが得意だったみたいだし、暴走した状態で罪滅ぼしをしに来たってとこかな?」
そこは山の中だった。奥から感じる膨大な魔力を目指して進み続けると、とても広く巨大な場所にたどり着き、そして神罰の使徒のメンバーに私は包囲された。
でも、今更逃げたりなんてしない。根を全て回収したこの人達をここで全滅させないと、過去に地上を破壊し尽くした災厄がまた目覚めてしまう。それだけは、私が絶対に阻止しなきゃならないんだ・・・!
「君はとても美しい存在だ。そんな君をグチャグチャにしてしまうのは少し勿体ない気がするけど、そうしたらサトータローはきっと怒るだろうね」
「何を言ってるの?グチャグチャになるのは貴方達神罰の使徒の方だよ」
「はははっ!残念だけど、君が魔王を超えた存在でもこの包囲網を突破することは不可能さ!何故なら────」
本気でハーゲンティの顔面を殴る。魔力で強化された私の拳は彼の首から上を一撃で破裂させ、そのままぐらりと傾いた胴体を私は蹴り飛ばす。
「ふん、馬鹿な女だ」
「あっはっは!私達のこと、さすがに舐めすぎじゃないの!?」
「っ・・・!」
再生するのはタローさんに聞いてたから残った身体を跡形もなく消し飛ばそうとしたけど、その前に左右から女性二人が剣を持って襲いかかってきた。
右から迫る人は凄まじい魔力を剣に纏わせており、双剣を構えて左から迫る人は、髪は黒色だけど顔や体格はテミスさんにそっくりだ。
「アークブレイド!!」
「ブラッククロス!!」
咄嗟に魔力を放出して全身を包み込む。こうする事で鎧を纏っているような状態になれるんだけど、私の魔力を二人の斬撃はあっさりと消し飛ばし、そのまま私の身体を切り裂いた。
「ぐっ、うあああああああ!!」
「へへ、痛そうだね」
「僕らとも遊んでよ」
堪えきれずに叫んだ私の目の前に、茶髪で顔が殆ど同じの少年二人が姿を現す。双子なんだろうか。そう思った瞬間二人は消え、同時に全身がバキバキと音を立てた。
超高速で身体中を殴られたのか。そして顎に衝撃が走り、ふわりと宙を舞った私は猛スピードで地面にめり込む。
「うははは!これが魔王ベルゼブブ以上の脅威?脆い、あまりにも脆いぞ!」
橙色の髪を短く切った、体格のいい長身の老人。ああ、今私はこの人に殴られて地面に叩きつけられたんだ。
「ふふ、やっぱり魔力が暴走しちゃったみたいね。その調子でもっともっと嫉妬しちゃいなさい」
「素晴らしい素材だ!サタンを失いベルゼブブを逃がした私の新たな駒として、必ず君の死体は回収させてもらう!」
第二魔界を率いていた眼鏡の男とあの時島で会った魔女が雷を放ち、私の全身を焼く。でも、これは幻術だ。それに気づいて立ち上がろうとしたけど、その前に炎が私を包み込む。
「がっ・・・!?」
「どうだディーネ。俺の炎はお前の操る大海ですら焼き尽くす」
幻術ではなく本物の爆炎。フレイ君の炎で焦げた腕の皮膚がパキパキと割れ、激痛に思わず表情が歪む。
「おいおい、何をしているんだ君は。僕達を皆殺しにして、初代魔王の復活を阻止するんじゃなかったのか?」
「・・・」
「ん〜、もしかして恐れているのかな?魔力を解放したら、もう元には戻れないかもしれないからねぇ」
・・・そう、そのとおりだよ。タローさんを傷付けた、嫉妬の感情に飲まれた状態の私。もしも魔力が暴走したまま元に戻れなかったら、もう二度とタローさんには会えない。
「それでも、やるんだ」
「ん?」
「タローさんやベルちゃん達がこの先ずっと笑って暮らせるのなら、こんな命なんていらない・・・!」
ドクンと心臓が波打つ。どうやら私の中に流れるもう一つの魔力が外に出てきたことに、この場にいる全員が気づいたらしい。
「それが嫉妬の魔力か」
さっきの金髪剣士がまた魔力を剣に纏わせて迫ってくる。でも、何故か全然強そうには見えない。
「タイダルウェイブ」
「っ・・・!」
水の波を放つ。それに飲まれた彼女が向こうの岩壁に勢いよく叩きつけられたのを見た後、背後から迫っていた双子を振り向きざまに殴って地面に叩きつける。
「くっ、ライトニング兄弟を一瞬で────」
「貴女もね」
「がはっ!?」
今度はテミスさんにそっくりな人の腹を蹴り、岩を掴んで投げようとしていた長身の男にぶつけて二人同時に吹っ飛ばす。
「ディーネ・・・!」
「無駄」
フレイ君が飛ばしてきた炎を水の壁で防ぎ、さらにその壁を凍らせて砕き、氷の破片をフレイ君目掛けて撃つ。その全てがフレイ君の全身に突き刺さったけど、彼の身体は不死の炎ですぐに再生した。
やっぱり再生能力は厄介だな。ちまちま攻撃していても意味は無いか。なら────
「まとめて消し飛ばす・・・!」
「お、おいおい、誰か私を守ってくれ!」
「これは無理っぽいわね。エリス、頑張って跳ね返して」
「いや、さすがに厳しい。少なくとも三人は死亡するだろうな」
「マ、マスター、どうすれば」
「・・・」
私がとある魔法の発動体勢に入ったのを見て皆が慌てる中、ハーゲンティだけは薄ら笑いを浮かべていた。腹が立つ。もう二度と再生なんか出来ないように、魔力ごと存在を消し去ってやる。
「天地を喰らう・・・!」
「ほう、最上級魔法の詠唱破棄か」
「天地魔壊の大海龍大こ────え?」
全身全霊の魔法を放とうとした瞬間、溢れ出ていた私の魔力が突然消えた。何が起こったのか分からずに困惑していると、そんな私の前に一人の男が姿を現す。
「なるほど、これが現代の大罪魔力の使い手か。確かに素晴らしい素質を持っているようだが、まだまだだな」
「ひっ・・・!?」
これまで感じたことがない程凶悪な魔力が男の身体から放たれる。それは私の保有魔力量を遥かに上回っていて、ガタガタと全身が震え始めた。
「くっくっ、それではまだ余には及ばない。今の時代で余を楽しませてくれるのは、やはりサトータローだけというわけか」
「っ、誰・・・なの?」
「ふむ、分からぬか?それもそうか。あれから二千年経ったのだからな」
タローさんと同じ黒い髪を肩付近まで伸ばした、見た目は若い男性。背中からは翼が、頭には二本の角が、そして腰のあたりからは尻尾生えている。この人は、もしかすると竜族なのかもしれない。
でも、この魔力はいったい何なの?私の魔力なんかとは比べ物にならない、膨大で桁違いな恐ろしい魔力。何より信じられないのが、その魔力がタローさんの魔力を上回ってるかもしれないということ。
「た、楽しませてくれるのがタローさんだけって、何をするつもりなの!?」
「・・・この世に混沌と破滅を」
「あ、あなたは」
「かつて地上に住んでいた者共は余をこう呼んでいたな。《世界樹を喰らう者》・・・と」
「あなたはッ・・・!」
まさか、まさかまさかまさか・・・!!
「死ぬ前に覚えておくがよい。余の名はグリード。七つの大罪を我が魔力とし、二千年前に魔界を支配した大罪魔王グリードである」
「っ、嘘だぁ!!」
グリードと名乗った男性目掛けて巨大な氷の槍を放つ。しかし、グリードはその場で腕を組んだまま動かない。
「長い間眠っていたせいで、まだ大半の魔力が使えない。しかし丁度いい所にお前が居た。その魔力、余が貰うとしよう」
槍がグリードに直撃した瞬間、突然私の魔力がごっそり持っていかれたような感覚に陥り、私は思わず膝をついた。よく見たら槍は跡形もなく消えており、グリードは無傷。
「何を、したの・・・!?」
「余は世界樹を喰らう者。その〝暴食〟は、他者の大罪すらも喰らい尽くす」
「そ、そんな・・・!」
「さあ、嫉妬の魔王ディーネよ。この世界を本気で護りたいと願うのなら、お前の全力で余を楽しませてみせろ」
「うるさい黙れぇ!!」
全力で地を蹴り最高速度でグリードの背後に回り込む。まだグリードは私の動きについてこれてない。
「天地を喰らう、天地魔壊の大海龍大口ッ!!!」
背後から放った本気の最上級魔法はグリードを飲み込み、そして山の表面を突き破って大爆発した。今ので他のメンバーも巻き込めたはず。
「それが全力か?」
「え────」
そう思った直後、何かが私の腹部を貫いた。
「うあっ・・・!?」
「その程度では、大切な者を護ることなど不可能であるぞ」
煙が晴れて姿を見せたグリードは又しても無傷だった。対して私の身体からは信じられない量の血が流れ出し、逆流してきた血を吐き出す。
「どうした、もう終わりか?お前は誰のために戦っている。その者のために余を打ち負かしてみせよ」
「誰のため・・・そんなの、ベルちゃんや魔界の皆、テミスさん達人間の皆。それから、タローさんのために決まってる!!」
この程度で負けられない。大量の水をグリードの真上に集め、そしてそのまま落下させる。さらにグリードを包み込んだ水を瞬時に凍らせて動きを封じた。
「これなら防げない・・・!」
残った魔力全てを集め、最大火力で魔法を放つ。
「天地魔壊の大海龍大口!!!」
「ほう、お前はサトータローに想いを寄せているのか」
「な、なんで氷が・・・!?」
しかしその直前、私の魔力は再び一瞬で消えた。そしていつの間にか、氷に閉じ込めたはずのグリードが目の前に。
「残念だな。もう二度と、お前があの男の姿をその目で見ることは無い」
「ッ────」
グリードの爪で左目が抉られた。さすがに我慢出来ずに私は血が噴き出している箇所を押さえ、叫んだ。
「あ、うああああああああああッ!!!」
右目から涙が溢れ出す。駄目だ、勝てない。この男には、私の全てをぶつけても絶対に勝てない。
「フハハハハハ!!いいぞ、素晴らしい悲鳴だ。さあ、もっと鳴いてみせろ!!」
「がっ!?」
グリードに首を掴まれ、持ち上げられる。苦しい、息ができない・・・!
「は、なせぇ・・・!」
「ん?なんだその口の聞き方は。嫉妬の魔力ですらも満足に扱えない底辺魔王程度が、余を誰だと思っている」
「うる、さい!あなたなんかより、タローさんのほうが、絶対強いんだから・・・!」
「・・・ふむ」
急に声が出せなくなった。それと同時にグリードが私の首を掴む力を緩め、そのまま私は地面に倒れ込む。
「か、ぁ・・・?」
喉を潰されたんだ。早く、回復しなきゃ。なのに、なんでさっきから傷が治らないの・・・?
「やはりお前では余を満足させれなかったな。もう飽きた。この場から逃げたければ、虫のように這いつくばりながら逃げるがよい」
「タ、ローさ・・・」
痛い、怖い、死にたくない。いつの間にか私の頭からはグリードを殺して神罰の使徒を潰すという考えは消えており、震える身体を引き摺りながら出口を目指していた。
「さて、使徒達よ。余の魔力を封じていた根を回収し、そして膨大な魔力を余に与えてくれたこと、感謝するぞ」
「っ、いき、て・・・」
後ろからは、さっき魔法の巻き添えを食らったと思っていたハーゲンティ達の声が聞こえてくる。それに、交戦した全員の魔力も感じる。無事だったんだ。グリードに魔力を奪われたせいで、魔法がちゃんと発動してなかったんだ・・・!
「先に例の場所に向かっておけ。余は少しだけこの場に残る。どうやら奴がすぐ近くに迫っているようなのでな」
「了解です、グリード様」
グリード以外の魔力が消えた。どこか別の場所に転移したんだろう。でも、そんな事よりも、奴がすぐ近くに迫ってるって、もしかしたら。
「良かったではないか。お前の想い人が来たようだぞ」
「っ、タローさん・・・!」
来てほしくなかった。なのに、なんでこんなに嬉しい気持ちになるんだろう。ううん、ほんとは来てほしかったんだ。助けてほしかったんだ。やっぱり私、最低な女だ・・・!
「お前にも感謝しておくぞ、小娘。その膨大な魔力を吸収したおかげで、余はこうして封印を解くことが出来た。そして、お前の死でサトータローは真の力を解放し、余が求めていた極限の殺し合いを行うことが可能となる」
テミスさんもベルちゃんも、ピンチの時はいつもタローさんが駆けつけてくれてた。タローさんは、こんな私のことも助けに来てくれたんだ。
あぁ、タローさん。やっぱり私、あなたのことが好き。もう一度会って、ちゃんと目を見て謝って、そして想いを伝えたい。
「さらばだ、嫉妬の魔王ディーネ」
タローさん、タローさん、タローさん。魔力を感じる。もうすぐそこに彼は来ている。会える、またタローさんに会えるんだ。
自然と笑みがこぼれる。ズリズリと身体を引き摺る度に激痛が走るけど、それでもあと少し我慢すればタローさんの笑顔が見れる。
名前を呼べばきっと返事をしてくれる。いつもみたいに、優しく私の名前を呼んでくれる・・・!
「タローさ────」
ゴキリと───そんな音が鳴り、私の意識は唐突に途絶えた。
アレクシス・ハーネット
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年齢:20歳
身長:183cm
体重:75kg
特技:岩砕き
趣味:筋トレ
好みのタイプ:巨乳
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世界樹の六芒星の一人で、王都ギルドのエース。大剣を軽々と振り回す怪力の持ち主で、性格はかなり真面目。
幼馴染のラスティとはほぼ毎日共に行動しているが、すぐにラスティが問題を起こすので最近はかなり疲労が蓄積されている。それに加えてソンノからは毎日仕事を押し付けられる苦労人。
実は結構女性に興味津々なので、太郎やハスターとの会話は盛り上がっている。