第9話 新たな友は魔王様
「べ、ベルゼブブ様から離れろ人間め!」
「よくも城を荒らしてくれたな!」
「いや待って!城を荒らしたのは俺じゃない」
ベルゼブブの寝室で彼女と喋っていたら、俺が気絶させていたヴェント達が物凄い形相で部屋の中に入ってきた。そして剣や槍の切っ先を俺に向けてくる。
自分の強さが分かったから前よりは怖いと思わないけど、それでも剣を向けられるのはちょっと嫌だ。
「やめなさい。彼の言うとおり、城を荒らしたのは私自身よ」
「で、ですがこの男は人間で、我々の敵です!今ここで始末しておかなければ········!」
「絶対に勝てないわ。私の全魔力が込められた魔法ですら、彼は跳ね返してみせたのだから」
「そんな········」
ベルゼブブの言葉を聞き、魔族達が一斉に武器を下ろした。しかし、俺を見る目は怒りに染まっている。
「安心しろよ。別にこの子に手を出すつもりはないから」
「信用できるものか!」
「うるさい野菜マン。お前がテミスに余計なことをしたから俺はここに来たんだぞ。まあ、そのおかげでベルゼブブとは友達になれたんだけどな」
「と、友達!?君如きが魔王様と対等な立場になれると思っているのか!?」
俺の胸ぐらを掴みながら、ヴェントがベルゼブブに顔を向ける。
「ま、まあ。別に友達になってあげてもいいけど········」
「魔王様ァァァァァ!!?」
ベッドの上に座るベルゼブブが、少し頬を赤く染めながら小さな声でそう言った。とりあえず、俺をガクガク揺さぶってくるヴェントが凄く鬱陶しい。
「ほら、ベルゼブブがそう言ってんだから」
「ぐっ········!」
俺から離れたヴェントに、姿勢を正したベルゼブブが声をかける。先程とは違い、彼女の顔は魔王に相応しいものとなっていた。
「皆、本当に申し訳ないのだけれど、本日予定していた人間界への宣戦布告は中止にするわ」
「「「ッ········!!!」」」
「きっと、魔界の全兵力を集結させてもタローには敵わない。無駄な犠牲を出さない為に、私は彼の〝宣戦布告するな〟という言葉に従います」
「そう、ですか·········」
「後で他の魔族達にも伝えるから、広場に全員集めておいて。それと、残りの四天王も呼び戻しなさい」
それを聞き、ヴェントと魔族達はベルゼブブの寝室から出ていった。うーん、あの表情を見る限り絶対納得してないだろうし、めちゃくちゃ嫌われたっぽいけどな。
「まあいいや。やる事はやったし、そろそろ帰ろうかな」
「あっ、待って········!」
「ん?」
誰かとすれ違わないように窓から外に出ようとしたら、急に後ろから服を引っ張られたので立ち止まる。何事かと思って振り返れば、俯きながら俺の服を掴むベルゼブブが立っていた。
「私、タローとは友達になってもいいけど、他の人間とは仲良くするつもりはないからね」
「まあ、すぐには無理だろうな。でも俺だけ友達になれるってことは、意外と好感度上がってたり?」
「それは、その·········」
なんか可愛いな。まだ少し幼さが残ってるけど、俺が知り合った異性の中じゃトップクラスの美少女だ。どうしたのかは知らんけど、頬を赤く染めながらもじもじされたら癒されるものがある。
「確かに、タローはちょっとだけ特別というか········」
「まじで?いやぁ、照れるなー」
ただの一般人だった俺が、まさか別世界で魔王様と友達になれるなんて。人生何が起こるか分からないものだな。
「それじゃ、そろそろ行くよ」
「········うん」
全然魔王に見えないベルゼブブの頭を軽く撫で、俺は窓を開けて身を乗り出した。日本にいた頃はこの高さから飛び降りると確実に死んでたけど、今なら地面にめり込んでも無傷だもんなぁ。
「タ、タロー!」
「はいよ」
「い、いつでも遊びに来ていいからね」
それを聞いた瞬間、俺は嬉しさのあまり両腕を広げながら外に飛び出した。さっきまで人間嫌いって言ってた彼女にそう言ってもらえるなんて、ほんとここに来て良かった。
「次はお土産持ってくるから待っててくれよなーーー!!」
俺を見ているベルゼブブに手を振り、無事に着地した俺はオーデムに戻る為に全力疾走を開始する。いやぁ、次に来るのが楽しみだな、これは。
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「ま、魔王を倒して友達になったって········。やっぱりタローは凄い男だな」
「これで戦争にはならないとは思う。でも、ベルゼブブ以外の奴らは絶対納得してないから、あとはベルゼブブに任せるしかないな」
「うん、そうか」
そう言ってほっとしたような表情を浮かべたテミスの後ろから、しっぽを振りながらマナが駆け寄ってくる。
「タローが居なくても本来の姿には戻らなかったぞ。どうやらすっかり人間に懐いたらしい」
「それは良かった。偉いぞー、マナ」
屈んでマナの頭を撫でる。すると、テミスの笑い声が上から聞こえてきた。
「どうした?」
「あ、いや。なんだかタローが父親のように見えたから········」
「はは、まだ18だけどな」
「同い年だが、私はタローに憧れてるよ」
テミスの笑顔を見た瞬間、俺は全力で地面に頭突きした。危ない危ない、可愛すぎて俺の中で何かが弾けかけた。
「ど、どうした?」
「何でもないんだ。気にしないでくれ」
「あ、ああ········?」
心を鎮め、マナを抱えて立ち上がる。
「とりあえずオーデムに戻ろう。お腹空いてきた」
「そうか。なら、今日は私が料理を作ろうか」
「いいのか!?」
「今はまだ誰も知らないことだが、タローは世界を救った英雄だからな。それぐらいしかお礼ができないのは残念だけど········」
「全然いいよ!ほんとにありがとう!」
テミスの手料理をまた食べれるなんて夢みたいだ。そう思いながら、俺はマナを抱えてテミスと肩を並べ、オーデムに帰ったのだった。