第85話 古城探索
「お、あれっぽいな」
テミスをお姫様抱っこした状態で王都を出発してから約三時間。向こうの方に見える古く大きな城が、俺とテミスが訪れることになった封印の根があるというポイントの一つだ。
「〝アストレアの古城〟か。数百年前に建てられた城らしいけど、確かにボロっちいなぁ」
「う、噂では亡霊の目撃情報が絶えないという・・・」
「まじか」
隣に立つテミスが震えている。うん、あれは絶対お化けいると思います。俺もちょっと入るの嫌だもん。
「どうする?無理なら俺だけ中に入るけど」
「い、行くよ」
「分かった。暗くなってきてるし、あまり俺から離れないようにしてくれ」
怖がっているテミスの手を握る。すると一瞬でテミスの機嫌が良くなったのが分かった。
やれやれ、可愛い子だぜ・・・。
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「ケケケケケケッ!!」
「ひゃああっ!?た、タロー、亡霊がいっぱい・・・!」
「お、落ち着いて!」
古城に入った途端に大量の亡霊に包囲され、それに驚いたテミスがさっきから俺にひっついて離れてくれない。
そのせいで全く攻撃することができないけど、素晴らしい感触の胸が俺の腕に当たってるから良しとしましょう。
「グギギギ・・・!」
「うおっ、屍人もか」
しばらく胸の感触を堪能していた俺だったけど、急に異臭を放つ屍人達が出てきたので一瞬テミスから離れる。
「悪いな、時間が無いもんでね!」
「ぎ────」
一匹の顔面を殴って破裂させ、後ろから迫ってきたもう一匹の足を掴んで振り回す。亡霊達の身体はすり抜けるけど、他の屍人は俺が振り回してる屍人とぶつかって吹っ飛んでいく。
「普通の物理攻撃は霊系の魔物には効かない・・・なら、魔力を纏った攻撃だ」
「ケケっ!?」
「そら、成仏しやがれ!」
持っていた屍人を投げ飛ばし、魔力を纏わせた拳で浮遊している亡霊をぶん殴る。すると、その亡霊は跡形もなく消えた。
どうやら魔力を纏わせた魔法系の打撃なら亡霊を倒せるらしい。それに気づいた俺が周辺の魔物達を全滅させるまでには数分もかからなかった。
「もうあいつらいないぞー」
「ううぅ、でも・・・」
「ほれ、手をつないどけば大丈夫」
「あ・・・うん」
差し出した手をテミスはそっと握る。細く白い彼女の指と俺の指を絡ませ、そのまま俺達は歩き出す。
静かだ。足音だけがコツンコツンと響く。
もう外は暗くなっているので足元があまり見えない。俺達の手助けをしてくれてるのは、窓から差し込んでくる月明かりだけである。
「来たのはいいけど、この古城のどこに根があるのか分からないんだよなぁ」
「部屋の中、というよりは地下とかにある気がするけど」
「この古城地下とかあるのか?」
「分からないけど・・・」
「うーん、まあそうかもな。一通り見て回ったら地下への入口がないか探してみるか」
それから様々な部屋を覗いてみたけど、封印の根らしきものは見つからず。途中で中から飛び出してきた魔物に驚いてテミスが気絶しかけたりもしたけど、最終的に俺達は地下への入口を探すことになった。
「お、これとかそうじゃないか?」
今は何時だろうか。長時間古城の中を歩き回り、とある部屋の中で見つけた不思議な床。
他の場所とは違い、そこだけ色が若干違う気がする。ということで、俺はその部分をそれなりに強く蹴ってみた。
するとその部分は砕け散り、やはりというべきか地下へと続く階段が姿を現す。
「た、タロー。一応貴重な建造物なのだから、あまり破壊などはしない方が・・・」
「世界を救うために破壊しましたって言えば大丈夫」
テミスと共に地下へと足を踏み入れてみたけど、超暗い。先が全然見えないし、ピチョンピチョンとか聞こえてくるし。
隣を見れば、テミスがめちゃくちゃ震えてた。
「なんか、狭いトンネルみたいだな。これで迷宮みたいになってたら迷子になるぞ」
「魔物が寄ってきそうだったから使いたくなかったけど・・・光芒閃」
そんなテミスの剣が光り、地下を照らす。どうやらいつも使ってる剣技を明かりにするようだ。
「それでも奥は見えないな。危険だから、警戒して慎重に進んでいこ─────お?」
「え?」
さすがはテミスだ、なんて思った次の瞬間、突然床が消えた。罠か何かだろうか・・・それは分からないけど、俺とテミスは猛スピードで下の方へと落下する。
まずい、このままじゃテミスがヤバい。そう思った俺は必死に手を伸ばし、気絶寸前のテミスの身体をなんとか抱き寄せる。
その直後、背中に凄まじい衝撃が走った。咄嗟に魔力を纏ったからテミスに衝撃は伝わってないっぽいけど、危なかった。
「ぅ・・・?」
「テミス、怪我はないか?」
「へあ!?あ、その、ごめん・・・!」
「あ、ちょい待ち。抱き心地が良いからもうちょっとこのままで」
「っ〜〜〜〜〜」
暗くて見えないけど、多分テミスの顔は真っ赤だろう。でも拒絶はされてない。それどころか、最終的にはテミスも俺の背中に手を回して離してくれなくなった。
うーん、いい香りだ。それに何もかもが柔らかい。国宝だ、これはこの国の宝・・・いや、世界の宝だ。
こうして俺が彼女に触れることができているというのは奇跡だろう。ありがとう神様、ありがとうユグドラシル。
「ってそうだ。かなり下まで落ちちまったけど、魔神封印の根を早く見つけないと」
「あ・・・」
テミスを抱えた状態で立ち上がってそのまま立たせてやったら、あまり見えないけど残念そうな表情を浮かべた。
なんて言えばいいんだろう、ギャップ萌えってやつか。普段はあまり表情を変えないけど、変わった時の破壊力が凄まじい。
「光芒閃・・・」
そんな残念そうな表情のまま、テミスは再び剣を光らせる。すると今俺達がいる場所が照らされ、俺は衝撃を受けた。
「やあ、久しぶりだね」
「ハーゲンティ・・・!」
テミスが後ずさる。
そう、闇の中に立っていたのが、テミスの人生を狂わせた最低最悪の人でなし、ハーゲンティという男だったからだ。
「なんでお前がここにいるんだよ」
魔力を纏ってハーゲンティを睨む。
「伝えたいことがあってね。ま、今回は君と殺し合うつもりはないから安心してくれ」
「黙れ。何も聞くつもりはないんだよ・・・!」
ハーゲンティをぶん殴る。しかし、俺の拳はハーゲンティの顔面をすり抜けた。
「チッ、またこのパターンか!」
初めてハーゲンティと顔を合わせた時も、相手は映像で攻撃が当たらなかった。鬱陶しい、心の底から腹が立つ。
「さて、ここはどういう場所だと思う?」
「さあな」
「隠そうとしても無駄さ。知ってるよ、ここが魔神封印の根が保管されてた場所ってことはね」
「っ・・・」
ということは、まさか。
「根は僕達が先に回収させてもらった。もちろん、他のポイントの分も全てね。残念だったね、無能な六芒星達」
「お前ら、やっぱり初代魔王復活が目的か!」
「はは、そうさ。こうして僕達が強くなれたのは全てあの方のおかげ。だからお礼に、僕達はあの方をこの世に解き放つ」
ハーゲンティの身体がぼやける。
「戦争だ、サトータロー。僕はテミスを奪った君を許さない。必ず君をこの手で殺す。くく、神の裁きを受けるがいい」
「上等だよ、ハーゲンティ。俺はテミスを傷つけたお前を許さない。必ず本気でぶん殴る。人間舐めんじゃねえぞ・・・!」
そして、ハーゲンティは俺達の前から消えた。
「た、タロー、どうすれば・・・」
「本格的にヤバいことになってきた。こりゃ帰ってからテミスとイチャついてる時間は無さそうだ」
「そ、それは、うん。先に魔神の件を何とかしてから、な」
本気でブチ切れてるソンノさんの姿が頭に浮かぶ。とりあえず今夜は野宿して、明日根の回収に失敗したことを報告しよう。
テミス・シルヴァ
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年齢:18歳
身長:161cm
体重:秘密
特技:料理
趣味:読書
好みのタイプ:優しい人
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世界樹の六芒星の一人で、世界一の美少女とも言われている心優しい銀髪剣士。
ハーゲンティとの一件で男性恐怖症に陥っていたが、太郎と過ごすうちにそれを克服した。
そんな彼女は心の底から太郎に惚れており、今では二人は恋人同士。
普段は表情を滅多に変えないが、太郎の前だとコロコロ表情を変え、彼にだけはかなり甘える。
可愛く優しく家庭的なテミスはもちろんモテモテで、恋人の太郎が嫉妬した男達と毎日闘っていることを彼女は知らない。