第76話 無人島探索
「タローさん、あっついよぉ・・・」
「俺はひんやりして気持ちいいけど、あまりひっつかれると恥ずかしいんですが・・・」
暑いと言いながら、何故か俺の腰あたりに抱き着いてくるディーネ。
確かに暑い。異常だ。雲一つ無い空に浮かぶ太陽が、俺達目掛けて容赦なく熱を届けてくれる。
というか、今思ったんだけどあれは太陽なんだろうか。いやまあ、この世界に住む人達はあれを太陽と呼ぶけど、地球から見えるのと同じ太陽なのかどうか・・・ふむ、今更だけど気になる。
「お宝なんてどこにもないし、日陰で休憩しようよぉ・・・」
「そーだなぁ、ちょっと休憩するか」
「わーい、タローさん大好き!」
「ちょ・・・!」
今度は勢いよく正面から堂々と抱き着いてきたディーネごと、俺は派手に転倒した。
この状況を説明しよう。
事の始まりは二時間前。さあ遊ぼうと皆が用意し始めた時に、ソンノさんが突然『ペアでお宝探し』を宣言したからだ。
どうやらこの島には多くの財宝が眠っているらしく、それを最初に見つけたペアが財宝を全部貰えるとのこと。
昨日ソンノさんが『明日はもっと楽しくなるぞ』って言ってたけど、多分これのことだろう。
正直暑すぎて海に入りたいという気持ちが心の大半を占めてるんだけども、お宝が眠ってると聞いて探そうと思わない男子なんて居ないんじゃないだろうか。
「てか、水魔法使えばひんやりして涼しいんじゃないか?」
「っ・・・!」
「その方法があったか!みたいな顔してますね」
日陰に座ったディーネが水魔法を使い、空中に浮かべた水の塊から、シャワーのように水を降らせる。
「気持ちいいね・・・」
「気持ちいいな・・・」
さて、俺の相方がディーネの理由を説明しよう。単純にくじ引きで、ディーネと俺が一緒の色が先端に塗られた棒を引いたからだ。
「ふわぁ、眠くなってきちゃった。ちょっとだけ、寝てもいい・・・かなぁ」
「そう言いながら、もう寝る寸前だけどな。ま、別に急ぐ必要はないからゆっくり寝なよ」
「えへへ、ありがと・・・すぅ」
すやすやと寝息を立てながら、ディーネが俺に寄りかかってくる。
俺もディーネも水着姿だから肌が直接触れ合ってるんだけど、そのせいで変に意識してしまう。
ちらりと隣を見れば、ディーネの可愛らしい寝顔と、テミスに匹敵するであろう大きな果実が・・・いかんいかん。
『ご、ごめんね、私なんかがペアで。テミスさんとが良かったよね・・・』
ペアになった時は、彼女にしては珍しくそんな事を言ってきた。勿論嫌だとかテミスとが良かったなんて思ってないけど、この子は俺のどこに惚れてくれてるのやら。
「うーん、俺も眠くなってきた」
このままだと意識し過ぎて大変なことになる可能性も0ではないので丁度いい。
俺も背後の木にもたれかかり、そのまま目を閉じた。
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「あーもう、タローとペアがよかったのに」
「そ、それは私もだ」
隣を歩くベルゼブブが、先程からずっとそんな事を言っている。その気持ちは分かるけど、タローのペアがディーネだったのが少し落ち着かない。
きっとタローは何もしないと信じてはいるけど、もしものことがあれば、ショックで立ち直れなくなるかも・・・。
「というかテミス・シルヴァ。貴女、剣は持っていないの?」
ベルゼブブにそう言われ、自分の腰あたりに目を向ける。
「別に必要ないかな、と」
「貴女ねぇ、今のところ目撃してはいないけど、野良の魔獣が出てきたらどうするのよ」
「それは、ベルゼブブが魔法でバーンっと」
「銀の戦乙女が聞いて呆れるわね。まだ右腕をまともに動かすことはできないと聞いていたけど、いつでも戦闘を行えるよう準備しておくのが騎士というものではないの?」
「騎士じゃないけど・・・」
ソンノさんの提案で島に眠るお宝を探すことになったのだけど、私はベルゼブブとペアになった。
別に全然嫌ではないけど、やはりタローとペアになれなかったのは、ほんの少しだけ残念だ。
「というか、ソンノ・ベルフェリオは何を考えているのよ。急に宝探しをしようだなんて言って、自分はテントの中で寝てるだなんて」
「まあ、そういう人だからな」
「私達が宝を見つけたら、あの女は絶対分けてもらおうとするわよ!いや、もしかしたら全部奪おうとするかもしれないわ!」
「さ、さすがにそれは・・・」
ない、と断言できない。
確かにあの人なら空間魔法を使ってお宝を全て強奪する可能性もある。まったく、普段の行いが悪いからこんな事を思われるんだ。
「別に宝になんて興味はないけど、私達を働かせるだけ働かせて手柄を奪おうとするのが納得いかないのよ」
「まだ奪われると決まったわけではないけどな。ほら、あそこにある洞窟の奥にお宝がありそうな気がする」
「こんな暑苦しい日に洞窟に入るの?」
「お宝があるのは大体洞窟の奥だろう?」
「そういうものかしらね」
面倒そうにそう言いながら、翼を広げてベルゼブブがふわりと浮き上がる。
「とりあえず洞窟に入ってみましょう。野良の魔獣がいる可能性は高いから、一応警戒しておくことね」
「ああ、そちらもな」
「ちょっと、何故木の棒を手に取ったの?」
「え、いや、魔獣が出るかもしれないんだろう?剣が無いから、これで身を守ろうかと思ってな」
「・・・タローが貴女を〝結構ポンコツ〟って言っていた意味が分かったわ」
「ぽ、ポンコツ!?」
うぅ、タローがそんな事を言っていたなんて。でも、確かに天然なところがあるとはよく言われている気がする。
「ほら、行くわよポンコツテミス」
「ポンコツじゃないから!」
ま、まあいいか。
今はとりあえず洞窟の奥を目指して、お宝を見つけたら・・・後でタローに褒めてもらおう。
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「・・・あの島か」
とある島を見て、美しいブロンドの髪を首の辺りで束ねた女性が言う。
「あら、珍しいわね。玩具を与えられた子供みたいな顔をしてるけれど」
その隣で、桃色の長髪を指で弄るもう一人の女性が、笑みを浮かべながらそう言った。
「久々に我が剣を全力で振るえる相手があの島に居る。朽ちたこの身体が、数年ぶりに興奮して震えているぞ」
「あら、いいわね。あんなに美しい島や海が、数時間後には血の色で染まってしまうのは確定かしら」
「どうだろうな。今の時代の世界最強格共が集結している島だ。それに、例のサトータローも恐らく来ているだろう」
「だからこそ、一気に敵戦力を削ることが出来る。うふふ、楽しみね」
黒く巨大な船が、猛スピードで島へと迫る。
神罰の使徒がユグドラシルに姿を現し、気を張り続けていた皆を休ませる目的でソンノが提案した今回の旅行。
しかし、平和な旅行は二日目で早くも終わりを迎えようとしていた。