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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
来るべき日はすぐそこに
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第75話 魔導王と過ごす夜

「・・・寝れない」


1日目、深夜。

はしゃぐラスティが太郎とテミスを同じテントの中で寝させようとしたのだが。


暑苦しそうに胸元をパタパタさせている太郎の右隣では、テミスがすやすやと寝息を立てている。


そして、太郎の腹部に頭を乗せて眠っているのは、だらしない寝相からは想像出来ないとは思うが、これでも魔界の王であるベルゼブブ。


さらにマナは太郎の足にしがみついていた。


「んぅ、タローさぁん・・・」


一番意味が分からないのがディーネだ。

気持ち良さそうに眠っている彼女を、冷たさを求めた太郎は寝ぼけて枕のように抱きしめていた。


恐らく彼女の体温が他の者よりも低いからであろうが、水魔法使いは皆体温低めなんだろうかと太郎は思う。


「駄目だ、ちょっと出よう」


状況を理解して恥ずかしくなってきた太郎は、全員を起こさないようにそっと身体を動かし、そして立ち上がる。


軽く伸びをしてから外に出ると、満天の星空が地平線の彼方まで広がっていた。


「相変わらずこの世界の夜空は綺麗だねぇ。何回見ても飽きないというか・・・」

「そうか?私はもう飽きたけど」

「起きてたんですか・・・。心臓に悪いから、急に話しかけてくるのはやめてくださいよ」


そんな太郎の背後からひょこりと顔を出したのは、普段なら爆睡している時間帯だというのに、逆にいつもよりも何故か顔色の良いソンノ・ベルフェリオ。


見た目が完全に小学校低学年なので『早く寝ないとお化けに連れていかれちゃうぞ』とつい言いたくなるが、言ったら明日の朝日は拝めなくなるだろう。


「何してんですか?」

「星の数を数えてた」

「星空見るの飽きたんじゃ・・・」

「見るだけじゃない。私の場合、星の数を数えてるんだ。ただ見るだけで満足してる黒髪の無自覚モテ男とは違うんだよ」

「ほぉー、さすがは見た目幼女の寝不足ギルド長。俺達よりも長生きしてる人は言うことが違いま────ごめんなさい、俺が悪かったんで空間魔法使おうとしないで」


無言で魔力を纏ったソンノを落ち着かせ、太郎は砂浜に寝転がる。テントは海のすぐ近くに設置してあるので、中から出たら目の前はどこまでも広がる青い海だ。


「というか珍しいですね。いつも眠い眠い言ってるソンノさんが、こんな時間まで起きてるなんて」

「ふふん、私はギルド長だからな」

「いや、そんなドヤ顔で胸張ることじゃないですけど。良い子はみんなもう寝てる時間ですよ」


無い胸を張るソンノを見て太郎は苦笑する。そんな彼の隣に、夜空を見上げながらソンノは腰掛けた。


「で、最近テミスとはどうなんだ?どこまであのたわわなボディを開発した?」

「唐突にどえらいことを言いますね!?」

「良い子は夢の中へ旅立ち、今起きてるのは悪い大人だけだ。だからそんな話をしても許されるんだよ。で、どんな感じだった?」

「してませんから!あのですね、テミスがそういうキャラじゃないの知ってるでしょう?いきなりそんな行為をしようぜ!って言ったら何言われるか分からんでしょう?いやまあ、確かにそういうのをしたいって気持ちはありますけど・・・」

「言うから駄目なんだろ。夜中とかに襲えばいいんだよ」

「男が苦手だって言ってる子を襲えとか鬼畜すぎる!」


こういう話になると、つい太郎はその場面を想像してしまう。一度露天風呂でテミスの裸を見てしまったことがあったが、その破壊力は凄まじかった。


彼女の事を本当に大事に思っている太郎は、基本的に彼女が嫌がったり傷つくであろうなと思う事は絶対しないようにしているが、そんな彼でもテミスのパーフェクトボディはもう一度見たいと思ってしまう。


「この意気地無しめ。水着見ただけで鼻血を出すお前の変態っぷりはもうバレてるんだから、今更襲ったところで問題ないだろ」

「ソンノさんは女性だから分からないんでしょうね、テミスの水着姿がどれだけ素晴らしいか。基本クールな彼女が、あんなに可愛い水着を恥ずかしそうにもじもじしながら着ていた。どうです、素晴らしいでしょう?」

「気持ち悪」

「開発とか襲えとか堂々と言ってくるソンノさんも大概だと思いますけどね」

「ははっ」


ソンノと太郎が同時に笑う。

なんだかんだでこの二人は息が合い、話も盛り上がる。内容はテミスに聞かれたらドン引きされるかもしれないものではあるが、仲良しなのは良い事だ。


「ソンノさんは彼氏とかつくらないんですか?」

「彼氏なんて、居ても邪魔なだけだ。私は毎日を一人でのんびり過ごしたいんだよ」

「とか言って、実は・・・?」

「何を期待してんだお前は。悪いけど、これまで一度も告白された事もした事も無いんでね」

「でしょうね・・・」

「おい待て、何がでしょうねだコラ」


太郎の腹を殴ったソンノは、少し表情を変えて地平線の彼方をじっと見つめる。


「別に、誰も必要ないんだよ」


そう呟いた彼女の横顔を見て、太郎は身体を起こした。そして、いつもとは違い、悲しそうに遠くを見つめているソンノに言う。


「・・・何かあったんですか?」

「いや、何でもない」

「貴女のそんな表情、俺は初めて見ました。俺、何か余計なこと言ったりしました?」

「言ってない。はは、そんな心配しなくても、夜空が綺麗だからぼーっとしてただけだ」


ソンノが太郎の頭に手を置く。と言っても、座っていても身長差は結構あるので多少無理して手を伸ばしているのだが。


「よしよし、お前は良い奴だな」

「ちょ、なんですか急に」

「あれだけ男と接するのを拒否していたテミスが心を開き、人間を憎んで戦争を起こそうとしていた魔王、そしてその部下の魔族や神獣種までもが懐くような男だからな。これまで出逢ってきた男の中じゃ、お前がダントツで良い奴だ」

「えぇ〜、怖いんですけど。なんか企んだりしてません?」

「してないっつの」


まるで母親が子供を見る時のような瞳で、ソンノは隣の太郎を見つめて微笑んだ。


珍しく目の下にクマができていない彼女の笑みは、月明かりに照らされとても美しく太郎の目に映る。


「こんな事を言いたくはないが、いつか平和な日々も終わりを迎えるだろう。その時、お前はどうする?」

「え?どういう・・・」

「一度魔力が暴走して、お前はテミスごと周囲を消し飛ばしかけたらしいな。もしまたお前が魔力を暴走させてしまうような事が起こったとしたら、お前はどうやってそれを乗り越える」


一瞬黙り込んでしまった太郎だが、じっと答えを待つソンノの目を真っ直ぐ見つめ、答えを出した。


「暴走なんて、二度としませんよ」

「・・・?」

「そんなものには頼らずに、俺はこの手でみんなを守ってみせます。テミスやマナに六芒星の人達、ベルゼブブ達魔族だって・・・それに、ソンノさんもね」

「っ、何を言ってるこの馬鹿。私はお前に守られるほど弱くない」

「知ってますよ。でも、もしもの時は頼ってください。絶対助けに行きますから」

「・・・・・・」


ぽかーんと太郎を見つめるソンノ。やがて彼女の頬は自然と緩んでいき、


あの時(・・・)お前と出逢えていたら、きっと私は────」


見た目は子供だというのに、思わず太郎でさえドキッとしてしまうような笑顔で、彼女はそう言った。


「ソンノ、さん?」

「ん、ああいや、眠くなってきたから変なことを言ってしまった。まあなんだ、たまにはこうしてお前と話をするのも、別に悪い気はしないな」

「あの、今日どうしたんですか?」

「そろそろ寝るかー。お前ももう寝とけよ。明日は今日より楽しくなるぞ」


立ち上がり、ソンノが向こうのテントに向かって歩いていく。しかし、何かを思い出したように彼女は振り返った。


「毎日を楽しく生きて、人生を精一杯楽しめよ、サトータロー。絶対に、後悔しないようにな」


そしてそう言った彼女は、もう振り返らずにテントの中へと入っていく。


「・・・ほんと、どうしたんだろ」


綺麗だった。まるで、今まで隣に居たのは別人だったかのようにも思えるほど。


ソンノ・ベルフェリオという女性の意外な一面を見た太郎は、少し照れくさそうに頬を掻きながら、しばらく黙って満天の星空を見上げるのだった。

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