第73話 二泊三日の無人島旅行
「ムムム・・・」
ある晴れた日の朝。
世界でも最強格の実力を誇る世界樹の六芒星の一人であるラスティは、部屋の扉に耳を押し当て難しい顔をしていた。
「・・・何をしてるんだお前は」
「アレくん静かに!聞こえるんだよ、声が」
「声?二人は同じ部屋で寝ているのか?」
「今は起きてるよ。しかも───」
同じく六芒星の一人であるアレクシスも、ラスティに手招きされ扉に耳を近付ける。
すると。
『ひっ!た、タロー、もう駄目・・・!』
『ほら、力抜いた方が楽だぞ』
『い、痛い!そこ痛いから・・・!』
『うひひひ、ここかな?テミスはここが弱いのかなぁ?』
『うぁ、ひぅ!お、お願いだから、もっと優しく・・・!』
アレクシスとラスティが顔を見合わせる。
そして、勢いよくその部屋の扉を開け放った。
「こらぁ君達!まだ7時だっていうのに、しかももう少しで集合時間だっていうのに!そんなエロいことやってんじゃないよ───あら?」
「っ!!?」
「あ?なんだ、ラスティか」
中では、太郎が顔を真っ赤にしたテミスにのしかかっていたのだが。
行われていたのは、アレクシスとラスティが想像していたアレではなく。
「く、くすぐってただけ・・・?」
「ああ。寝てたらテミスがこちょこちょしてきたから、お返ししてただけ」
「た、タローがどれだけ呼んでも起きてくれなかったから・・・」
「紛らわしいわ!!」
眠そうに欠伸している太郎と、真っ赤な顔を両手で隠しながら正座しているテミスは、相変わらずのカップルであった。
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遡ること三日前。
「無人島で二泊三日?」
魔界での戦いから二週間経ち、オーデムに戻ってまたいつものようにテミス達とのんびり暮らしてたら、唐突にやって来たソンノさんからそんな事を言われた。
「ああ、そうだ。ラスティやアレクシスも来る予定だが、お前達はどうする?」
「俺は行きたいですけど、無人島行ってる間に使徒の連中が現れたら・・・」
「私の魔法、忘れたのか?空間魔法で王都と無人島を繋げとけば、何かあった時すぐに連絡とりあえるだろう?」
「そういえばそうか。なら行きましょう。海が俺を呼んでます」
「お前、テミスの水着姿見たいだけだろ」
テミスの水着姿かぁ。
いかん、想像したらちょっと興奮してきた。
「マナもいく!」
「おお、そっかそっか。俺と一緒に泳ごうな〜」
「わーい!」
「テミスも来るだろ?」
「ああ、行くよ。でも、水着を着るのはちょっと・・・」
そう言って腹の辺りを押さえるテミス。
あ、そうか。以前テミスのクローン、ノワールに斬られた箇所には傷跡が残ってる。
テミスは女の子だ。そんなのを誰かに見られるのは絶対嫌なはず。
「傷跡を隠せる水着とかも探せばあると思うが・・・。ま、無理して海に入る必要はない。別に砂浜でも遊べるしな」
「そういうことなら、まあ」
「よし、決まりだな。出発するのは3日後の朝7時半だ。集合場所はこの家。そんじゃよろしくー」
そして現在。
「おおっ、海だね!地平線の彼方まで広がる透明な海、そして青い空!太陽に照らされキラキラ輝く私のホームはやっぱりさいっこぉーー!」
「いいねいいね、早く泳ぎたいね!そして、海といえばスイカ割り!早速着替えてレッツエンジョイ!」
「いぇーい!」
ソンノさんの転移魔法で無人島にたどり着いて早々に、ディーネとラスティがはしゃぎながら向こうに走っていった。
「あの2人、結構仲良しなのね」
隣に立つベルゼブブが呆れたようにそう言う。今回無人島に来たのは俺とマナ、そして世界樹の六芒星全員にベルゼブブと四天王の3人だ。
「うっひょー、魔界周辺の海とは大違いだなぁ。おっし、ヴェント。どっちが遠くまで泳げるか勝負しようぜ!」
「へぇ、僕に勝負を挑むのか。いいだろう、格の違いというものを君に思い知らせてやる」
ヴェントとテラが男性陣のお着替えスポットに向かって歩いていく。ハスターとアレクシスも、既にそっちに行ってるみたいだ。
「ご主人さま、マナもおよぎたい!」
「まずテミスと一緒に着替えておいで。あ、それから海に入る前はちゃんと体操するんだぞ?」
「はーい!」
「そんじゃ、頼むよテミス」
「ん、了解」
テミスにマナを任し、俺も着替える場所に向かう。
「しっかし、まさか魔王軍の連中と海に来ることになるとはねぇ。ディーネちゃんとベルゼブブちゃんの水着姿、楽しみだ」
「おい貴様、ディーネはまあいいとして、魔王様相手に余計なことをするんじゃないぞ?下手したら、島ごと消し飛ばされる可能性もあるんだからな」
「お、おお、そいつぁ恐ろしい」
もう皆水着姿になっていた。
なんつーか、ヴェント以外は思ったよりも筋肉質だ。俺は・・・まあ、あるとも無いとも言えない。
「む、タローか。早く着替えてしまえ。男性陣は先に向こうで用意を済ませておけとギルド長に言われているからな」
「了解。で、アレクシス。ラスティの水着姿、結構楽しみにしてるんじゃないの?」
「何故急にそんな話になった。別に楽しみじゃない。というか、お前の方こそテミスの水着姿、見たくてたまらないんじゃないのか?」
「ん?ああ、そんなの当たり前だろ。てか俺以外の誰にも見せたくないね。テミスの水着は俺だけのものだ」
「強者だなお前は・・・」
そう言ってパラソルなどを持って向こうへ歩いていったアレクシスから、眠そうに欠伸しているハスターに顔を向ける。
「おいハスター。あんた、テミスに変なことしたら怒るからな」
「大丈夫、見るだけで我慢してやんよ」
「どうだか。海の底に潜り、魚のフリして触ったりしそうで怖いわ」
「なんで分かった!?」
「するつもりだったのかよ!」
と、そんな会話をしている間に俺も着替え終わった。とりあえず荷物を持って先に砂浜でいろいろ準備してるアレクシスのとこに向かい、俺も準備を手伝うことに。
思えば、こんなに大勢で集まってのんびり過ごすっていうのはこれが初めてかもしれない。
このまま何も起こらず二泊三日過ごせたらいいんだけど。