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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
魔界動乱
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第71話 さよなら大魔王

「ぐっ、冗談じゃないぞ・・・!」


魔都上空に浮かび上がっていた巨大な魔法陣が消滅したのを見て、瓦礫に埋もれていたネクロは悔しげに表情を歪める。


ベルゼブブを屍人へと変え、魔界を支配して神罰の使徒(ネメシス)一の権力を手に入れる筈だった。


だというのに、人間一人に全てを狂わされたのだ。


「フン、情けないな。根を探しに魔界を訪れ、最終的に失った戦力の方が多いとは」

「っ、フレイィ・・・!」


サタンの中にあった自身の魔力が消滅した事で、もう二度とサタンを意のままに操ることが出来ない。


そのことに苛立ちを感じていた時、大量の水で押し流されながら、赤髪の男がネクロの前に吹っ飛んできた。


瓦礫の山に激突してから立ち上がったその男は、元魔王軍四天王の一人で、ディーネ達と交戦している最中のフレイである。


「君がサトーの足止めに失敗したからこうなったんだろ!それに何だ、今度は四天王程度に追い詰められているのかな!?」

「俺はまだ完全に不死鳥の魔力をコントロール出来てはいない。その状況でディーネを相手にすると、こうなるのは当然だ」


そう言ったフレイの前に、大量の水を纏った魔族の少女が勢いよく降り立つ。


「タローさんの魔力がサタン様の魔力を消し飛ばした。決着はついたみたいだけど、まだやるつもり?」

「どうした、早く帰ってほしいのか?屍人の大軍を相手にした後海で最上位魔法を使い、再びこちらで俺を相手にしているのだからな。お前、もう魔力が底を尽きる寸前だろう?」


言葉に反応し、ディーネの身体がぴくりと動く。それを見逃さなかったフレイは、残酷な笑みを浮かべてみせた。


「今のお前相手なら、この程度の魔法でもその身体を消し炭にできるだろうな」

「お、おい待て!私も居るのに派手な魔法を使おうとするな!」

「は?何を言ってるんだこのゴミが。四天王程度・・・・・の魔法、お前なら簡単に防げるだろ?」

「ぐっ・・・!」


既にディーネの魔力が尽きかけている事を見抜いたフレイの周囲を、広範囲を焼き尽くす炎が渦巻く。


「フレイ君・・・!」

「仲良く燃え散れ、〝オーガフレイム〟」


放たれた炎は巨大な火球となり、その場から離脱しようと身体を動かすディーネに猛スピードで迫る。


回避は不可能。

それを悟ったディーネは残る魔力を水の盾に変え炎から身を守るが、業火は彼女の水をあっさりと蒸発させた。


「っ、そんな─────」

「死ね、大海のディーネ」


炎がディーネを飲み込み、爆ぜる。

間違いなく死んだ。そう確信したフレイは、奇跡的に爆発に巻き込まれていなかったネクロの横を通り、その場を後にしようとした────のだが。


「おいおい、逃げんのかフレイ」

「─────何故生きている」


煙の中から届いた声を聞き、心底驚いた様子でフレイが振り返る。


「勝手に死んだことにすんなよ。俺はこのとおり、お前の魔法を防げる程度にはピンピンしてるぜ」

「え、え・・・?」


自分を守るかのようにそびえ立つ壁を見て、ディーネは非常に困惑した。


声にも聞き覚えがある。

この壁を造り上げたのは、もう二度と逢えないと思っていた仲間の一人。


「テラ君・・・!?」

「おっす、ディーネ。大地のテラ、只今参上────ってな!」

「ど、どうして」

「集合場所を襲撃されたから、ディーネがタロー達を連れてくるまで魔界中を転々としてたんだ。俺の死体なんて、どこにも落ちてなかったろ?」


そう言われ、ディーネの目に涙が浮かぶ。

それを見たテラはとても焦りながら心配かけてごめんと謝るが、この状況に苛立っているフレイの魔力を感じ取って気を引き締めた。


「そういやフレイ。お前、魔王軍が弱くなったからそっち側についたんだっけ」

「あ?」

「どうだよ、今の気持ち。見下した相手にバンバン計画を狂わされるってのは、やっぱりムカつくか?」

「・・・挑発か?」


凄まじい炎がフレイの周囲を渦巻く。

しかし、壁を土に戻したフレイは全く怯まずに笑った。


「お前程度、少し火力を上げれば消し炭にできるんだが」

「やってみろよ。ま、こいつら全員を同時に相手したいのなら俺は止めないぜ」

「っ・・・」


テラとディーネの周りに駆けつけたテミス達が魔力を纏い、フレイの前に立ちはだかる。


更に、向こうからはテラと同じく生き延びていた魔王軍所属の魔物達が迫ってきていた。


「貴様らァ・・・!」

「お、おいフレイ、この状況は流石にまずいだろう!?」

「覚えていろ・・・。今回は俺達の負けだが、次は必ず─────」

「私を置いていくなよ!?」


怒りに染まった瞳でディーネ達を睨みつけ、フレイは何らかの魔法を使ってネクロと共に消えた。


しばらく全員が黙り込む。

この状況でどんな事を話せばいいのかと誰もが頭を悩ませる中、たった一人だけ元気な声を発する者が現れた。


「せいぎはかーーつ、だね!」


主人から聞いた台詞を誇らしげに口にしたマナの頭を、皆は微笑みながら撫でるのだった。














△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼














「────よぉ、ベル。俺は敗れたのか」

「ええ、そうよ。貴方は世界最強の人間に挑み、そして負けたの」


俺がサタンの魔法を消し飛ばしてから何分経っただろうか。ベルゼブブの膝上で目を覚ましたサタンが、さっきまでとは違って少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべながら声を発した。


それに対して、ベルゼブブもまるで母親のような表情を浮かべながら答える。


「まさか、目を覚ましたら愛する娘に膝枕してもらえてたとは。いやぁ、パパは嬉しいぞ。母さんによく似て、美人になったもんだ」

「お母様程じゃないわよ。それに、胸なんてまだまだ小さいし・・・」

「すぐに母さんみたいになるさ。あ、そういえば好きな異性に揉まれると大きくなるらしいな。俺が揉もうか?」

「実の娘によくそんな事を言えたものね、この変態大魔王」

「そいつぁ御褒美だぜ」


想像してたキャラとは違うけど、どうやらサタンは娘思いのいい奴らしい。


それが分かってとても安心できたので、俺は二人の邪魔にならないよう、こっそりこの場を離れて─────


「私は、タロー以外に胸を触られるなんて絶対に嫌なの」


ぴしりと。

確かにそんな音が聞こえた・・・気がする。


「・・・なんでだ?」

「決まっているじゃない。愛する人にしかこの身体を捧げるつもりはないのよ。タローが相手なら、私はどこを触られても良いんだけどね」

「・・・それってつまり、ベルはサトーのことを」

「ええ、愛しているわ」

「サァトォォォォォォォッ!!!!」


サタンの怒鳴り声が響き渡る。


「俺のぉ、ベルにぃ、手ぇ出しただとォォォォッ!!?」

「出してません」

「俺が夢見た人間と魔族の共存・・・それが現実となるのは非常に嬉しいことだが、娘はやらんぞッ!!」

「なんとかしてくれ、ベルゼブブ」

「ごめんなさい。昔からずっとこんな感じなのよ、お父様は」


魔力が全く無いから起き上がることが出来ていないサタン。もし起き上がったら間違いなく魔界は火の海だな。


「はぁ、これが最後・・だっていうのに・・・」

「───流石は俺の娘。気付いてたか」


最後。

その言葉に反応したサタンが、悲しそうな瞳でベルゼブブを見つめる。やっぱり、魔力が無くなって屍人化が解けたサタンは。


「死んだ瞬間、消滅する筈だった俺の魂はネクロの外法で捕らえられ、この肉体の中に縛り付けられた。だが、奴の魔力が消えた今、俺の魂は身体の中に留まれない」

「分かってる、分かってるわ」

「悪いな。もっと娘の成長を見ていたいんだが、またお前を一人にしちまう。髪も切っちまったし、俺は最低な父親だ」

「いいえ、一人じゃないわ」


そっとベルゼブブがサタンの髪を撫でる。


「タローやディーネ達がいるもの」

「ディーネか。あのチビスケ、今頃おっきくなってんだろうなぁ」

「残念そうに私の胸を見るのをやめなさい」


撫でてたのに、途中から本気で髪の毛引きちぎろうとしてた。


「もう、最後の最後まで・・・」


ポロポロと、ベルゼブブの目から涙が零れ落ちる。


「おいおい、泣かないでくれよ。最後ぐらい、笑顔を見せてくれ」

「うるさい!うるさいうるさいうるさいっ・・・!!」

「サトー、何か面白いこと言え」

「今この状況でとんでもないことを要求してくるなあんたは!」


サタンの身体にヒビが入る。

魔都にたどり着くまでに倒した屍人達は、最終的に灰となって消えた。サタンもそうなる寸前なんだろう。


「お父様もお母様も大嫌い!大嫌いなんだからぁ・・・!」

「・・・俺は、ベルのこと大好きだぜ」

「うっ、うぅ、見てなさいよ・・・。お父様が失敗した〝魔族と人間が手を取り合って生きていける世界〟を必ずつくって、お父様より凄い魔王になってやるんだから。お母様と一緒に、絶対見ててよね・・・!」


そう言ったベルゼブブは、涙を流しながらも満面の笑みを浮かべていて。


それを見たサタンは満足げに微笑み、崩れゆく腕を無理やり動かしてベルゼブブの頭に手を置いた。


「ああ。身体は消えちまっても、俺はいつでもベルの傍に────」


風が吹く。

サラサラと空へ旅立った魔王だったものをきつく握り締めたベルゼブブが、しゃがんだ俺の胸に顔を埋める。


「うあああああああああ!!!」

「ベルゼブブ・・・」


暫くは、このままで。

俺はベルゼブブが落ち着くまで、彼女の頭を撫で続けた。

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