第67話 魔都キルベル
「見えてきた。あれが魔都キルベルだよ」
先頭を歩くディーネがそう言う。
目を凝らせば、向こうの方に巨大な城のような建物が見える。どうやら俺達は、ベルゼブブが囚われている魔都の近くまでたどり着くことができたようだ。
「まだ距離はあるが、凄まじい魔力を感じる。恐らく奴らの最高戦力であるサタンが居るんだろう」
「テミス、頼むから無茶はしないでくれよ?マナも、絶対ディーネ達のそばから離れちゃ駄目だからな?」
「はーい」
抱きついてきたマナを抱え、肩車する。
こんなに可愛いマナの正体は神狼マーナガルムだ。子供とはいえ、世界樹の六芒星であるテミスや四天王のテラを遥かに上回る強さを持ってるから大丈夫だとは思うけど、敵がサタンと自称魔王(笑)だけとは限らないし・・・。
「私達のことは心配しなくていい。必ずマナは守ってみせるから、タローはベルゼブブを救出することだけを考えろ」
「それでもやっぱり心配なんだよなぁ」
「はぁ、まったく・・・」
痛くないけどテミスにチョップされた。
「私だって心配しているんだからな。タローが負けるとは思わないけど、相手は元魔王だ。いくらタローとはいえ、無傷で倒せるとは限らない。それでも、私はタローの勝利を信じている」
「テミス・・・抱きついていい?」
「そ、それは・・・家に帰ってからなら」
若干頬が赤いテミスの頭を撫でてから魔都に顔を向ける。さっきテミスが言ってたけど、魔都から感じる魔力はこれまで戦った敵の中では別格だ。
もしかしたら相手の方が俺より強いかもしれない。でも、ベルゼブブを傷つけたことは絶対に許さない。
必ず一発本気でぶん殴って─────
「っ、タローさん!」
「なんだあれ・・・」
突然空から何かが落ちてきた・・・いや、魔都から何かが飛んできたのか。
黒い物体は恐ろしい速度で俺達の近くへと落下し、まるで隕石のように地面を粉砕する。
「おいおい、なんだこの巨大ゾンビは」
「1つの身体から複数の魔力を感じる。こいつ、屍人を融合させて生み出された亜種とも言える存在だよ・・・!」
起き上がったのは、三階建ての一軒家と同じぐらいデカい屍人。それが五十体ぐらい降ってきたんですが。
「そ、それだけじゃない。普通の屍人の大群も魔都からこっちに向かってきてる・・・」
「どうやらこれが、あの糞野郎なりの歓迎ってわけだな」
とんでもない数の敵だ。
早くベルゼブブを助けに行きたいけど、まずはこいつらを全員倒さないとテミス達だけじゃ押さえきれないだろう。
そんな事を俺が考えているのが分かったのか、テミスは俺の背中を押してきた。
「ベルゼブブを頼むぞ、タロー」
「て、テミス・・・」
「サタン様以外の敵なら僕達だけで充分だ。そしてサトー、君の相手は屍人じゃなくてサタン様というのを忘れるな」
「結局全部タローさんに任せることになっちゃったけど、ベルちゃんを救えるのはタローさんだけなの。だから、お願い・・・!」
「ヴェントにディーネまで・・・」
どうすればいいのか悩む。
でも、さっき聞いたベルゼブブの叫び声を思い出した瞬間に身体は勝手に動き出した。
「任せろ!」
「ご主人さま、がんばってねー!」
その場から全力で駆け出し、群がってきた屍人達を殴り飛ばしながら魔都の壁を破壊する。
そして、俺は魔都の中へと突入した・・・んだけど。
「・・・貴様がサトータローか」
「いっ!?」
突然全身が炎に包まれ、俺は咄嗟に立ち止まる。
「何すんだこの野郎!」
「この先へは行かせん」
「うるせえ!邪魔すんな・・・!」
「いいや、邪魔させてもらうぞ」
家の上に立つ、炎を纏った赤髪の男。
まさかとは思うけど────
「俺はフレイ。元魔王軍所属、四天王の1人だった者だ」
「どういうことだ。主人が捕まってんのに、お前は第二魔界側に手を貸しているのか!?」
「ああ、そうだ・・・というよりは、お前達が必死に行方を追っている〝神罰の使徒〟に手を貸していると言った方が正しいか」
「なっ・・・!」
衝撃的なことをフレイは言った。
そしてその直後、凄まじい爆発音と共に魔都が激しく揺れる。
「・・・始まったか」
「くっ、何がどうなってんだ!」
そびえ立っていた城が吹き飛んだ。
同時に桁違いな魔力が2つ外に飛び出す。姿は全然見えないけど、多分ベルゼブブとサタンの魔力・・・!
「何が目的で魔界に攻め込んだ!」
「簡単に言えば戦力強化だな」
そう言ってフレイが身体をふわりと浮かす。
「まあ、とにかく黙って消えろ。来るのは分かっていたが、実際に来られると邪魔なんだよ、お前」
「それはこっちの台詞だ」
魔力を纏って地を蹴り、炎魔法を放とうとしていたフレイとの距離を一気に詰める。
「ディーネやヴェント達は必死になってベルゼブブを助けようとしてんのに────」
「っ、速い・・・!」
「何勝手に魔王軍裏切ってんだお前はァ!!」
そして死なない程度に手加減し、俺はフレイの顔面をぶん殴った。
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『がおーーーーーっ!!!』
「っ〜〜〜〜!!?」
神狼の咆哮が大気を震わせる。
更に発生した衝撃波が地面を粉々に粉砕し、ワラワラと群がっていた屍人達を一気に吹き飛ばした。
『えへへ、あとでいっぱいご主人さまにほめてもらうぞ〜!!』
「ま、マナ、私達も居るから・・・!」
『サンダースタンプ!!』
雷を纏わせた右脚を、マナが地面に叩き付けた。それによって再び地面は砕け、強烈な電撃が屍人達の腐った身体を焼き尽くす。
「こ、これは想像以上だ」
「凄いねマナちゃん!」
『マナだってつよいんだよー!』
どれだけ攻撃を受けても完全に身体が消滅するまで立ち上がり続ける屍人達だが、その度に巨大な神狼形態になったマナに吹き飛ばされ、その身を焼かれる。
タローがフレイと睨み合っている頃、そんな凄まじい戦闘が魔都前で勃発していた。