第64話 大海を支配する者
「魔界ってこんなに遠かったっけ?」
「以前君はあの速度で海を泳いでいたから、すぐに魔界へと辿り着くことができたんだ。このペースなら3日はかかる」
「まじか」
こんにちは、佐藤太郎です。
現在俺は、テミス達と共に海賊船みたいな船に乗って海の上を突き進んでる最中だ。
海の水はとても綺麗で透き通っていて綺麗だ。波も高くないから順調に船は魔界に向けて進んでる。
でも、あと3日かかるとか有り得ませんよね。
「食料はいっぱいあるし、最悪釣りをすれば魚を食べることができる。でもな、今こうしてる間にもベルゼブブ達が危険な目に遭ってるかもしれないんだぞ」
「だからといって、僕にはどうすることもできない。この怪我だとまともに魔法が使えないんだから、移動手段は船しかないだろ」
「根性見せろよぉ」
「無茶言うな。それならサトー、君が全員を上に乗せて泳いでみせろ」
「テミスとマナしか乗せれませんね」
「僕は!?」
と、そんな事をヴェントと言い合っていると、マナと手を繋いだテミスがこっちに歩いてきた。
「どうかしたのか?」
「何でもないよ。君の美しさについて語り合っていただけさ、テミス。是非僕と結婚してほしいものだね」
「はいはいストーーップ。そういうのやめてもらっていいですか?」
「テミスは皆のものだろう?」
「今は俺の彼女ですぅー」
「なんだとォ!」
「やるかァ!」
「こ、こらこら」
一旦落ち着けとテミスに言われたので、俺はヴェントから離れた。すると笑顔でマナが駆け寄ってきたので、頭を撫でてから抱き上げる。
「ねえねえご主人さま」
「どうした?そこに転がってる野菜が食べたくなったのかな?」
「サトー貴様ァ!」
「ううん、いらない」
あ、ヴェントがダメージ受けてる。
「あのね、なんかしってる人がちかくにいるみたい」
「人?」
マナの言葉を聞いて周囲を見渡してみたけど誰もいないし、魔力や気配も感じない。
「誰もいないぞ?」
「みずのなかだよー」
「んん?」
誰か知り合いが泳いでるのか?
そう思った直後、少し離れた場所で突然海面が盛り上がった。そして、海の中から超巨大な何かが姿を現す。
「なっ・・・!?」
「わぁ、しってる人じゃなかった。でも、あの人のぽわぽわ、マナしってるよ!」
マナが言うぽわぽわとは魔力のことだ。
つまり、マナは今海から飛び出してきたやつの魔力を知ってるということ。
というか、俺も知ってる。
「た、タロー、あれは・・・!」
「生きてたのか・・・?」
まるで龍のような巨体は、前とは違ってところどころ腐ってるようにも見える。
そう、あれは─────
「リヴァイアサン・・・!」
『ヴオオオオオオオオオッ!!!!』
現れた怪物は吠えると同時にブレスを放ってきた。ここだと逃げ場が無いので、ジャンプして迫るブレスに接近し、魔力を纏わせた拳でぶん殴る。
咄嗟のパンチはリヴァイアサンのブレスを消し飛ばすことに成功した。けど、俺はそのまま海に落ちた。
「おいこらてめえ!なんで生きてるのかは知らんけど、急に襲ってくるなこの馬鹿!」
『アアアアアア!!ソノ声、サトーたローかああァァ!?ググオオオオ殺シてヤルゥゥアアアアッ!!!』
「ちょ─────」
再びブレスが放たれる。
それを躱すことができずに俺は海の底まで猛スピードで吹っ飛ばされた。
『ウウウアアアアアアアアッ!!!!』
怒り狂っているリヴァイアサンが、凄まじい速度で海の中を俺目掛けて泳いでくる。
まずいぞ。
ステータスが高いのはありがたいけど、ここじゃまともに動くことなんて不可能だ・・・!
『シイイイネエエエエエエッ!!!』
ブレスが海底を粉々に破壊した。
それによって土や砂が舞い上がり、俺の姿はリヴァイアサンから隠れる。
よし、今のうちに・・・!
『ニィガァスゥカァァァァァッ!!!』
あちこちにブレスを放ちまくってるリヴァイアサンを無視し、俺は砕けた海底を全力で蹴る。
そして、一気に海面近くまで上昇してそのまま外に飛び出した。
「タロー、無事か!?」
「おう、なんとか────」
「ご主人さま、した!!」
船の上で心配そうにこっちを見てたテミスに無事を伝えた瞬間、珍しくマナが大きな声を出した。
その直後、海中から飛び出してきたリヴァイアサンに空中で突進され、俺は遥か上空まで吹っ飛んだ。
『グハハハハッ!!コのリヴぁイアさンこそガ、世カイデいちばン強イのダアアアアッ!!!』
「っ、まずい!」
上から見たらよく分かる。
リヴァイアサンを中心に、超巨大な渦潮が発生した。それはテミス達が乗っている船を砕いて海の中へと引き摺りこみ、彼女達は海の中へと転落する。
「リヴァイアサン、お前ぇ!!」
『全イん死ヌガいイ!!』
落下の速度を活かしてリヴァイアサンに殴りかかったが、それが当たる前にリヴァイアサンは海中に潜り、俺もそのまま海の中へと落ちた。
凄まじい海水の流れに抵抗することができず、身体はどんどん海の底に向かっていく。
このままじゃ息が持たないし、何よりテミス達の命が危ない。
でも、どうすりゃいいんだ。
あの時、嫌われてもいいからテミスとマナを留守番させるべきだったんだ。
「ちくしょ・・・!」
ベルゼブブはきっと俺を待ってる。それなのに、俺はこんなところで──────
「やっと、タローさんの役に立てるね」
そんな時に、彼女の声は聞こえた。
突然俺の身体は流れに逆らって上へと向かい、数秒後に海上に顔を出すことが出来た。
急いで周囲を見渡せば、向こうでふわふわ浮かんでいる水の塊の上に座り込むテミス達の姿が見える。
「えへへ、驚いた?」
「確かに驚いたけど、それよりも安心したよ。無事で良かった」
振り向けば、海の上に立っている少女と目が・・・合わない。何故なら、風でめくれた少女のスカートの中身に目を奪われてしまったからだ。
「もう、タローさんったら」
「あ、すまん。つい」
優しい笑みを浮かべながら手を差し出してきたのは、敵を食い止める為に魔界に残ったとヴェントが言っていた少女、ディーネだ。
「何でここに?と聞きたいけども」
「うん。今はまず、あれをどうにかしなきゃだね」
魔法を使ってるんだろう。
水の上立つという不思議な体験をすることが出来てる俺は、どうやったらリヴァイアサンを倒せるかを考える。
「強さは圧倒的にタローさんの方が上だけど、此処はリヴァイアサンが最も得意とする戦場、海だからね。攻撃が届く前に潜られたら意味が無いし、やっぱり私の出番かな」
そう言ってディーネが魔力を纏う。
「3分だけ時間を稼いでくれる?」
「おう、任せとけ」
自信に満ちた表情。
恐らく今から放つ魔法が当たれば、確実に勝てるという自信があるんだろう。
なら、俺はディーネを信じてリヴァイアサンの注意を3分間引き続けようじゃないか。
「ということでクソデカ蛇野郎。お前の相手はスーパーアイドルディーネちゃんではなく、この俺佐藤太郎さんだ」
『グハハハハハッ!!!』
「あれ、喜んでる?」
足場を蹴ってリヴァイアサンに接近する。
けど、俺よりも速くリヴァイアサンは海の中へ潜ってしまった。
『アイテアイテアイテアイテェェ!!!』
「来い・・・!」
飛び出してきたリヴァイアサンの突進を受け止め、顔面を全力で殴るために拳を握る。
しかし、俺が腕を振る前に放たれたブレスをまともに受け、俺は遠くに吹っ飛んだ。
『ニガサンゾォォォォォッ!!!』
「ちっ、海の上って面倒だな」
それから、リヴァイアサンの注意をディーネから逸らし続けること3分。
ようやくその時は来た。
「〝全ての流れは我のモノ、愚かなる咎人共に裁きの鉄槌を〟」
「「ッ────!!!」」
声が聞こえる。
今まで戦闘音に遮られていたらしいそれは、3分間もの間ずっと唱え続けられていたのだろうか。
『何故・・・何ゼ貴様ガそレを!!?』
「ディーネ!俺ごとこいつをぶっ倒せ!!」
『〝天地を喰らう────〟』
凄まじい魔力がディーネの周囲を渦巻いている。俺の声を聞いたディーネは真剣な表情のまま頷き、そして溜めた魔力全てを解き放った。
「〝天地魔壊の大海龍大口〟!!!」