第62話 やはり平和は続かない
魔界編だぁ
「お前で最後だなー。ほら、大人しくした方が身のためだぞ?」
「ぐっ、畜生・・・。まさか、あの〝英雄王〟が来るとは・・・!」
悔しげに表情を歪める男の上に座り、周囲を見渡す。
ここは王都の真下にある地下水道。『王都地下水道に集結している謎の勢力の捕縛』という依頼がオーデムギルドに舞い込んできたので、神罰の使徒に関係することかもしれないと思って受注したんだが・・・。
「で、お前らは何なの?」
「さっき言っただろ!」
「・・・あ?」
「我々は〝断頭会〟!王都でテロを行う為にこの地下水道に集まっていたんです!」
「よろしい」
つまり、別に神罰の使徒とは何の関係もないただのテロ組織ということだ。
「タロー、お疲れ様」
「テミスもお疲れ。怪我とかしてないか?」
「ああ、大丈夫だ」
向こうから、数人の男を拘束した銀髪の美少女が歩いてきた。彼女はテミス、優しく可愛く仲間思いな俺の彼女です!
「前よりも右腕が動くようになってきた。でも、多分レベル50以上の者が相手だと負けてしまうと思う」
「そっか。その時は俺が守るよ」
テミスの顔が赤くなる。
ほんのちょっとしたことですぐにこうなっちゃうとこがまた可愛いんだよなぁ、テミスは。
「にしても、〝英雄王〟だなんて呼ばれるのは嬉しいけども恥ずかしいな。別に英雄でも何でもないし」
世界一の実力者を決めるユグドラシル魔闘祭で優勝してから一ヶ月。世界中で知られることになった俺は、なんとテミス達と同じ世界最強の六人、《世界樹の六芒星》に加えられることになったのだ。
そして、テミスが《銀の戦乙女》、ソンノさんが《怠惰の魔導王》って呼ばれてるのと同じように、俺もみんなから《英雄王》って呼ばれるようになっちゃった。
「えへへ、でもかっこいいよね!」
「おお、そぉかそぉか。かっこいいか。マナがそう言ってくれるのなら、これからも英雄王は頑張るぞ〜」
恥ずかしいけど、マナにかっこいいと言われるのはとんでもなく嬉しいので、英雄王って二つ名も悪くないな。
「さて、こいつら全員軍に引き渡して帰るとするか」
「マナ、おなかすいちゃった」
「よーし、ならマナが好きなおにぎりを沢山作ってあげよう」
「ほんと!?わーーい!」
満面の笑みを浮かべながら飛びついてきたマナを抱きかかえ、テロリスト達を縄で縛ってから、俺達は依頼達成報告をする為に地上へと向かった。
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「ふんふんふ〜ん♪」
「やっぱり風呂は最高だなぁ。しかも、テミスが入った後の風呂っていうのがもう・・・」
「ご主人さま、えっちだね!」
「しまった。心の声が漏れてしまった」
王都での依頼を終えてオーデムに戻ってきた俺は、現在マナと一緒に風呂に入ってのんびり寛いでる最中だ。
浴槽に浸かりながら、濡れたマナの頭をなでなでする。ああ、ずっとこうしてなでなでしていたい・・・。
「そーいえばご主人さま。テミスおねーちゃんといっしょにおふろはいらないのー?」
「ぶふっ!!こ、こらこら。もちろん入りたいけど、いろいろ我慢できなくなっちゃうから」
「マナはみんなではいりたいなぁ」
「うぐぐ。まあ、俺はいいんだけども、テミスは入ってくれないと思うよマナちゃん」
「ええ〜」
ちょっとだけその状況を妄想してみたけど、あかん。あれが起立しそうになってるけど、今は授業中ですよ。座ってなさい。
「でも、すきな人といっしょにおふろはいるのってあたりまえのことなんでしょー?」
「誰に聞いたのかな?」
「ソンノ!」
「はぁ・・・」
ピースしながら意地悪な笑みを浮かべている幼女の姿が頭に浮かぶ。
「ごめんなぁ。当たり前のことではないんだよ、それは。でも、いつか3人で風呂に入れたらいいよな」
「うん、たのしみだね!」
「よーし、そろそろ出ようか。おにぎり作って食べよう」
「おにぎりー!」
嬉しそうにそう言いながらマナが立ち上がる。それによって濡れた尻尾が顔面に直撃し、俺は呼吸ができなくなった。
「きゃああっ!?」
「むっ!?」
その直後、外からテミスの悲鳴が聞こえてきたので、俺もマナと同じように立ち上がる。
「どうした!?ムカデが出たのか!?」
そして風呂場から飛び出してリビングに向かうと、玄関前に立ってるテミスと目が合った。
「ち、血だらけの人が、急に・・・え?」
「どうした?」
「きゃああああっ!!!」
女の子らしい悲鳴が再び響き渡る。
真っ赤な顔を両手で隠して俺に背を向けたテミス。なるほど。よく考えたら、俺今全裸だったわ。
「え、あれ?そこで倒れてるの、ヴェントじゃないか?」
「そ、そうなんだ。玄関の前で倒れていて・・・」
全身傷だらけの、緑色の髪の男が玄関でぐったりと横になっているではないか。
こいつは、魔王ベルゼブブの部下で変人の四天王ヴェントだ。
「しょうがない。家の中に入れて、起きたら何があったのか聞こう。俺の部屋まで運ぶよ」
「ありがとう・・・って、ふ、服を着ろ!」
「ご主人さまぁ、どーしたのー?」
「マナも、ちゃんと体を拭きなさい!」
ペタペタとこっちに歩いてきたマナを抱え、テミスは風呂場へと向かう。
「ぐっ・・・サトー、か」
「よう、何があったんだよ」
とりあえずヴェントを部屋に連れて行こうとした時、傷だらけのヴェントが絞り出したような声を出した。
「頼れるのは、お前だけだ・・・。頼む、魔王様を・・・魔界を救ってくれ・・・」
そしてそう言い、また意識を失った。
どういうことだろうか。まさかとは思うけど、ベルゼブブの身に何かあったのか?
それを知るためには、まずヴェントが意識を取り戻すのを待たなければ・・・。