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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
集う最強、魔闘祭
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第58話 伝えたいことを伝えるために

「────ぅ」


ユグドラシル達が居た場所から闘技場に戻ってきてから3時間程経った時、小さな声が聞こえたので俺はそっちに顔を向けた。


「・・・タロー」

「良かった、目が覚めたんだな!」


ずっと意識を失っていたテミス。

そんな彼女が上体を起こし、まだ顔色は悪いけど微笑む。


「ここは・・・?」

「闘技場にある医務室。王都から回復魔法の使い手がいっぱい来てくれて、大怪我を負ってたテミスの治療をしてくれたんだ」


右肩から左の腰あたりまで深い傷を負っていた彼女を見た人達は助かる確率は低いって言ってたけど、こうして目を覚ましてくれてほんとに良かった。


「そうか・・・。でも、ノワールとハーゲンティは・・・」

「転移魔法を使って逃げたよ。しばらく奴らがテミスの前に姿を見せることはないと思う」


多分だけど、ハーゲンティはテミスが死んだと思ってるんだろう。だから大丈夫だとしても、それでも。


「ほんとにごめん。今回の件はテミスを1人にしてしまった俺の責任だ」


頭を下げる。

今は包帯が巻かれてるテミスの身体には傷跡が残ってしまった。名の知れた回復魔法使いの人達でも治し切れなかった傷跡が。


それだけじゃない。


「そ、そんな。これはタローのせいじゃ────ぐぅっ!?」


右手を伸ばした彼女だが、表情を歪めながら右肩を押さえる。


「て、テミス。大丈夫か!?」

「大丈、夫・・・」


回復魔法使いは言っていた。

長時間右腕にかなりの負荷をかけ続け、更に生と死の境目を彷徨う程の致命傷を負ったテミスは、今後右腕をまともに動かすことが出来なくなると。


「くそっ、もっと早くに駆けつけれていたら・・・」

「それでもタローのせいじゃない。寧ろ、迷惑をかけてしまったのは私の方だ。ごめんなさい」

「な、なんでテミスが謝るんだよ!」

「こうなったのも、ただ単純に私の力不足が原因だ。だから別にタローは・・・」


突然言葉を切ったテミスの顔が真っ青になる。どうやら彼女が見ているのは俺の肩のようだ・・・肩?


「タロー、怪我してる・・・」

「え、いや、これは」

「まさか、ハーゲンティの耐久無視の殺戮槍(ブリタルジャブロ)を食らったのか!?だって、そうじゃないとタローが怪我なんてするわけ・・・!」

「さっきテミスだって言ってたろ。単純に俺が奴の攻撃を避けれなかっただけだ。つまり、俺の力不足が原因なだけでテミスは悪くない」

「でも・・・」


このままじゃ俺が悪い私が悪いの言い合いになりそうなので、俺は立ち上がって部屋の扉に手を置いた。


「ま、待って・・・」


けど、そう言われたので振り返る。


「飲み物持ってくるだけだよ。テミスも喉かわいたろ?」

「1人にしないで・・・」


確かにそうだ。

この状況でテミスを1人にするのは絶対に駄目だろ、馬鹿か俺は。


とりあえず、もう一度テミスの隣に置いてある椅子に腰掛ける。けど、それからしばらく互いに黙り込んでしまった。


「つ、次は準決勝だな。私、ずっと楽しみにしていたんだ。だから・・・!」

「その怪我でどうやって闘うつもりだよ。絶対無理しちゃ駄目だから」

「え、なんで・・・」


気まずくなったのか、準決勝について話し始めたテミス。でも、何を言われようと試合に出させるわけにはいかない。


「駄目だ」

「・・・怒ってる?」

「当たり前だろ。ああ、いや、テミスに怒ってるわけじゃないぞ?テミスを傷付けたあいつらにだ」


あの時のことを思い出した途端に抑えきれない怒りが湧き上がってくる。


何があろうと許すわけにはいかない。

もう2度も逃げられたんだ。


「今度こそあいつを殺してやる・・・」


それは、驚くほど自然に出た言葉だった。

日本に住んでいた頃は、『殺す』なんて口では言っても実際に誰かを殺そうとしたことなんて1度もない。


けど、今は本気であの男を殺そうと思ってる。何回再生しようが関係ない。何度でもボコボコにして、それで────


「駄目」

「なんで」

「私が怪我して怒ってくれているのは嬉しいよ。でも、私は私のせいで怒って誰かを殺すだなんて言っているタローは見たくない」


じっと俺を見つめてテミスがそう言う。


「私は、いつもの優しいタローが好きだから・・・」

「え」

「───っ、ち、ちがっ!そういう意味じゃなくて、友達とか家族として好きだなって・・・!」

「あ、ああ、そういう意味か」


少し期待してしまった自分が恥ずかしい。とりあえず赤くなってるであろう顔をテミスに見られないようにしておこう。


「分かった、もう殺すとか言ったりしない。でも、ハーゲンティは絶対ぶん殴るからな」

「ふふ、それはお願いする。でもその前に、タローは魔闘祭で優勝しなくてはならないな」

「何言ってるんだ。テミスがこんな事になってるのに、呑気に試合なんかできない」

「そっちこそ何を言っているんだ」


そう言われたのでチラリとテミスを見れば、少しむすっとしながら彼女もこっちを見ていた。


「優勝したら伝えたい事があるって言っていたじゃないか」

「そ、それは」

「タローは私を意地でも魔闘祭に出させてくれないんだろう?もう私は伝えたい事を伝えられないのだから、タローが伝えようとしてくれている事は聞きたい」


ちょっと待て。

これ、俺が何言おうとしてるのかバレてるパターンじゃないだろうな。


「い、いやいや。もうその話は無しにしよう。そんなの怪我してる子に言えることじゃないしな!」

「なんで!」

「だってそれは・・・」


正しくは『守れずに怪我させてしまった子に』言えることじゃないものなんだけど。


「私は、もう伝えられないのに」

「な、なら今言っていいよ」

「言えない。これだけ迷惑をかけたのに、言えるわけない」


あれ、料理作ろうとかそういう系だと思ってたけど違うのか?もしかしたら、怪我してる状態じゃ出来ないことなのかも・・・。


「だから、私の分も頑張って欲しいんだ。タローは世界で一番強いんだから、きっと優勝できるよ」

「・・・あーもう、分かった。絶対優勝するから、何言われるか楽しみにしているがいい!」

「何故そんな悪者のような言い方を・・・」


ドン引きされるかもしれないし、思いっきり拒否されるかもしれない。でも、ここは男として勇気を振り絞ってやる。


とにかく、必ず優勝しなければ。



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