第47話 大量発生メタりんハント
「はっはっはァ!!」
「ミィィィィッ!!」
逃げ回るメタりんを追い回し、捕まえては地面に叩きつける。たまに飛びかかってくる勇敢な奴もいるけど、そいつは殴って倒す。
そんなことを繰り返すこと約三時間。
徐々にレベルが上がらなくなってきたけど、記憶が正しければ今俺のレベルは79のはずだ。
「よっし、あと1レベ上げるだけだ!」
「お疲れ様。だけど、もうずっと休まずに動き続けているだろう?少し休んだ方がいい」
「ああ、ありがと」
最初は俺のレベル上げを優先してくれて、離れた場所から見てただけのテミス。けど、遠慮せずにテミスもメタりん狩りをしてくれと言ったらとても喜びながら戦闘に参加してくれた。
でもこのメタりんとやら、ほんと硬いのな。
俺だから一撃で倒せてるけど、あのテミスの攻撃すら弾くボディ。逃げ足も速いし、遭遇したら超レベルアップ確定なんて思ってる人達は絶望を味わうだろう。
「うぇ、やっぱりおいしくない」
そして、うちの娘はさっきからずっとメタりんをかじったり舐めたりしては顔をしかめてる。
いい匂いがするって言ってたけど、どうやらメタりんはとても不味いみたいだ。
「マナちゃん、お菓子あるからこっちおいで」
「でも、いいにおいするもん・・・」
「俺が作ったおにぎりも持ってきてるけど」
「わーい!」
持ってたメタりんを逃してマナが駆け寄ってくる。残念だったなメタりん。お前は俺のおにぎりに負けた。
「しかし、まさか一日でそれほどレベルが上がるとはな。もうこの迷宮に住むメタりんは数える程しかいないとは思うが、きっとタローのレベルは80に届くだろう」
「テミスだって結構レベル上がったろ?」
「数えておけばよかったと少しだけ後悔してるよ。ふふ、オーデムに戻ってから今の自分のレベルを知るのが楽しみだ」
そう言って微笑んだテミスが可愛すぎてもう・・・。俺の膝の上でおにぎり食べてるマナも最高に可愛いし、前も言った気がするけど、とても幸せですね。
「お菓子とかあるからテミスも食べなよ」
「ん、ありがとう」
それからしばらくの間、俺達は雑談しながらお菓子とかを食べて休憩した。
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「凄いぞタロー!まさか、あの伝説の魔物をこの目で見ることができるなんて!」
興奮して恥じらいを忘れているのか、はしゃぎながら俺の腕を掴んでぶんぶん振ってくるテミス。
その理由は、あれから洞窟を進み続けてたどり着いた最奥で、伝説級にレアな〝王様〟に遭遇したからである。
「あれはメタりんキングという魔物で、倒せばメタりん数十匹分の経験値を貰えるらしいんだ!しかし、これまで人前に姿を現すことはあっても討伐されたことは一度もないらしい。これでタローが一人目になるな!」
「うーん、ほんとにいいのか?確かに俺もレベルは上げたいけど、テミスだってあいつ倒してレベルアップしたいだろ?」
「それは少しだけ思っているけど、私はタローがレベルアップするのを見たいかな。タローのレベルが上がると私も嬉しい」
やばい、なんか泣きそう。
そりゃこんなに優しくて可愛いんだから、世界中にファンがいて当然だよな。
「おし、それじゃあ倒させていただきます」
「頑張って」
魔力を腕に纏わせ、向こうでじっとしているメタりんキングに向かって歩を進める。
見た目はメタりんの巨大版で、頭の上に王冠が乗っているメタりんキング。多分メタりんよりも遥かに硬いと思うから、魔力パンチでぶっ倒すとしましょう。
「悪いな。経験値貰うぜ・・・!」
「ッ─────」
目の前まで歩き、拳を握りしめる。
そして全力でメタりんキングの顔面を殴ろうとした次の瞬間、メタりんキングが急に突進してきたので俺は後ろに吹っ飛んだ。
「てめっ・・・!」
「ミギィィィィ!!」
起き上がって顔を上げた直後、壁を利用して縦横無尽に跳ね回りながらメタりんキングが再び突進を繰り出してきたので、体を横にズラしてそれを躱し、俺の横を通過する瞬間に蹴りを放つ。
それによってまるでボールのように吹っ飛んだメタりんキングは、一度天井に衝突してから向こうの地面にめり込んだ。
「ギ、ギィィ・・・!」
「硬いなおい」
結構強めに蹴ったのに、メタりんキングはまだ生きていた。しかも、ぴょんぴょん飛び跳ねて挑発してやがるぞあいつ。
「ギャギャギャアアアッ!!!」
「うるせえ」
悲鳴のような声を発しながら突っ込んできたメタりんキングを殴る。それでも体が凹んだだけで死なず、俺が驚いてる隙にメタりんキングは跳ねながら逃走を開始した。
だけど───
「うっ・・・!?」
メタりんキングが逃げた先に立っていたテミスが、驚きながらも咄嗟にマナを庇い、剣を抜いて勢いよく振るう。
ガキィーンと音が鳴り響き、テミスはバランスを崩して尻餅をついた。そんな彼女の目の前で、地面に落ちたメタりんキングがドロりと溶け始める。
「・・・あ」
それを見てテミスの顔が真っ青になったのが見えた。これってあれかな?テミスがトドメさしちゃった感じかな?
「あ、ぅ・・・」
さらに、光り輝き始めた自分の体を見て半泣きになるテミス。そんな彼女になんて声をかけたらいいのか分からずにその場から動けずにいると、溶けるメタりんキングを指でつついていたマナが突然立ち上がり、そして純粋な笑顔をテミスに向けた。
「もー、ご主人さまがれべるあっぷしなきゃなんだから、テミスおねーちゃんがたおしちゃったらだめだよ〜」
「ご、ごめんなさい・・・」
やばい、テミスが泣いてしまった。
「私、そんなつもりじゃ・・・」
「だ、大丈夫。別に気にすることないって。予選はまだ先だし、それまでに1レベ上げるのなんて余裕だよ」
「でも・・・」
「さっき俺に言ってくれたように、俺だってテミスがレベルアップすると嬉しいからさ。な?」
まさかこんな事で泣いちゃうとは思わなかったぜ。普通の人なら、こんな形でレベルアップしたとしても強くなれたんだから喜ぶと思うんだけど。
やっぱりテミスは優しい子だ。
「さ、そろそろ帰ろう。お互いレベルアップできた記念に、今日はおやっさんの店に飯でも食いに行こうか」
「わーい、やったぁ!」
駆け寄ってきたマナを抱き上げ、まだ泣いてるテミスの手を握って引っ張る。それに驚いたのか、テミスは顔を隠そうとせずに俺の目を見つめてきた。
「ほら、帰ろ帰ろ」
「た、タロー、でも・・・」
「また明日レベル上げに付き合ってくれたら嬉しいかな。でも、その前にギルドでレベル測定してもらおうか」
「タロー・・・」
ほんとに気にしてないし、テミスのレベルが一気に上がったのは俺にとっても凄い嬉しいことなんだけどなぁ。
そう思いながら、俺はテミスと手をつないだまま迷宮の外を目指して歩き出した。