第45話 世界一のお祭り
ふと目が覚めたので、上体を起こして欠伸をしながら時計を見る。時刻は午前7時。今日は特に何かする予定もないのでもう一度寝ようと思い、俺は布団の中に潜った。
「・・・ん?」
そこで感じた違和感。
俺は毎日自分の部屋のベッドでマナと一緒に寝てるんだけど、なんか今日、ベッド狭くない?
「はて、魔物でも潜り込んでるのかね」
ぺらりと掛け布団を捲ってみると、いつも通りマナは俺に身を寄せてすやすや眠っていた。うん、可愛い。
そして、違和感の正体。
なんとテミスが俺のベッドで寝てた。全然魔物なんかじゃなくて、天使が潜り込んでた。
「・・・」
頭を撫でてみる。
相変わらず髪の毛はサラサラで、結構距離が近いからとてもいい香りが漂ってきますね。
「ん・・・」
そんな時、俺のなでなでに反応したのかテミスが可愛らしい声を出した。それを聞いて俺の中で悪魔数十匹が囁き始めたけど、そんなの気にしない気にしない☆
というか、なんでテミスはこんなとこで寝てるんだ?
あんな恥ずかしがり屋なテミスが自分からベッドに潜り込んでくるはずがない。ということは、誰か別の人が寝てたテミスをここに運んできた可能性があるな。
やばい。ニヤニヤしてる髪の毛ボサボサの見た目幼女のギルド長の姿しか頭に浮かばない。
「ぅ・・・?」
どうしたものかと一人で思ってたら、遂にテミスが目を開けた。そして俺の顔を数秒間じっと見つめたあと、一瞬で顔が真っ赤になったテミスは目を見開きながら飛び起き、その勢いのままベッドから落ちた。
「お、おい。大丈夫か?」
「なんで、タローがここに!?」
「落ち着いて聞いてほしい。まずここは俺の部屋で、これは俺がいつも寝ているベッドなんだ」
「え・・・?」
俺の説明を聞いて周囲を見渡すテミス。やがて彼女はさらに顔を赤くしながら勢いよく頭を下げてきた。
「すっ、すまない!自分でも何故こんなことをしたのか分からないけど、多分寝ぼけていただけなんだ!だから、その、別に悪気があってタローの部屋に入ったわけでは・・・!」
「分かってるよ。とりあえず一旦落ち着こうか。別に怒ったりなんてしてないからさ」
そう言ってやると、テミスはある程度落ち着きを取り戻したようで、深呼吸しながら置いてあった椅子に腰掛けた。
もうちょっと取り乱してるテミスを見てたかったけど、今はそれよりも────
「空間魔法って便利ですよね、ソンノさん。気付かれずに人を別の場所に移動させるのも可能ですもんねー」
「おっと、まさかバレてたとは」
急に天井付近に黒い穴が出現し、そこから長い紫色の髪をもつ幼女が飛び出してきた。
ああ、やっぱり犯人この人だったよ。
「そ、ソンノさん・・・?」
「よう、テミスに無自覚モテ男。神狼マーナガルムはまだ夢の中・・・か」
こんな見た目でも世界最強レベルの強さを誇る、ソンノ・ベルフェリオさん。相変わらず長い髪はボサボサで、目の下には黒いクマができている。
「まさか、ソンノさんが私を?」
「面白そうだったから移動させてみた」
「お、面白そうなどという理由でそんなことをしないで下さい!」
顔を真っ赤にしながら怒るテミスを無視し、ソンノさんはポケットから一枚の紙を取り出した。まあ、すごいグチャグチャになってるけどそれは気にしないでおこう。
「今日はこれをお前らに見せようと思ってわざわざ来てやったんだ。ふふん、感謝するといい」
「なんですか、これ」
「二ヶ月後に開催される予定の、〝第一回ユグドラシル魔闘祭〟について書かれてる紙だ」
「魔闘祭・・・?」
なんだそれと思ってテミスを見ると、彼女もよく分かっていないらしく首を傾げていた。そういう仕草が可愛いんだよなぁ。
「バトルだよ、バトル。世界中の強い奴らを集めて、世界一を決めるお祭りをするとのことだ」
「何それすごい」
「ちなみに、私ら世界樹の六芒星は絶対出場しなきゃいけないんだとさ。テミス、文句があるなら王族の連中に言ってくれよ?」
「王族?」
「世界中の国のトップ共が集まって考えたお祭りだ。さすがに私も嫌です出場しませんとは言えないんだよ」
へえ。なんか思ったより素晴らしい世界なんだな、ここって。国同士が大の仲良しってのは良いことだ。
「でも、テミスやソンノさんが出場したら普通の人が世界一になんてなれないでしょ。どう考えても決勝は六芒星VS六芒星になるも思いますけど」
「そうだろうな。でも、六芒星同士が闘うのを見たいって連中も多いってことだ。それに、もしかしたら一般人の中に私らを上回る力を持つ者が居るかもしれない」
ニヤリと笑いながら、ソンノさんが俺を見てくる。まさかとは思うけど、この人・・・。
「俺もそれに出場しろと?」
「その通り。別に強制はしないけど、そろそろお前も有名になってもいいと思うぞ?どっかの商人の仕業かどうかは知らないが、とんでもなく強い男が王国に居るって最近噂になり始めてるしな」
「ふむ・・・」
この世界に来たばかりだった頃は、騒がれるのが嫌だったから言いふらさないでねって町中の人にお願いしてたけど、それならもういっそのこと出場して派手に暴れてやろうか。
「ちなみに、一般人が私らに勝てば好きなことを一つお願いできるんだとさ。だから、もしお前がテミスと当たって勝利すれば、あんなことやこんなことをお願いしたりもできるぞ」
「出場させてもらいます」
「た、タロー!」
テミスに頭を叩かれた。
「待て、テミス。絶対有り得ないとは思うけど、万が一テミスがよく分からん変態に負けてしまった場合、とんでもないことをお願いされるかもしれないんだ」
「うっ・・・」
「俺が出場してそいつらを全員倒してしまえば、テミスに何かお願いすることになるのは俺になる」
「・・・例えば、何を?」
「一緒に風呂入ろうぜ」
「な、何を言ってるんだ!」
「嘘ですごめんなさいっ!」
まあ、一つ思いついたことはあるけど。
それはその魔闘祭とやらで優勝した時テミスに伝えるとしましょう。
「予選を勝ち上がってきた者達11人と、六芒星・・・うーん、ハーゲンティは除外するから五芒星か?まあ、私ら5人を足した16人で本選を争うことになる。タロー、出場するんならきっちり予選を通過してこいよ」
「余裕ですよ、多分」
「一応出場資格があるのはレベル80以上の者だけだ。レベル100クラスは数人ぐらいしかいないだろうが、それでも一応気をつけろよ。お前が予選敗退になっちゃつまらんからな」
そう言ってソンノさんは魔法を唱えた。
「予選とかの日時については分かり次第伝えてやるよ。それまで特訓でもして時間を潰すことだ」
「はーい」
「それじゃあな」
一瞬でソンノさんの姿が消える。多分転移魔法を使ったんだろうけど、相変わらず便利な魔法だよなぁ。
「ということだ、テミス。お互い優勝目指して頑張ろうぜ」
「ああ。私では相手にならないだろうが、もしも私がタローに勝てた時は・・・」
「ん?」
「あ、いや。何でもない」
少し頬を赤く染めながら、テミスが俺から顔を逸らす。何を言おうとしたのかは分からないけど、しつこく聞きすぎると嫌われるかもしれないから聞かないでおくか。
「そ、そういえば、タローは今どのぐらいのレベルなんだ?神殿から迷宮に飛ばされた時に魔王級の相手を倒したとは聞いたが、レベルについてはまだ聞いていなかったな」
「レベル50だよ。思ったよりレベル上がらなくてさぁ、レベル2の奴がレベル800の奴に勝ったら普通もっと上がってもいいと思・・・う?」
あれ、レベル50?
「・・・タロー。確か、出場資格があるのはレベル80以上の者だけだとソンノさんは言っていた気がする」
・・・・・・・・・ん?
「あと30もレベル上げないと魔闘祭出場できないじゃんかあああああああっ!!!」