第43話 魔族の少女も恋をする
「っ、タロー!よかった、無事だったか」
リヴァイアサンを倒してから数分後、崩れた壁の向こうからテミス達が姿を見せた。
マナが居たとはいえ、マルクと迷宮を進むのはかなり怖かったんだと思う。俺を見た瞬間にぱっと笑顔になったテミスがとても可愛かったので、思わず頬が緩んだ。
「わーい、ご主人さまーっ!」
「はは、怪我とかはしてないみたいだな」
駆け寄ってきたマナの頭を撫でてから周囲を見渡す。リヴァイアサンは倒したし、これ以上何かが起こったりはしなさそうだな。
「ん・・・?」
帰ったら思う存分マナを愛でようと思ってたら、歩いてきたテミスが何かに気付いて動きを止めた。
「・・・何をしているんだ?」
「好きな人と腕を組んで歩きたいって、銀髪のお姉さんも思ったりするでしょ?ほんとはもっといろんなことしたいけど、さすがにベルちゃんに怒られそうだからね」
「それは・・・え?」
俺の腕にしがみついているディーネの言葉を聞いて、テミスが目を見開く。
「まさか・・・」
「あはは、ごめんね。私も強くて優しくてかっこいいタローさんに惚れちゃったー!」
「「なっ!?」」
それには俺も驚いた。
ディーネさん、今惚れたって言ったよね?掘れたって言ったんじゃないよね?
「ま、待て!まだ出会ってからそれ程時間は経っていないだろう!?何が理由で───」
「一目惚れってあるじゃない?それと似たようなものかなぁ。タローさんの戦う姿と優しさに、私は心の底から惚れたんだよ」
ま、まじですか。
若干頬を赤く染めてるディーネが俺の腕にしがみつく力をさらに強めたことにより、彼女の胸の感触がモロに伝わってきた。
「魔力が乱れてるよ、お姉さん。私がタローさんを好きになったことに動揺してるみたいだね」
「うっ・・・」
「あはは、タローさんはモテモテだなぁ」
と、ディーネがそう言った直後、急に俺の体が光り輝き、さっきよりも力が増加したのが感じられた。
これってあれか。レベルアップってやつか。
「レベル2って言ってたし、あんな化物を倒したら当然レベルアップするよね。ふふっ、レベル100ぐらいになったんじゃない?」
「それはやばい」
あいつ、レベル800とか自分で言ってたしなぁ。というか、そんなレベルの相手を倒しても98しかレベルアップしないのか。いや、そんだけ上がったら充分だよな────
「・・・いや、そういえばケルベロスを倒した時にレベルアップしなかったな、俺」
「ケルベロス?魔犬ケルベロスのことかな?」
「そうそう、そいつだよ。多分ベルゼブブと同じぐらいのレベルだったと思うんだけど、そんな奴を倒してもレベルアップしなかったんだ」
レベル1から2に上がるまでにかなりの数の魔物を倒した。2になってからレベル300~400のケルベロスとレベル800のリヴァイアサンを倒した。
うーん、多分貰える経験値的なものが全然違うだろうし、一気に100まで上がるだろうか。
まあ、帰ったらギルドにでも行ってレベル測定してもらうか。また測定石破壊してしまいそうだけど。
「そういやマルク。お前、ここに来るまでの間にテミスに何かしたりしてないだろうな」
「〝テミス騎士団〟の一員が、守るべきテミスさんに何かをするわけがないだろう?」
「お前もあのよく分からんファンクラブの一員だったんかい・・・」
この世界には〝テミス騎士団〟という名の、一種のファンクラブが存在している。それの支部が俺達の住むオーデムのギルドに存在するのだ。
活動内容は知らんけど、俺がテミスの家に住まわせてもらってることとか、胸を触ってしまったこととかを知られたら、確実に俺VS騎士団の戦闘が勃発するだろうね。
「まあいいや。今日は結構疲れたし、ぼちぼちと帰るとしましょうか」
「どうやってかえるのー?」
「うーん、歩いて帰るしかないだろうけど、それだと時間かかっちゃうよなぁ・・・」
「あ、大丈夫だよ。ここは別空間に造った迷宮だってリヴァイアサンが言ってたし、多分もうすぐあの神殿に戻れると思う」
「それは良かった」
なんか、物凄く濃い一日だったな。
報酬貰ったら今晩はおやっさんの店にでも行くとするかぁ。
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「私はいらないんだけどね〜。人間のお金なんて持ってても使うことがないだろうし、タローさんと過ごせてとても幸せだったから」
「まあまあ。こっちに遊びに来た時はそれを使って買い物でもしなよ。その時は俺も付き合ってやるからさ」
「やーん、タローさんとデートできるってことだね。それなら毎日遊びに来るよ・・・って、そんなことしてたらベルちゃんにぶっ飛ばされちゃう」
報酬として500万Gというとんでもない大金を受け取った俺達。マナはまだお金の使い方がよく分かってないし、必要な時は俺があげるから彼女の分は今回は受け取らない。
ということで、1人125万G貰いました。
「よし、これで当分の間生活に困らないな。いやぁ、今回は同行させてもらえて良かったぜ」
「そうだろう?だから、今後俺がテミスと手を繋いだりしても騒がないよう騎士団の連中に言っといてくれよ」
「ふふん、考えておこう」
もう時刻は午後8時。
腹が減ったからもう帰ると言って、軽く手を振りながらマルクはギルドから出て行った。
「ん〜、私もそろそろ帰ろっかな。ほんとはもうちょっとタローさんと話していたいけど、リヴァイアサンの報告は早めにしとかなきゃね」
「そっか。今日はありがとな、ディーネ」
「それはこっちの台詞だよ」
ディーネももう帰るみたいで、伸びをしながら椅子から立ち上がった。でも、何故か笑みを浮かべながらマナの頭を撫でてる最中の俺に近寄ってくる。
「タローさん、大好きっ」
そして、頬にキスされた。
「ちょ、ディーネ・・・」
「あはは、またね〜!」
突然の行為にギルドがざわついたけど、何か言われる前にディーネは笑顔で去っていった。ほんと、いろいろとんでもない女の子だったな、彼女は。
「ご主人さま、うれしそう」
「そりゃあ可愛い女の子にキスなんてされたら嬉しいよ」
「マナにちゅーされたらうれしい?」
「勿論!」
一回マナにも頬にキスされたことがあったけど、他の男達には絶対この子とキスなんてさせるものか。もし無理矢理しようとする奴が現れたら、そいつは本気で地面に埋めてやる。
「じゃあ、テミスおねーちゃんのちゅーは?」
「超嬉しいけど」
「な、何を言ってるんだ」
テミスを見れば、案の定顔が赤くなっていた。されるわけがないけど、されたら一日中そのことを考えてしまうだろうな。
「そろそろ家に帰ろう。お、お腹が空いてるだろうけど今から料理を作ると時間がかかるから、今日はおじさんの店に行かないか?」
「おお、俺も同じこと考えてた」
「そ、そうか。じゃあ行こう」
キスの話になってから落ち着きがなくなったテミス。手が当たっただけで顔が真っ赤になるんだし、ほんとに男と関わったことが全然無いんだろうな。
つまり、まだキスなんて一度もしたことがないはず。俺が初めての相手になれたらどれだけ幸せなことか。
「んじゃ、帰ろうか」
「ああ・・・」
「おなかすいたー!」
なんてことを思いながら、美少女にキスされ、美少女と並んで歩く俺をとんでもない表情で睨んでくる男性冒険者の方々の間を通り抜けて、俺達はギルドを後にした。