第42話 水神リヴァイアサン
蒼く長い竜のような身体のリヴァイアサン。きっとあの化物にダメージを与えることなんて私じゃ不可能だと思う。
私だけじゃない。他の四天王でも、世界樹の六芒星とか呼ばれてる人間達でも。ベルちゃんの〝スカーレットノヴァ〟なら、あの巨体を覆う魔力の壁を貫くことができるかもしれない。
『ぐっはァ！？』
「もっと本気で来いよ、リヴァイアさん」
『〝さん〟ではない！〝サン〟だ！！』
そのレベルの相手なのに、タローさんは素手でダメージを与えてる。しかも、きっとまだ彼は本気を出してない。
『海竜破獄弾！！！』
「効かぁーーんッ！！」
放たれた巨大な水の弾丸をタローさんは両腕をクロスして受け止め、そして勢いよく腕を開いて弾き飛ばした。
それを見たリヴァイアサンの纏う魔力が僅かに乱れる。どうやら魔法をことごとく防がれて焦り始めてるみたい。
『あ、有り得ん！何故私の魔法がお前には通じないのだ！！』
激怒するリヴァイアサン。
凄まじい魔力が空気を震わせる。でも、タローさんは逃げようとはせずに首の骨を慣らしながらニヤリと笑い、
「俺の方が強いからじゃないの？」
軽ーくそう言った。
『ほざけえええええ！！！』
「うるせえよ！」
タローさんの拳がリヴァイアサンの胴体にめり込む。普通ならどれ程の力で殴ってもその巨体を動かすことはできないはず。
なのに、タローさんはそのままリヴァイアサンを天井目掛けて吹っ飛ばした。
さらに跳躍し、天井に激突した魔王クラスの化物の頭を掴んで空中で巨体を振り回し、勢いよく床に叩きつける。
「つ、強すぎでしょ・・・」
これが、ベルちゃんが言ってたタローさんの力か。あらゆる魔法を弾き返し、あの〝ブラックアウト〟や魔王一族最大の魔法を消し飛ばしたっていう、タローさんの力。
あまりにも次元が違いすぎる。
『カアアーーーーーッ！！！』
「むっ・・・！」
床にめり込みながらリヴァイアサンが放ったブレスを、空中に居るタローさんは回避できなかった。
それでも、煙の中から姿を見せたタローさんは無傷。服が破れてないってことは、今のも何かしらの方法で防いだんだと思う。
「しぶといねぇ、お前も」
『私は、世界を支配できるだけの力を持った破壊の存在なのだぞ！？魔王サタン亡き今、真なる魔王として君臨することになるのはこの私なのだ！！』
この場を満たしていた膨大な魔力が、怒り狂うリヴァイアサンに集中していく。
『なのに、何故！人間如きに僅かとはいえ傷を負わされているのだ！！』
「僅かってお前・・・結構フラフラじゃんか。あんま無理はするなよ？」
『貴様のその態度が気に食わんのだァァァァァァッ！！！！』
目を開けていられない程の光が周囲を照らす。
『我は破壊の王！我は世界の支配者！我が魔法、止めれるものなら止めてみろ、愚かなる虫けら共ッ！！！』
「じゃあ止めます」
『ごあッ！！？』
迷宮ごと消し飛ばしてしまう程の威力を誇る魔法が放たれようとした瞬間、タローさんがリヴァイアサンを殴って吹っ飛ばした。それによって魔法の発動は中断され、巨体に集中していた魔力が呆気なく消える。
『何をしているんだ貴様はァ！！』
「え、いや、お前が止めてみろって言うから」
『せめて魔法を放ってから止めろ！！』
「別にそれでもよかったけど、万が一ディーネが巻き込まれたら大変だったからな」
タローさんの姿が消えた・・・と思った直後、リヴァイアサンの眼前に一瞬で移動したタローさんが、リヴァイアサンの顎を蹴り上げた。
「俺はディーネの魔法を見てすごいと思った。人魚モードなんてめちゃくちゃ可愛かったし、水の中をスイスイ泳げるのもすごかった。別にディーネは水魔法使いの恥なんかじゃないさ」
『ぬぐぁ・・・！』
「でも、お前の水魔法を見ても俺はすごいとは思わない。お前の方が水魔法使いの恥なんじゃないか？」
『何を言うか、この愚か者が！！』
・・・なんだろ。
さっきからタローさんを見てたら、タローさんの言葉を聞いてたらとてもドキドキする。
『海竜狂豪雨！！！』
「ふむ、魔力解放」
タローさんの身体から放たれた魔力が、発生した嵐の魔法を消し飛ばす。
『海竜────』
「もういいだろ。お前じゃ俺には勝てない」
さらに魔法を放とうとしたリヴァイアサンの顔面を、タローさんが思いっきり殴った。それによって体勢を崩したリヴァイアサンが床に倒れ込む。
・・・かっこいい、かっこよすぎる。
『馬鹿、な。私が、この私が・・・』
「さて、どうする？これ以上闘り合おうっていうのなら、俺だってそれなりに本気を出すぞ」
『今まで本気ではなかったと・・・？ククッ、クハハハハッ！この私を相手に、手加減していたというのか！！』
ゆらりと体を起こしたリヴァイアサンが、再び膨大な魔力をその身から放ちながら、タローさんをギロりと睨む。
『ならば、見せてみよ。このリヴァイアサンをも凌駕する、世界を滅ぼしうる魔の力を・・・！』
「世界は滅ぼさないけどな」
そう言ったタローさんはグッと拳を握りしめ、魔力を腕に集中させた。
『消えよ、人間ッ！！！』
対してリヴァイアサンは魔力を口元に集め、タローさん目掛けてこれまでの数倍もの魔力が込められたブレスを放つ。
それを見てタローさんは地を蹴り、恐るべき速度で迫るブレスに突っ込んだ。
「消えるのはお前だ、リヴァイアサン！！」
直後、凄まじい音と衝撃が空間を揺らした。
魔力を纏わせたタローさんの拳とリヴァイアサンのブレスがぶつかり合い、拮抗もせずに一瞬でブレスは消滅。
そして、タローさんの魔力を。最早一つの魔法と言ってもいい程の威力を誇る一撃を受けたリヴァイアサンは、断末魔を上げる暇もなく周囲の壁ごと消滅した。
「・・・・」
「よーし、俺の勝ちだな」
・・・・今なら、ベルちゃんの気持ちがよく分かる気がする。
「もう大丈夫だぞ、ディーネ」
「っ────」
頭の中がタローさんのことで埋め尽くされた。だって、こんなふうに守ってもらえたら、こんな気持ちになっちゃっても仕方ないよね。
私だって女の子なんだし。
「タローさん、かっこよすぎ！」
「うおっ、そりゃどうも」
こっちに歩いてきたタローさんに抱きつく。
ごめんねベルちゃん。ただタローさんの戦いを見ていただけなんだけど、それだけでタローさんのことが好きになっちゃった。
