第39話 水魔法使いの四天王
魔王軍四天王、《大海》のディーネ。
水魔法使いそうだなって思う彼女の蒼い髪は短く切られており、アイドルっぽい雰囲気はラスティを思い出す。
そして、胸は大きい。
「ベルちゃんにここを調べてこいって言われてね、来たのはいいけど神獣種が見つからないんだよねぇ・・・って、そんなに私の胸見てもなーんにも起こらないよ?」
「いやぁ、別に見てないさ」
「一回揉んでみる?」
「いいのか!?」
「いいわけないだろう!」
テミスに後ろから腕を引っ張られた。
振り返ると、顔を真っ赤にしているテミスと目が合う。
「あらら、もしかして嫉妬かな?私以外の女の胸を揉むのは許さない・・・みたいな感じ?」
「そうなの?」
「ち、違うから!」
いや、そりゃそうでしょうけども。
「おいサトー。魔王軍ってどういうことだよ。お前、魔族と関わりがあるのか?」
「魔王の女の子とは友達だぞ。別に俺らに対して何かしようとしてる訳じゃないし、話してみたら結構良い奴ばっかりだ」
「やばいなお前。レベル1の時点で世界樹の六芒星を遥かに上回る強さで、しかも現魔王とお友達か。あ、それと神狼マーナガルムを娘のように溺愛してるな。怖いよもう」
マルクにそんな事を言われたけど、だってマナ可愛いし。神狼とか関係なく可愛いし。
「できあい?」
「マナが大好きってことだ」
「えへへ、マナもご主人さまのこと、だいすきだよー」
「ほら、もう最高だろ?」
「子煩悩過ぎる・・・」
マルクの野郎め。
お前だって、毎日マナと過ごしてたら絶対俺みたいになってるっつーの。
「って、それは置いといてだな。ディーネはなんでこの神殿に居るんだ?」
「神獣種が出現したから見てこいってベルちゃんに言われてね。なんか忙しいみたいだから、ベルちゃんはこっちに来れないみたい」
「そうなのか。てかさ、一応ベルゼブブってディーネの主的な存在だろ?ちゃん付けで呼べる程仲良しなんだな」
「だって幼い頃からの友達だもん。ベルちゃんのお父さん・・・前魔王様が死んでから雰囲気とか性格は変わっちゃったけど、最近タローさんに出会ってからまた昔みたいに笑うようになったんだよ。だから、ありがとね」
へえ、そうだったのか。
ツンツンしてる感じはあるけど、笑うと可愛いからなぁ。俺のおかげで笑うようになってくれたっていうのはかなり嬉しいことだ。
「というかさ、ベルちゃんが言ってた神獣種はどこにいるのかな。ずっと探してるのに見つからないから、そろそろ帰ろっかなーって思ってたの」
「もしかしたら別の場所に移動したんじゃないか?神獣種も色んな場所に行きたいだろうし」
「えぇ〜、探すの面倒だよぉ」
そう言って地面に寝転がるディーネ。
こうして見るとただの美少女にしか見えない。でも、一応四天王の一人というとんでもない実力者というね。
「タロー、どうする?このまま戻れば依頼達成ということにはならないが、敵が居ないのなら留まる意味がないぞ」
「そうだなぁ────」
どうしたものかと頭を悩ませていた時だった。
「っ、急激な魔力上昇反応・・・!」
「わわっ、ゆれてる・・・」
突然地面が激しく揺れ、更にこれまで感じたことがないレベルの魔力と眩い光が俺達が居る場所を満たした。
そして、やばいと思った時にはもう遅く。
「─────んあ?」
目を開けたら、さっきまで居た場所とは全然違うとこに俺は立っていた。周囲を見渡してもテミス達は居らず。どうやら今の一瞬で俺達はバラバラになってしまったらしい。
「あらまぁ。とんでもない場所に強制転移させられたみたいだね」
声が聞こえたので振り返ると、こんな状況でもまるで楽しんでいるかのようにキョロキョロしているディーネが居た。
「強制転移とは?」
「うーん、そうですねぇ。何者かが誰かを強制的に別の場所に転移させることです。つまり、我々はさっきまで居た神殿内から、よく分からない迷宮のような場所に無理矢理転移させられたのです」
「なるほど。分かりやすい説明ありがとうございました、先生」
「どーいたしまして」
強制転移か。
これは、神殿のどこにも居なかった神獣種が俺達を転移させたって可能性も考えられるな。
なんでそんな事をしたのかは分からんけども、テミス達が心配だ。早く動いてみんなと合流しなければ。
「まさか、会って早々にタローさんとパーティーを組む事になるなんてね。ベルちゃんが毎日のようにタローさんのこと語ってるから、一度じっくりおしゃべりしてみたかったんだよ」
「今はテミス達を捜さなきゃならんから急ぐけど、別におしゃべりなんていつでもしてやるぞ?」
「あはは、それじゃあまた今度遊びに行くよ」
蒼色の壁で造られた迷宮のような場所。
とにかく動き出さなきゃ何も始まらないので、俺とディーネは奥へと進むことにした。
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「邪魔だよ〜、ウォーターバイト」
「ぎぎっ!?」
ディーネが放った水魔法が次々に現れる魔物達を葬っていく。やっぱり四天王の実力は本物みたいだ。
「もう、タローさんもそろそろ戦ってよ。私、一度でいいからタローさんが戦うところ見てみたいなぁ」
「さっきから一応戦ってるぞ」
「へ・・・」
飛びかかってきた魚みたいな魔物を軽く殴る。それだけで魚型の魔物は吹っ飛び、向こうの壁に激突してピクリとも動かなくなった。
「す、すご・・・」
「こんなに魔物倒してるのに、レベルが全然上がらんのよなぁ」
「今のレベルは?」
「2」
「ええっ!?」
やっぱり驚かれた。
「はぁ〜、タローさんは凄いね。もしベルちゃんが人間に宣戦布告してたら、私達はタローさんと闘うことになってたからなぁ。こんなに強い人に勝てる気しないよ」
「ディーネは宣戦布告に乗り気だったのか?」
「ううん、私は何度もベルちゃんを説得してたよ。別に戦闘は嫌いじゃないけど、戦争になるともう二度と仲直りなんてできないと思うから」
水魔法を放ちながらそう言うディーネ。なるほど、どうやらこの子はものすごく優しい性格のようだ。
これまで闘ってきた魔族の中で唯一好戦的じゃ無い。やっぱり魔族の中にも良い奴は沢山居るんだな。
「あらま、どっちに進む?」
「やっぱりここは迷宮か」
それから暫く進んでいると、左と右に道が分かれている場所にたどり着いた。そうだなぁ、俺は────
「「右かな」」
「むっ、ディーネもそう思ったか」
「あはは、私達って意外と気が合うのかも」
ということで、俺とディーネは右に進んだ。