第37話 舞い込みし緊急依頼
お待たせしました‥‥!
「・・・」
「・・・」
「・・・あの、どうかされました?」
「「いや、別に何も」」
同時に同じことを言ったけど、俺の焦ってる感じとは違ってテミスはちょっと怒ってる感じだ。
もしかして、俺がさっき掃除の途中で抜け出したから怒ってるのかな?
「えーと。私、シスターのマリアベルと申します。よろしくお願いしますね、テミスさん」
「・・・よろしくお願いします」
掃除の依頼を終えてギルドへと向かう途中、テミスとマリアちゃんが握手した。それでもテミスはいつもと違って少し機嫌が悪いように見える。
「テミス。俺、なんかした?」
若干頬を膨らませながらプイっと顔を逸らされる。でも、その態度は結構可愛かった。
「ご主人さま。あのね、テミスおねーちゃん、きっとしっとしてるんだよー」
「しっと・・・嫉妬?」
「うん!だって、ご主人さまがしすたーさんとおはなししてる時、テミスおねーちゃんそわそわしてるもん」
「そうなの?」
マナにそう言われ、テミスに顔を向ける。
「べ、別に」
「ごめんよ。俺、気づかないうちにテミスに嫌な思いさせてしまってたかも・・・」
「あ、いや、そういうわけではないんだが」
じゃあどういう意味なんだーーーー!
そう言いたい気持ちを抑えながら、俺はとりあえずテミスに頭を下げる。
「っ〜〜〜、もう!だから、タローのせいじゃないんだ!別に誰かのせいでもない!これは私自身の問題だ!」
「お、おう」
顔が赤いテミスにそう言われ、よく分からんけどそういうことなんだと納得しておく。なんか最近テミスが分からない時があるんだよなぁ。まあ、可愛いから別にいいんだけど。
「お二人は仲が良いのですね」
「俺もそう思う」
ちょっと調子に乗ってみる。すると、テミスは俯きながらサラサラで綺麗な銀髪を指で弄り始めた。
「そ、それは、友達・・・だからな」
「さあテミス、友達から少しだけランクアップしてみようじゃないか」
「・・・親友」
ひゃっほーい!!
ほんとはもっと上の関係だと言って欲しかったけど、親友って言われたのは超嬉しい!
だってあれだよ?男性恐怖症になってしまったテミスが、男である俺のことを親友だって言ってくれたんだよ?
「ご主人さま、よかったねー」
「ああ、嬉しすぎて泣いてしまいそうだ」
「あはは、らぶらぶだね!」
「俺はマナともラブラブだぞ」
そう言って抱きついてきたマナの頭を撫で、そのまま抱きかかえる。するとマナはとても嬉しそうに子供らしく笑った。
もうね、ほんと可愛いよね。
「それでは、私は教会に戻りますね」
「ん、ああ、いつの間にか教会の前まで歩いてきていたのか」
「ふふ、いつでも教会にお祈りしに来てくださいね」
笑顔で手を振りながら、マリアちゃんが教会へと戻っていく。うんうん、優しくていい子だなぁ彼女も。
「そんじゃ、俺達もギルドに行こう」
マリアちゃんが教会の中に入ったのを確認してから、俺達も再びギルドを目指して歩き出す。
ここからそれ程距離は離れてないから、多分あと5分くらい歩いたら着くだろう。
「どうだった、テミス。まだ男と接するのとか虫を見るのは無理かもしれないけど、これから外に出れそう?」
「ああ、迷惑をかけないよう頑張るつもりだ」
「俺的には迷惑かけてくれていいんだけど」
「それに、タローとクエストに行くのは楽しいからな。・・・その、親友だし」
恋人って言われたいけど畜生、可愛すぎるぜ。
駄目だぁ、前みたいな凛としてるテミスも可愛かったけど、今みたいな感じのテミスも良いよね。なんというか、抱きたい。
「ご主人さま、へんなことかんがえてたでしょー」
「否定はしない」
「ひ、否定しろ!」
やがて、顔を真っ赤にしたテミスに肩をバシバシ叩かれながらも、俺達はギルドにたどり着いた。けど、なんかいつもより賑わってるようで、扉を開けた瞬間に騒がしい声が中から聞こえてくる。
「何かあったんですか?」
「む、サトーか。そういや前に緊急の依頼が出た時はまだ居なかったな、お前」
「緊急?」
よく分からないので俺の背後に隠れてるテミスに顔を向けると、彼女は人だかりができている受付前を指さした。
「緊急依頼というのは、数ヶ月に一回単位でこの町に舞い込んでくる高難易度クエストだ。できれば今日中、無理ならば三日以内には達成報告を行わなければならないんだが・・・」
「高額の報酬を貰えるけど、危険度が高すぎるんだよ。これまでオーデムギルドで緊急依頼を達成できたのは、そこにいるテミスさんだけさ」
ふむ、なるほど。
つまり〝世界樹の六芒星〟クラスじゃなきゃ簡単には達成できない緊急性の高い依頼ってことか。
「それでも、みんな報酬が欲しいからああやって緊急依頼に行こうとしてるわけだ」
「ふーん、そうなのか」
面白そうだな。そう思ってるのが分かったのか、テミスは少しだけ真剣な表情で俺を見つめてきた。
「・・・行ってみるか?」
「テミスがいいのなら」
「私だけでは達成できる可能性は限りなく低い。しかし、タローが居ればそれ程苦戦することもないだろう。それに、タローが行きたいと言ったのなら、私は何処へだってついて行く」
そんな事を言われてついドキドキしてしまったけど、行きたいとテミスに伝える。すると、テミスは俺の手を掴んで人が殺到している受付前に向かって歩き出した。
「ちょ、テミス・・・!?」
「怖くない・・・怖くない・・・」
マナが落ちないように肩に乗せ、テミスに気付いて道を開けてくれた冒険者達の間を睨まれながらも通る。
「すみません、私達が今回の緊急依頼に向かわせてもらいます」
汗を流しながら、テミスは受付嬢さんにそう言った。それを聞いた冒険者達はかなり驚いてはいるけど、誰も割り込んでくるなとは言わない。
「分かりました。この依頼の同行人数は四名となっています。一人だと依頼を受けることはできません。誰を同行させますか?」
「俺とマナは決まりだろ」
「そうだな。あとは・・・」
なんとなく後ろを見ると、さっき入口前で緊急依頼について教えてくれた冒険者と目が合った。
あいつ、自分のこと指さしてやがる。
「あそこにいる人でいーんじゃないか?」
「ん、そうだな・・・」
「同行者四名が決定したようですね。それでは、こちらが今回の依頼内容となりますのでご確認を」
ごめんよテミス。
知らない男の人と喋ったりするのはまだ無理だろうけど・・・とりあえずまあ、頑張りますか!