第36話 掃除中のハプニング
「この糞野郎!!」
「テミスさんから手を離せえええ!!」
どうも、佐藤太郎です。
テミスと手を繋ぎながらギルドの中に入ったら、それを見た男性の方々が予想通り鬼の形相で俺に迫ってきました。
「っ・・・」
テミスが驚いて俺にぴったりと体を寄せてくる。それによってさらに俺に激怒した男性陣は、テミスが怖がってるということに気付かず、俺達を包囲してきた。
「ちょっと待った。別に変なことを考えて手を繋いでたわけじゃないって」
「んなこと関係あるか!テミスさんと手を繋いでいた・・・それが問題なんだ!!」
「ハーゲンティの一件についてこの前説明したじゃないか」
「なんだと・・・!?」
ん?急に男性陣が驚愕し始めたぞ。
「男性が怖くなったというテミスさんと、何故お前は手を繋げているんだ!?」
「あー、それは俺にも分からない」
テミスに顔を向けると、何故か顔を逸らされた。
「て、テミスさんの顔が赤くなっている・・・」
「まさか、テミスさんはサトーのことを!?」
何を言ってるんだこの人らは。そう思ってたら、男性達が物凄く落ち込みながら俺達から離れていく。
「へんな人たちだねー」
「だなぁ」
よく分からんけど、しっぽをぱたぱた振っているマナが可愛かったので、とりあえず俺はマナの頭を撫でた。
「す、すまないタロー。私のせいで・・・」
「いや、謝る必要はないよ。男がテミスと手を繋いでるのを見たら、誰だってそれをやめさせようとするだろうし」
「え、何故だ?」
「それが男ってもんさ」
「・・・?」
俺が何を言ってるのか分からなかったらしく、きょとんとしているテミスがとても可愛いです、はい。
「まっ、男にはゆっくりでいいから慣れていこうな」
「う・・・ん」
頭を撫でるとテミスの顔がまた赤くなった。
うーん。しょっちゅうマナを撫でてるからか、そうするのが癖みたいになってきてるな。
「とりあえず依頼でも受けようか。無理はしなくていいから、まずは簡単なものから達成していこう」
それを聞き、テミスは右手の甲で口元を隠しながら頷いた。
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「っ〜〜〜〜〜!!」
「だ、大丈夫か?」
あれから『腰を痛めたお爺さんの代わりに家の掃除をする』という依頼を引き受けた俺達だけど、掃除中に黒光りするGが物陰から飛び出してきたので、半泣きになりながらテミスが俺に抱きついてきた。
胸が腕に当たってるからいろいろと大変なことになってるんだけど、とりあえずGを始末しなくては。
「あはは、ゴキブリさんだー」
「マナちゃん!触っちゃいけません!」
「だめなのー?」
毎回言ってるのに、いつものようにマナが動き回るGを素手で掴もうとしたので、俺は急いでマナを抱っこした。
ほんとこの子は、どんなものでも怖がらずに触ろうとするよなぁ。まあ、まだ何も知らない子供だからだろうけど。
「テミス、大丈夫だから一旦離れてくれ」
「う、ううぅ〜〜〜!」
置いてあったトイレットペーパーを手に取り、テミスが俺から離れた瞬間に足元を通過したGをペーパー越しに掴み、ダッシュでトイレに向かって流す。
「ながれていっちゃった」
「流れてったなぁ」
「た、タロー。早く戻ってきて・・・」
「ん、はいよ〜」
Gとの戦いを終えた俺は、座り込んでいるテミスのところに向かい、震える彼女の手をとって立たせてあげた。
「もう、いないのか・・・?」
「多分大丈夫だと思うけど。また出てきたらさっきみたいに俺が何とかするよ」
「あ、ありがとう。この前ハーゲンティに昔の事を話されてから、以前よりも更に虫が苦手になってしまって・・・」
「ハーゲンティ?もしかして、テミスの虫嫌いとハーゲンティって何か関係があったりするのか?」
「・・・私がハーゲンティに洗脳魔法を少しずつかけられていた時、私の精神を壊す為に地下室に閉じ込められたことがあってな。そこには、今の私が大の苦手な虫達が部屋を埋め尽くす程蠢いていたんだ」
それは信じられない話だった。
あの男は、どれだけテミスの心に深い傷を負わせたというんだ。
「それで、魔力を纏うことで虫達は私に近付けなくなっていたから触ったりしたわけではないんだが、それからムカデ等を見るだけで震えが止まらなくなった」
「・・・ごめん。嫌なことを思い出させてしまって」
「いや、別に大丈夫だぞ」
気にしないでと言いながらテミスが微笑む。
「虫も幽霊もまだ苦手だけど、私の傍にはいつもタローが居てくれているからな。本当にありがとう」
「ちょ・・・」
心臓が破裂するかと思った。
「それは反則だわ・・・」
「反則?」
「あー、うん。ほんとにもう・・・」
棚の上に置いていた鏡に映った俺の顔は、案の定赤くなっていた。それをテミスに見られないよう、急いで彼女に背を向ける。
「どうした?」
「なんでもないさー」
「ご主人さま、かおまっかだね」
「ちょっとマナちゃん、言っちゃダメでしょう」
普通にバラされたので、俺はマナの頭を撫でながらもう一度テミスに顔を向けた。
「よし、掃除するか」
「いや、でも・・・顔赤いぞ?」
「テミスが可愛かったからだよ」
「えっ!?」
俺の言葉を聞き、照れ屋なテミスの顔は更に赤くなる。そしてそのまま硬直してしまったので、俺はマナを抱っこしたまま風呂掃除に向かった。
その時────
「きゃああっ!!」
外から女性の悲鳴が聞こえた。
反射的に体が動く。何があったのかは分からないけど、俺は外に飛び出した。
「ご主人さま、あそこだよ」
「ん、ほんとだ」
抱っこしてたマナが指さした先では、一人のシスターさんが数匹の魔物に包囲されている。
あれ、まさかあの子は・・・。
「マリアちゃんか!」
以前教会で回復魔法を教えてくれた、俺にとっての先生であるシスターのマリアベルという少女だ。
周りの人達も魔物を恐れて彼女を助けることができていない。早く何とかしないとマリアちゃんが危ないので、俺は急いで彼女のもとに向かった。
「なんで町の中に出てきたんだこいつら」
「あそびにきたんじゃないのー?」
「うーん、どうだろうなぁ」
青い炎を吐き出すブルーサラマンダーと呼ばれるコモドドラゴンのような魔物が俺に気付き、やはり口から青い炎を吐いてきた。
「ご主人さま、服もえてるよ?」
「パンツが無事なら大丈夫だよ」
「そっかぁ」
マナを守る為に炎に背を向け、バック走でブルーサラマンダーに迫って振り向きざまに顔面を蹴る。軽く蹴ったから破裂とかはしなかったけど、今ので一体仕留めることに成功した。
「マリアちゃんに何してんだこら」
「ギギぃ────」
残りの二体も蹴る。
これで全ブルーサラマンダーを仕留めれたな。
「さ、サトーさん・・・」
「よっ、マリアちゃん。久しぶりだな」
「サトーさん!」
かなり怖かったのだろう。
急にマリアちゃんが抱きついてきたので、俺は驚いて抱っこしているマナを落としそうになった。
さらに、
「・・・タロー?」
「え、あ、テミスさん・・・?」
掃除する為に訪れてた家の中から顔を出したテミスが、マリアちゃんに抱きつかれてる俺を、少しだけ怒ったような表情で見てくる。
「あはは、しゅらばだー!」
「どゆこと!?」
一人の美少女に抱きつかれ、一人の美少女に睨まれている。誰か、この状況は何なのか説明してください・・・!