第29話 彼らは彼女の為に動き出す
「ご主人さま、おかえりっ!」
「おっと。ただいま、マナ」
かなり焦りながらオーデムに戻ってきたけど、玄関の扉を開けたら向こうから笑顔でマナが駆け寄ってきたので、それを見て俺は安心する。
とりあえずしっぽを振ってるマナを抱っこしてリビングに向かうと、ハーゲンティらしき人物はどこにもおらず、テミスは椅子に腰掛けていた。
「ただいまテミス。良かった、何もなかったっぽいな」
「・・・」
「テミス?」
俺の声に全く反応しないテミス。
まるで、俺が帰ってきたことに気付いていないかのような感じでじっと手元を見つめている。
もしかして、まださっきのことで怒ってるのかな・・・。
「あ、ご主人さま。さっきね、しらないひとがおうちにきたんだよ」
「───え」
もう一度テミスに声を掛けるか迷ってたら、抱っこしてるマナがそんなことを言った。
「テミスおねーちゃんのしりあいなんだって。よくわかんないけど、なんかちょっとやなかんじだったかも」
「それって、まさか・・・」
マナを降ろし、テミスの肩を掴む。
「テミス、ここに来た男って誰だ?」
「・・・」
「テミス!」
「タロー・・・」
ようやく反応したテミスだけど、顔色がかなり悪い。それでもテミスは無理矢理笑みを浮かべた。
「ただの知り合いだよ。久々に会いに来たらしい」
「そいつ、ハーゲンティって男じゃないのか?」
「っ・・・」
おっと。
今、明らかにハーゲンティって名前に反応したな。
「何された。そいつはどこに行ったんだ」
「何も、されてない・・・」
「嘘つくなよ。なんでそんな───」
突然立ち上がったテミスに胸ぐらを掴まれた。
「何もされてないと言ってるだろう!?なのに何故嘘をついてるなどと言われなければならないんだ!」
「俺はテミスのこと心配してるだけだ!」
「別に心配する必要なんてない!されたくもない・・・!」
「っ、なんだよ。意味わかんねぇ・・・」
テミスから見て今の俺はどんな表情なんだろう。
言い合っている俺達を見てマナが泣きそうになってるので、俺はテミスの腕を払い除けてマナを抱きかかえた。
「もうすぐアレクシス達が来るってさ。俺に心配されるのがそんなに嫌なんだったら、もう俺はその件に関与しない。あとはアレクシス達に任せるよ」
「っ・・・」
背を向けたのでテミスの表情は見えないけど、これ以上言い争ったらマナが泣いてしまいそうなので、俺は黙って向こうで待ってるベルゼブブのとこに向かった。
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「めちゃくちゃ怒ってたぁぁ」
「こわかったよぅ」
最初はちょっとイライラしたけど、部屋に入った途端にやっちまったという思いが頭の中を駆け巡り、俺はマナを抱えたままベッドに寝転がった。
「やっぱ心配し過ぎたのが駄目だったのかな。子供扱いされたって思ったのかも・・・」
「そんなことないでしょ。私ならタローが心配してくれたら、とっても嬉しい気持ちになるわよ」
「なんか、ベルゼブブが聖女に見えてきた」
「うふふ」
ベルゼブブが俺の隣に寝転び、急に俺の腕に胸を押し当ててきた。
「聖女はこんなことしないんじゃない?」
「お前なぁ・・・」
「あら、意外と嫌じゃなさそうね」
柔らかい感触が腕に伝わってくる。
そりゃあ嫌ではないし、寧ろ男としては嬉しい行為である・・・けども、マナが居るのにそういうことをするんじゃありません。
「まあ、留守の間に何かあったのは確実ね。例のハーゲンティって男が銀髪女に接触した可能性は高そうだけど」
「そうなんだよ。テミスってほんとに優しいし、あんなこと本気で言わないと思うんだ。でも、これ以上何か言ったら二度と喋ってくれなくなるかもしれないし・・・」
「じゃあ独自に調べればいいじゃないの。一番最悪なことが起こる前にね。ほんとは銀髪女のことなんてどうでもいいけど、落ち込んでるタローを見るのは嫌だから協力してあげる」
「ベルゼブブ・・・ありがとう」
隣を見れば、思ったより至近距離にベルゼブブの顔があった。なんか、うん。すごいドキドキするよね。
「よし、そうと決まれば早速動き出すとしますか。この件に関与しないって言っちゃったから、極力バレないように───」
「バレてるよ〜♪」
「どわあッ!?」
上体を起こした瞬間、窓の方から声が聞こえたのでそっちに顔を向けると、笑顔で手を振るラスティが窓枠に腰掛けていた。
「もしかしてお取り込み中だった?あはは、邪魔しちゃってごめんね」
「待て、誤解だ。俺は同意無しに手を出したりするような男ではない」
「私は手を出されたいのだけれど。タローが相手ならいつだって準備できてるわよ」
「やめろ!」
とりあえずベッドから降りる。
そして周囲を見渡したけど、さすがにアレクシスは音も無く侵入してきてはいなかった。
「結構早くこっちに来たな。アレクシスは?」
「ソンノさんの転移魔法でサクっとね。アレくんとソンノさんは今下でテミっちゃんと喋ってると思うよ」
「ソンノって、あの寝不足女よね・・・?」
「落ち着けベルゼブブ。あれはベルゼブブも悪かったんだから」
ベルゼブブの体から膨大な魔力が溢れ出したので、俺は家が消し飛ぶ前に彼女を落ち着かせた。
危ない危ない。
一応この子魔王だし、俺以外には全然懐いてないから普通に魔法をぶっ放つ危険性がある。
「わお。凄い魔力の持ち主だねぇ。今の魔力、普通にあたしらよりやばそうだったけど」
「当たり前でしょう?私は魔王なんだから」
「え、魔王?」
ああもう、何普通に正体バラしちゃってんだよ。
「へえ、やっぱりタローくんって凄いなぁ。誰とでも友達になれるんだね!」
「全然驚いてない・・・だと!?」
臆することなくベルゼブブの手を無理矢理握って『よろしくね!』と言いながら手をブンブン振ってるラスティの方こそ凄いと思うんだけど。
「それで、タローくん。今からテミっちゃんにバレないように、一体何をするつもりだったのかなぁ〜?」
「いや、それはまあ・・・」
もういいや。ラスティには事情を説明して協力してもらおっと。
ラスティ
「と言っても、ベッドの上で仲良く寝転がってたんだから、〝あれ〟やろうとしてたんでしょ?」
太郎
「マナの隣でするわけないでしょうが」
ラスティ
「え、トランプだよ?」