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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
後日譚 英雄達のその後
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最終話 君達と共に歩む道

世界最大の大陸に存在するティアーズ王国。優秀な魔導士が多く生活するこの王国には、オーデム魔法学園という若き魔導士達の教育を行う場所が存在している。


将来騎士団に所属する為、何年も前に世界を救った英雄達に近付く為、魔法の研究機関に所属する為……様々な夢を持つ若者達が、今日もこの学園で勉学に励んでいた。


「つまり、魔法陣を複数展開する為には最低でも今説明した事を覚えておく必要があるというわけだ。ここまでで何か質問はあるか?」


かつて、永遠黄昏という大異変を解決した少年が授業を受けていた教室。前に立つ男性がそう言ったものの、誰も口を開かない。あまりにも分かりやすい説明だった為、質問をする必要が無いのである。


「よし、それじゃあ次は────」


皆が授業を理解してくれているのを確認し、男性がぱらりと教科書をめくったのとほぼ同時。授業終了の鐘が鳴り、生徒達が終わったーと一斉に喜び始めた。


「ああ、残念。まだまだ魔法の基礎を叩き込もうと思ったんだが、今日の授業はここまでだな。それじゃあ委員長、頼む」

「は、はい。起立……礼」

「それじゃあ解散。夜更かしは厳禁だぞー」


男性が軽く手を振り、教室から出て行く。それを見送った生徒達は、顔を見合わせて男性の話で盛り上がり始める。


「やばいよね、先生!授業中ずっと見てたから、内容が頭に入ってこなかったよ〜!」

「あたしら幸せ者だよ、ほんと。あんな格好良い人が担任とか、一生自慢できるわ」

「先生、面白いし優しいもんねぇ。授業も分かりやすいし、運動神経も抜群だし……男子達とは大違い」

「う、うるせーよ!あんなすげー人と一緒にすんな!」

「俺達だって本気出せばあれぐらい……!」


はしゃぐ女子と男子の言い合い。そんな光景をたまたま教室の前を通りかかって目撃した別クラスの生徒達は、前方を歩く男性を見て頬を赤く染めた。


「確かにイケメン過ぎだよねー、ユウ先生(・・・・)








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆







黄昏の英雄、ユウ・シルヴァ。


魔神を討伐した最強の英雄と、剣聖と呼ばれる妻の息子。父親譲りの勇気と母親譲りの優しさを持つ努力の天才。


オーデム魔法学園襲撃事件、神獣事件、永遠黄昏などを解決してきた若き英雄で、今は魔法学園の教師として生徒や他の教師達から尊敬されている。


本日分の業務を終えたユウは、すれ違う生徒達に挨拶しながら学園を出た。そして懐から転移結晶を取り出し、魔力を込めながら強く握る。


(ハスターさんとネビアさんが調査で見つけた古代遺産らしいが、何度も転移魔法が使えるのはありがたいな。壊れた時は通勤手段が無くなるけど……)


次の瞬間、ユウは別の町に立っていた。ひんやりとした風が吹く海沿いの港町。学生の頃に、初めてのデートで想い人と共に訪れた思い出の場所。


集まる人々の視線を受け流しながら、呑気に欠伸をしてユウは歩く。やがて辿り着いた一軒家の鍵を開け、中に入った。


「ふふ、おかえりなさいユウ君」

「ただいま、マナ。別に毎回玄関で待っててくれなくてもいいのに」


出迎えてくれたのは、前よりも伸ばされた雪のように白い髪、そして同じく白い獣耳と尻尾が特徴的なエプロン姿の女性。背はそれ程高いわけではないが、 世の女性達の誰もが羨む容姿である義理の姉……そして、今はユウの妻となったマナである。


結婚した2人は長年過ごした実家を出て、この思い出のある港町に移り住んだ。と言っても結局毎日オーデムに行っているので、実家には定期的に顔を出している。


そして、マナは今も教師を続けているが、ユウよりも遥かに作業スピードが速いので、先に家へと戻り家事洗濯を終わらせ夫の帰りを待っているのだ。


今日もいい匂いがリビングの方から漂ってくる。それを嗅いで早速晩御飯が何かを確認しようとしたユウの耳に、誰かが階段を降りてくる音が届く。自然と彼の頬は緩み、やがて玄関に姿を見せた幼い少女を見て満面の笑みを浮かべた。


パパ(・・)、おかえり……っ!」

「ああ、ただいまミツキ」


駆け寄り、抱き着いてきた少女をユウは抱き上げる。自身と同じ黒髪は長く伸ばされており、頭からは獣耳が生えている。腰の辺りには髪と同じ黒い尻尾があり、ユウは身を寄せてくる少女の頭を優しく撫でた。


ミツキ・シルヴァ。


様々な出来事を乗り越え、結婚したユウとマナの娘。人見知りで大人しく、いつもユウの後ろに隠れてしまう女の子。しかし町では大人気で、仲良くなろうと近付く人は多い。


ただ、父はあの大英雄タローの血を引くユウである。可愛い娘をユウは溺愛しており、近付く男は誰であろうと許さない。そのせいか、ミツキは関わりの少ない男性が特に苦手なようだ。


「あのね、ママがあしたおでかけするっていってたの。どこにいくのー?」


そんなミツキにデレデレなユウは、彼女をぎゅっと抱きしめながら返事した。


「ああ、パパ達のお友達に会うんだよ」

「おともだち?じいじじゃなくて?」

「じいじとばあばにも会うよ。だから今日は早めに寝ような」


父があれだけ過保護になっていたのも納得である。将来恋人ができ、その男を家に連れて来た時はどうすればいいのかと、今の段階で既にユウは胃が痛い。


「あ、そうだ!あのねあのね、きょうのごはんね、ミツキもママのおてつだいしたんだよ」

「おお〜、そうなのか。ミツキが作ったご飯は美味しいからなぁ」


子は親に似ると言うが、タローに似たユウを見て本当にその通りだなとマナは苦笑する。勿論自分の事も充分過ぎる程愛してくれてはいるが、時折もっとかまって欲しいなと思ったり。


そんなマナの考えが分かったのか、偶然か。何かを思い出したように振り返ったユウは、マナに歩み寄ってキスをした。突然の出来事にマナは驚いたものの、頬を赤く染めて微笑む。


「ただいまのキス、忘れてたよ」

「もう、それはずるいよ?」


大人になっても2人は変わらない。相変わらずラブラブな両親を見て、まだ幼いミツキは頭の上にはてなマークを浮かべるのだった。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆






「あぁっ、兄さん!お元気でしたか!?姉さんにミツキも、お久しぶりですね。うふふ」

「おっと……はは、クレハは元気そうだな」


銀の長髪は陽の光を浴びて美しく輝き、その声、動作、美貌は見る者全てを魅力する。劇団最年少で主演を勝ち取り、歴代最高の演技力を誇る天才……クレハ・シルヴァ。


もう彼女も一人前の女性に成長したのだが、誰よりも尊敬し、誰よりも愛している兄の前ではこの調子である。


「んんんミツキちゃあ〜ん!何か欲しいものとかないかな?おじいちゃんが何でも買ってあげるよ〜?」

「おっきなおしろにすみたいな〜」

「よし分かった。ちょっと国王と話してくる」


そして、ユウ達の父であるタローも相変わらずであった。マナとクレハを溺愛しているのは変わらないが、今はそれに加えて孫のミツキに夢中なのだ。


祖父となった彼だが、隣で苦笑しているテミス共々見た目がほぼ変わっていない。どうやら膨大な魔力が体に影響を与えているらしく、ラスティやアレクシス達もまだまだ見た目は若いままだ。


「ミツキちゃんは、昔のマナそっくりで可愛いでちゅね〜。あーやばい、一生抱きしめてたい。いつかおじいちゃんと結婚しよっか〜」

「ううん。ミツキね、パパとけっこんする」

「悪いな親父、ミツキは渡さん」

「お、おのれ馬鹿息子め!マナとクレハだけじゃなくミツキまで奪おうというのか!」

「いや、俺の娘だし……」


魔力を纏い始めたタローをマナが落ち着かせる。そんな彼に軽くチョップをして、テミスがユウの前に立った。


「ふふ、会う度にあの調子で申し訳ないな」

「もう慣れてるから大丈夫だよ」

「それにしても、随分生徒達から慕われているそうじゃないか。ソンノさんから話を聞けば、休み時間の度に女子生徒達の盛り上がる声が響いているらしいが」

「そうなんだよお母さん。ユウ君ったら、去年教師になってから毎日女の子に囲まれててね……」

「べ、別に俺はあの子達を変な目で見てるわけじゃないし、何かするつもりも無いからな?」


困っているユウを見て、テミスとマナが笑う。テミスも変わらず美しく、どう見ても20代にしか見えない美貌で世の男性達を魅力し続けている。


そんな彼女もタローが相手だとやはり甘え、そして甘い。勿論剣の腕は微塵も鈍っておらず、それどころか未だにユウを圧倒する程の実力を持ち続けていた。


「さて、もうこんな時間だな。親父、母さん、そろそろ行くよ」

「はあ!?待って、まだ全然話せてないぞ!?」

「あはは、また来るからね」

「マナちゃん待って!お父さん最近ほんとに寂しいのね!?クレハも王都で身の程知らずの愚か者共に手を出されてないか心配だし、前にマナと約束した釣りも行けてないし!おいユウ、ふざけんな!マナは俺の娘だぞ!この子がこんなに小さい時から面倒見てて───あああ嫌だあああ!助けてテミスうううぅ!」

「はいはい、拗ねないの」


テミスに引き摺られていったタローを見送り、やれやれと息を吐きながらユウ達は実家を出た。そして久々にオーデムを訪れたクレハと懐かしい道を通りながら、数えきれない程の思い出が生まれた学園を目指す。


「あっ、来た来た。ユウーーーーっ!!」


やがて、彼らが学園の門を潜った直後、向こうから聞き覚えのある声が彼らの耳に届いた。視線を声がした方に向ければ、懐かしい面々が揃って手を振っている。


こうして全員が揃うのは何年ぶりだろうか。懐かしさで胸がいっぱいになりながら、ユウは駆け寄ってきた女性と互いの拳を軽くぶつけ合った。


「あははっ、久しぶりやなぁ。マナ先生もお久しぶりです!クレハちゃんは元気にしてたかな?それから……」

「気持ちは分かるけど、ちょっと落ち着きなさいリースさん。久しぶりね、ユウ。ふふ、この子がミツキちゃんかしら」

「あ、は、はじめまして。ミツキ・シルヴァです……」

「きゃーーっ!こちらこそはじめましてやでミツキちゃん!」

「こ、これは反則級の可愛さね……」


早速ミツキの可愛さにハートを撃ち抜かれた2人。以前よりもずっと大人びた、かつてのクラスメイトであるリースとエリナである。


「前にユウと会った時は、ユウがテミスさんの手伝いで東方地方に来た時やったっけ。ミツキちゃんも連れてきてくれたらよかったのに〜」

「私は一年以上会えていなかったわね。でも、クレハさんにはこの前会ったのよ。偶然予定が空いたから王都に劇団を観に行ったの」

「あの時渡したサイン、売ってはいけませんよ?これからまだまだ値段が上がる予定なので」

「あ、上がっても売らないわよ」


リースは卒業と同時に東方地方へと戻り、学園で学んだ事を活かして東方の魔法技術発展に大きく貢献。エリナは父と共にエレキオール家を支え、定期的に他の貴族から結婚の話を持ち込まれてうんざりしているらしい。


「おっ、エリナちゃんまだフリーなの?じゃあ俺と付き合っちゃう?なーんて」

「ソル先輩はもうお相手がいるのでしょう?それって立派な浮気になると思うのですけれど」

「じ、冗談冗談、なはは……」


ソルは王都でなんと騎士団に所属。更に学園で生徒会長を務めていた先輩と結婚しており、国の為立派に働いている。


しかし相変わらず美人を見かけるとすぐ声をかけているらしく、奥さんにしょっちゅうぶん殴られているそうだ。ただ、それでもユウ達に負けない程の仲良し夫婦なのだが。


「やれやれ、何年経っても先輩方は変わりませんね」

「ふふ、賑やかでいいじゃない」

「そう言う2人がある意味一番変わりましたよね。今ではラブラブ眼鏡カップルなんですもの」

「ぼ、僕はコンタクトに変えましたよ」


そして、ユリウスとアーリアは1年ほど前にめでたく結婚。元々それなりに仲の良い2人だったが、これにはユウ達も驚かされた。どっちも恥ずかしがり屋なので、付き合っている事すら誰にも言っていなかったのである。


「いやぁ、ウチらも結構歳とったけど、やっぱりあの時の感じで話せるもんやなぁ」

「ふふ、そうね。皆容姿もあまり変わったというわけではないし────」


エリナが言葉に詰まる。視線の先では、最早あの頃とは比べ物にならない程美しく成長した2人の姉妹が目に映った。


「じ、次元が違うわ……」

「元々半端なかったけど、マナさんほんと美人になりましたよねぇ。うーん、こんな人を独り占めとかズルすぎるだろユウさんよ」

「ああ、羨ましいだろう?」

「くうぅ〜、てんめえぇ!」


こうして再会できた事を喜ぶように盛り上がりながら、永遠黄昏を止めた英雄達は学園内を歩く。教室を覗くだけで、廊下から中庭を見下ろすだけで、屋上から夕日を眺めるだけで。


まるであの頃に戻ったかのように、彼らの中で学園生活での思い出が次々と蘇ってきた。


「……懐かしいね、ユウ君」

「ああ、俺達は今でも毎日来ているのにな」


本当は、この輪の中にあと1人。いつも笑みを浮かべていて、冷静で、しかしどこか子供っぽい少女が居た筈なのに。こうして仲間達が集まれば、嫌でも彼女を思い出してしまう。


「パパ、どうしたの……?」

「ん、いや、何でもないよ。それよりミツキ、パパの友達はいい人ばかりだろう?」

「うん、こわくなくてやさしいね。みんなとおはなししてるときのパパとママ、とってもたのしそうだったもん」

「はは、それは良かった……おっと。見てごらん、ミツキ」


足を止め、校舎の裏にある大きな木を見上げる。あの日、永遠黄昏が終わった日に突然姿を現した不思議な木。


どこか懐かしい魔力を帯びたこれは〝黄昏の木〟と名付けられ、今ではこの木の下で告白すれば必ず付き合えるという噂が学園中に広まっており、ちょっとした有名な告白スポットとなっている。


永遠黄昏終結時に弾けた膨大な魔力が大地に影響を与え、そして木々を急激に成長させたのだろう。ベルゼブブやソンノ達は、この木を見ながらそう言っていた。


「うふふ、アーリアはここでユリウスに告白したのですよね?」

「はえっ!?なな、なんで知ってるの!?」

「あははっ、黄昏の木ってほんまに凄いんやなぁ」

「羨ましいわ、好きな人とお付き合いできるなんて」

「そんじゃあ、このソル・ハーネットと……」

「やれやれ、騒がしい人達だ」


楽しげに笑いながら、仲間達は門がある方向に歩いていく。この後は皆で店に向かい、夜遅くまで語り合う予定だ。


マナもミツキと手を繋いで歩き出し、暫く木を見つめていたユウも彼女達に続いて背を向けた───その直後。


『────ユウ君』

「っ……!」


勢いよく振り返ったが、そこには誰もいない。しかし、今のは幻聴などではなかった。確かに、彼女・・が自分の名を呼んだのだ。


「……はは、そうか。そうだったのか。こうしてずっと、俺達を見守っていてくれたんだな」





───確かに一旦お別れはするけど、また会えると私は信じているよ。どんな時でも、私はユウ君達を見守っているから。だから、笑って?ね、ユウ君




あの時彼女はそう言った。それは、決して嘘ではなかったのだ。だから溢れた涙を拭き、ユウは笑う。


「ユウ君、どうしたのーー?」

「兄さ〜ん、ミツキが心配していますよ」

「っと。ごめん、すぐ行くよ!」


いつまでも立ち止まってはいられない。駆け出したユウは駆け寄ってきたミツキを受け止め、彼女の小さな左手を握り。小さな反対の手を、微笑みながらマナが握り。


笑顔のクレハがその前を走ってゆき、前方を歩く仲間達が手を振って彼らを待っている。


そして。


『ふふっ……』


そんな彼らを、黄昏の木の枝に座る少女がいつもと変わらない笑みを浮かべながら見守っていた。

色々と時間がかかりましたが、これにて第2部『英雄の息子編』完結です。


第1部に出てきた英雄達も引き続き登場させ活躍してもらいました。強すぎるので、あまり戦闘シーンには登場させてませんが。


メインヒロインは、第1部の初期から登場していたマナにしようと最初から決めていて、成長した彼女の設定を考えるのは楽しかったです。皆に愛されていた小さな少女が、第2部では世界一頭が良くて誰からも慕われる、ユウ君大好きな女性になりましたね。


長々と話をするのもあれなので、そろそろ終わりにしましょう。細かい部分の修正などもいずれ行いますので、ふと思い出した時にまた読み返してみてくださいね。本当にありがとうございました。

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