104.決戦!銀閃一刀流
「ユウ君見た?えへへ、勝ったよ!」
「ああ、凄かったぞ」
褒めて褒めて〜と、抱き着きながらマナ姉が甘えてくる。周囲に人が居ないのは魔力探知を行い把握しているので、俺も思う存分マナ姉の頭を撫でた。
しかし、とんでもない戦いだった。親父が殴る蹴るを解禁していたらまた違った結末になっていただろうけど、そもそもあの親父ですらマナ姉の姿を見失っていたし。俺も途中から目で追えなかったので、世界最速はマナ姉になったかもな。
「次は俺の番だな。うーん、緊張してきた」
「あはは、楽しみにしてたもんね。本気のお母さんと戦うのは初めてなんでしょう?」
「修行では毎回手加減されていたからな。だけど今日は修行じゃない。やっと夢が叶うんだ」
そう、俺の相手は母さんである。剣聖と呼ばれ、あらゆる面で尊敬している人が、遂に本気で相手をしてくれると言うのだ。もし負けたとしても、得るものは多いだろう。
「ユウ君ならきっと勝てるよ。頑張って」
「ありがとう。それと、マナ姉」
マナ姉の目を見つめ、真剣に言う。
「この魔闘祭で優勝できたら、大事な話をしたいんだ」
「えっ、私と?」
「ああ、マナ姉と」
「わ、別れ話……?」
「いや、違うぞ!?」
涙目になったマナ姉を撫でる。そう、今日の俺はとある覚悟を決めて魔闘祭に臨んでいる。付き合ってから早4年、まだ若いがいつか言おうと思っていた事だ。
「だから、応援してくれたら嬉しいかな」
「うん、分かった……」
「それじゃあ行ってくる」
そう言って控え室から出ようとしたら、突然マナ姉が腕を引っ張ってきた。そして振り返った直後、柔らかいものが唇に触れて信じられない程良い香りが鼻に届く。
「ファイト、ユウ君!」
「あ、ああ……」
不意打ちでこういう事をするのはずるいと思います。ただ、不思議とやる気が湧いてくる。やはりマナ姉は、俺にとってかけがえのない大切な存在だな。
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「しつこいわね、ポンコツ女神!いい加減負けを認めたらどうかしら!?」
「ハッ、こっちの台詞だポンコツ魔王!さっさと帰ってお子様ランチでも食べときな!」
とてつもない魔力のぶつかり合いが繰り広げられている。大魔王のベルゼブブさんと元女神だというソンノさんの激闘は、いつまで経っても終わりそうにない。
どちらも10代にしか見えない容姿だが、その実力は桁違いだ。ベルゼブブさんはありとあらゆる魔法を使いこなし、ソンノさんは世界で唯一である空間干渉魔法の使い手。空間が固定されていなければ、開始と同時に周囲は更地になっていただろう。
「あーもう、あったまきた!いいわ、そろそろ決着つけようじゃないの!」
「っ、それは……」
ベルゼブブさんが凄まじい魔力を解放する。確かあの人は7つの魔力を身に宿していると聞いたが、その全てを同時に解き放ったらしい。まるで漆黒の鎧を身に纏ったような姿になり、翼を広げてベルゼブブさんが口角を上げる。
「どう?今の私、大魔王どころか魔神以上の魔力だと思うけど」
「ふん、それがどうした?確かにグリードよりも遥かに強大な魔力だが、私の敵じゃない」
「だったら確かめてみるといいわ!!」
これだけの魔力を浴びても余裕を崩さないソンノさん目掛けて、ベルゼブブさんが魔法陣から深紅の弾丸を放つ。それを腕を組んで浮遊しているソンノさんは、目の前に巨大な穴を生み出して別の場所から飛び出させた。
これはベルゼブブさんも予測していたようで、迫る自分の魔法を魔力に分解して吸収し、動きが止まったソンノさん目掛けて飛行する。
「終わりよ、ソンノ・ベルフェリオ!!」
「若い……若いねぇ」
「え───きゃあっ!?」
そんなベルゼブブさんが、突如真上に吹っ飛んだ。どうやらソンノさんも魔力を解放したらしい。美しい女神本来の姿になったソンノさんを見て、観客席から歓声が上がる。
「お子様相手に本気を出すのは大人げないような気もするが、きちんと叱ってやらないとなぁ……!」
「いつまでも自分が上だと勘違いしてるお婆ちゃんに、そろそろ現実を教えてやらないとねぇ……!」
まずい、こんなレベルの魔力がぶつかり合えば、空間ごと砕けて辺り一帯が消し飛ぶと思うんだけど。それは親父達も分かったようで、衝突を阻止しようと観客席から身を乗り出していた───が。
『そ、そこまでーーー!!いくらなんでも長すぎるのと、このままでは観客に被害が出ていた恐れがあったので、この勝負は引き分けとさせていただきます!!』
「「はあーーーーっ!?」」
おお、ナイス判断だな。ただ、こんな時しか全力で喧嘩できないベルゼブブさんとソンノさんは、二人仲良く文句を言い続けていた。
『さあー、続いては再び親子決戦となりました!まずは、昨年まで20年以上にわたって結婚したい女性ランキング1位に君臨した女帝!世の男性達を魅力し続ける絶世の美女であり、剣聖としてあらゆる悪を討つ究極の武人!テミス・シルヴァ様!』
「は、恥ずかしいからその紹介文はやめて欲しいんだが……」
『そして、4年前に永遠黄昏を食い止めたもう1人の剣聖!念願だった母への挑戦は、若き英雄に何をもたらすのか!世界最強の英雄王を打ち破った最愛の姉に続けるか!ユウ・シルヴァ様!』
(最愛の?え、関係バレたりしてないよな!?)
と、心配になりながらもフィールドに姿を見せた母さんと向き合う。まあ、どうせそのうち知られる事だ。今は母さんとの決戦に集中しよう。
「ふふ……大きくなったな、ユウ」
「へ?」
「剣士になりたいと言われた時は、まだこんなに小さかったのに。今では私よりも大きくなって、世界まで救ってみせた。立派に成長してくれて嬉しいよ」
……相変わらず綺麗な人だ。何年経っても殆ど容姿が変わっておらず、制服を着せたら普通に学生で通用するだろう。何か特殊な魔法でも使っているのだろうかと疑ってしまうレベルである。
しかし、そんな見た目でも武の頂点と言われている人だ。親父に武術を教えたのも母さんらしいし、あのベルゼブブさんやソンノさんが本気でやり合えば負けると明言している実力の持ち主。
はたして勝てるだろうか。まだ魔力を纏っておらず、刀に手を当て微笑んでいるだけだというのに……場に満ちる信じられない程の緊張感。思わず俺の手は震えた。
「母さん……いや、師匠」
「ん?」
「どうか全力で、弟子の成長を見てください。よろしくお願い致します」
「ふふ、勿論だ」
母さんが構えた。次の瞬間、魔闘開始の合図と共に母さんの姿が消える。
「ッーーーーーー!!」
咄嗟に抜刀していなければ、今ので負けていたかもしれない。まさか終ノ太刀を初っ端から使ってくるとはな……!
「今のを防ぐか……」
「くっ……!」
振り返れば、既に母さんは技を放つ寸前で。魔力を真上に放って倒れるように回避行動をとった直後、俺の頭上を母さんの刀が通り過ぎた。
そのまま地面を転がり、一旦距離を取る。やはり最初から全力で行かなければ勝てない相手だ。精神を整え、目を閉じ体内に満ちる魔力を呼び覚ます。
「はあああッ、零ノ太刀【無月】!!」
『な、なんという魔力でしょうか!どうやらユウ様が魔力を解放したようですが、テミス様は余裕の笑みを浮かべています!』
「行くぞ母さん!!」
限界加速を使い、移動速度を限界以上に上昇させてから地を蹴る。そして刀に魔力を集中させ、俺は母さんの目の前で勢いよく踏み込んだ。
「壱ノ太刀─────なっ!?」
しかし、気が付けば母さんは居なくなっていた。どうやら向こうも加速魔法を使い、俺の背後へと移動したらしい。反則だ、もう転移魔法と変わらない移動速度じゃないか……!
「弟子の成長を見るのは何よりも嬉しい事だが、私も同時に師匠として更なる高みを目指している。ユウが成長すればする程、私もまた成長しているという事だ」
「弐ノ太刀【乱月】!!」
咄嗟に連続で斬撃を放ったが、その全てを母さんは弾き返した。信じられない事に、これでも母さんはまだ魔力を解放していない状態である。
「はあッ!!」
「ぐっ!?」
恐るべき速度で接近してきた母さんが、魔力を集中させた刀を振り下ろす。ギリギリで反応して受け止めたものの、押し負けて俺は吹っ飛ばされた。
一応これでもヴィータやロイドに勝利し、ある程度の自信はついていた。更に4年が経ち、かなり魔闘力を上昇させている。それなのに、母さんはまだその先へと進んでいるのか。どれ程の努力を重ねればこの人に届くというんだ。
(いや、勝負はまだ始まったばかりだ。これまでの努力を思い出せ……!)
魔力を雷へと変換し、詠唱する。苦手だった雷属性魔法も、毎日マナ姉が教えてくれたおかげで理解できるようになった。そして永遠黄昏で皆の魔力を取り込んだ際、様々な魔法も習得した。そう、マナ姉以外に使い手がいないこの魔法も。
「【雷霆万鈞】!!」
「っ、マナの魔法か……!」
『おおっとぉ!なんと、ユウ様がマナ様が使用したものと全く同じ魔法を身に纏いました!これにはテミス様も驚いています!』
空中で体勢を整え、壁を蹴って加速。それを何度も繰り返し、俺は魔闘場内を駆け回る。
(もらった……!)
限界加速も同時に使い、母さんの視界から消える事に成功。あとはこのまま見えない位置から攻撃を仕掛けるだけだ……などと油断した俺が馬鹿だった。
「────はっ!?」
不敵に笑う母さんと、目が合ったのだ。ぞわりと寒気がした直後、俺の目の前に母さんが現れる。まさか、動きを読まれていたのか!?
「壱ノ太刀【幻月乱舞】」
「ぐあああっ!?」
全身に激痛と衝撃が走り、俺は地面に叩きつけられる。数回は弾けたものの、それでも一瞬で数え切れない程放たれた斬撃を防ぎ切るのは無理だった。
『て、テミス様の奥義が炸裂ーーー!!ユウ様、為す術もなく地面に衝突しました!!』
『これがテミスの恐ろしいとこだな。敵の呼吸や仕草などからその後の動きを完璧に予測。敵は死角に入り込んだと思っていても、それはテミスに誘い込まれただけ。あれはもう、未来予知に近い能力だ』
ソンノさんの解説が聞こえる。まずい、離れた場所に落ちた刀に手が届かない。全身が痺れて力が入らない……!
「これで終わりなのか?ユウ」
「っ……」
「まだ魔闘は始まったばかりだぞ」
……母さんは俺に期待しているらしい。修行の際、口癖のように『いつか私を超えてみせろ』と言っていた。母さんは、今ここで私を超えろと言っているんだ。
「勿論、そのつもりだよ……」
魔力とは違うもうひとつの力。それを解放し、傷を癒しながら身に纏う。刀はこれに耐えられないので、今は素手で挑ませてもらおう。
「ふふ、神力か。初めて聞いた時は本当に驚いた。まさかタロー以外に使い手が現れるとは、と」
「これが俺の100%だ、母さん」
「それなら────」
納刀し、母さんが腕を前に突き出す。同時に魔力が急上昇し、溢れ出したその力は母さんの手元に集中した。
「大空を断ち、大海を割り、大地を裂く神伐の剣よ。我は光を求める者、我が声を聞き顕現せよ───《真・宝剣グランドクロス》」
そして召喚された金色の宝剣を手に取り、母さんが構える。
「私も100%で相手をしよう」
「光栄です、師匠……!」
遂に、念願の瞬間が訪れた。使用可能な加速魔法全てを付与し、地を蹴り、全力で母さん目掛けて疾走する。そして握りしめた拳から魔力の弾丸を放とうとした直後、母さんは勢いよくフィールドを踏み砕いた。
マナ姉との戦いで親父がやったのと同じだな。俺の動きを制限するつもりなんだろうが……マナ姉共々どんな脚力なんだ!
「【幻襲銀閃】」
「っ!?」
衝撃波を浴びて足を止めた俺に、魔力で生み出された2人の分身と共に母さんが迫る。左右から放たれた技は神力を纏わせた腕で受け止めたものの、目の前で母さんが宝剣を振り上げている。
「くっ、【幻襲銀閃】!!」
俺も分身を生み出し、本物の母さんが放った一撃を防いだ。分身は呆気なく消し飛ばされたが、その隙に左右の分身を神力で吹き飛ばし、動きを止めた母さんに接近する。
「甘いぞユウ。常に集中して敵の動きを見ておかないと」
「え────」
直後、横から衝撃を浴びて俺は宙を舞った。しまった、俺が一瞬目を離した隙に、空中で軌道を変える不可視の斬撃を放っていたのか。
「【アークブレイド】!!」
まずいと思うが、この体勢では避けれない。放たれた光の斬撃は神力を斬り裂き、そのまま俺は壁に叩き付けられた。
「ぐっ、がはっ……!」
強い、やっぱり強い。俺も相当強くなれた筈だが、これでも母さんには届かないというのか。向こうでは母さんが宝剣に魔力を集中させている。くそっ、せめて刀が使えれば……!
『ならばユウ様、私をお使いください』
母さんが宝剣を振り上げたその時、そんな女性の声と共に空間が歪んだ。そして目の前に現れた、美しい輝きを放つ神刀。浮遊するその刀は、ユグドラシル様の力で姿を変えたティアーズだ。
『テミス様も宝剣を召喚したのですから、ユウ様が私を手に取る事は反則ではありませんよ』
母さんを見れば、構わないと頷いてくれた。今の俺は、ティアーズの力を借りてやっと100%の力を引き出せるって事か。
「悪い、ティアーズ。力を貸してくれ」
『はい、勿論です。この神雫の力、存分にお使いくださいませ』
神雫を手に取り、神力を纏い直す。この状態は長時間継続できないので、早めに決着をつけないとな。
「それじゃあ改めて……」
『行きましょう、ユウ様!』
加速魔法を使い、跳躍。同時に母さんが斬撃を飛ばしてきたので弾き返し、障壁を蹴って斜め上から攻撃を仕掛ける。
「炎ノ太刀……!」
「【刺し穿つ銀の剣山】」
「【灼砲】!!」
母さんが展開した魔法陣から大量の剣が飛び出したが、俺の放った炎の突きがその全てを砕く。母さんにダメージは与えれなかったものの、着地した俺は追撃の手を緩めない。
「風ノ太刀【絶空】!!」
「っ!!」
荒れ狂う風ノ太刀が母さんの宝剣を弾き、一瞬だが隙ができた。そこを狙って次の技を放とうとした直後、急に加速した母さんの頭突きを浴びて俺は蹌踉めく。魔力を額に集中させたのか、恐ろしい程硬かった。
「【滅光陣】!!」
「ぐあっ!?」
母さんが地面に宝剣を突き刺し、広がった魔法陣から閃光が解き放たれる。まともにそれを食らった俺は吹っ飛ばされ、そのまま地面を転がり壁に衝突。顔を上げれば、母さんは既に次の技を放とうとしていた。
「そんな簡単に勝たせてはくれないか……!」
「【ライトニングスティンガー】!!」
「水ノ太刀【鏡月】!!」
輝く光の一撃を水の壁で跳ね返し、それを避けた母さん目掛けて地を蹴る。驚くべき事に母さんはもう次の動作に移っているが、ここで技は出させない。
「地ノ太刀【峰仙】!!」
「ぐっ!?」
効いた……!この状態なら、宝剣を召喚した母さんにもダメージは与えられるんだ!
「ティアーズ、全魔力解放だ!このまま畳み掛けるぞ!」
『了解です!零ノ太刀を発動します!』
神力と魔力を合わせ、距離を取ろうとした母さんの背後に回り込む。しかし、それを目で追ったらしい。振り向きざまに放たれた一撃は、障壁に触れて魔闘場を激しく震わせた。
「あっぶな……!」
「【限界加速】!!」
『ユウ様、上です!』
母さんの姿が消えた直後、ティアーズの声に反応して上に顔を向ければ、ドーム状に魔闘場を覆う障壁の中心を蹴り、宝剣を振り下ろした母さんが目に映る。
ギリギリで技を避け、俺も加速魔法を使って母さんに接近。全力で終ノ太刀を放って母さんを吹き飛ばす。受け止められはしたものの、壁に衝突した母さんは僅かに顔を歪めていた。
「ここだ、壱ノ太刀!!」
「ふふ、本当に強くなったな……!」
奥義を繰り出すが、母さんは全てを宝剣で受け止める。しかし、手は緩めない。このまま隙を見せるまで壱ノ太刀を放ち続けるんだ。
「テミスーーーーーーー!!」
「っ、タロー?」
不意に親父の声が聞こえた。それに反応した母さんが、一瞬だが俺から目を逸らす。卑怯かもしれないが、これは最大のチャンスだ。
「終ノ太刀──────」
「どっちも応援してるけど、やっぱテミスが勝つとこ見たいからさ!頑張れよーーーーーー!!」
「……ふふ、本当にあの人は」
直後、俺は吹っ飛んでいた。まずい、母さんの魔力が跳ね上がっている。親父の声を聞いて、宝剣召喚に魔力解放を合わせたのか……!
『ゆ、ユウ様!』
「くそっ、これでも届かないのかよ……!」
母さんが全魔力を宝剣に集中させる。そして技を放つ構えをとった。あれは、グランドクロスの構えだ。
(どうすれば……どうすればいい……!?)
このままだと確実に負ける。だけど、あの技を相手に何が通用するんだ?それこそ、限界以上の力を引き出さないと本気の母さんには勝てない。やっぱり、俺じゃ無理なのか────
「ユウくーーーーーん!!」
「っ!?」
まるで、先程の親父に対抗するかのように。突然声が聞こえたので観客席に目を向ければ、特別席でものすごく目立つ巨大な旗を振っているクレハ、そして笑顔のマナ姉と目が合った。
「ユウ君なら絶対勝てるよ!頑張って!」
……ああ、やっぱりだ。俺が一番力を発揮できるのは、こうしてマナ姉に応援されている時や、マナ姉達を守る為に刀を抜いた時。まったく、どれだけ俺を夢中にさせる気だよ。
「ふふ、大事な人から力を貰うのは互いに同じか」
「うん。悪いけどマナ姉に応援されてる時の俺、結構強いよ」
俺も残った全魔力を神雫に纏わせ、構える。
「行くぞ、母さん!」
「来い、ユウ!」
そして、同時に踏み込んだ。
「【グランドクロス】!!」
放たれた斬撃が交差し、猛スピードで前方から迫る。しかしそれを俺は避けず、真っ向から勝負を挑んだ。神雫が触れた瞬間、炸裂した白十字。眩い閃光が視界を染め上げ、凄まじい衝撃と魔力の奔流が身を包む。
しかし、負けるわけにはいかない。
「──────うぅおおおおおおおおッ!!」
「なっ!?」
「いっけえええええええッ!!」
グランドクロスを内部から切り刻み、外へと飛び出した俺は目を見開く母さんの目の前で踏み込み、そして神雫を振り上げる。その一撃は母さんの宝剣とぶつかり合い、粉砕した。
「はぁ、はぁ……はは、やった……」
「……まさか、ここまでやるとはな」
母さんの首に直撃する寸前で神雫を止める。宝剣を砕かれ一気に魔力を消費して事で、母さんも暫くはまともに動けない筈だ。
「立派に成長したな、ユウ。母さんは嬉しいぞ」
「ああ、ありがとう。ここまで来れたのも、母さんのおかげだよ」
「ふふ、そうか……えーと、実況の人!」
『は、はい、何でしょう!』
「見ての通り、これが実戦なら私は死んでいたでしょう。なのでこの勝負、私の負けです」
あ、やばい。それを聞いた瞬間、全身から力が抜けた。倒れそうになった俺を、母さんは優しく受け止めてくれる。
『け、決着ーーーー!!近年屈指の激闘となった親子決戦は、ユウ様の勝利で幕を閉じましたーーーー!!』
意識を失う寸前の俺を、同じく疲れている筈の母さんが背負ってくれた。この人、やっぱり超人だな……だけど今は、久々に甘えさせてもらうとしよう……───
残り2話予定です