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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
真・終章 希望を胸に夜は明ける
252/257

102.さようなら、またね

あ け お め !!

(綺麗な空……ふふ、そうか。終末領域の中に流れ込んでいたのは、負の感情だけではなかったんだね)


金色に染まる空を見上げながら、ヴィータは頬を緩める。永遠黄昏とは、この世界そのものがユグドラシルの意志とは関係なしに行われる、全生命への試練だったのかもしれない。


それを乗り越えた事で、終末領域の果て……ヴィータですら把握していなかった場所に溜め込まれていた〝希望〟が弾け、今降り注いでいるのだろう。


(終末領域は消滅した。だけどまた負の感情が流れ込み、何千年も経てば再び永遠黄昏が訪れるかもしれない。その時現れるのは、第2の終末領域が生む化身になる……かな)

「ヴィータ、どうしたんだ?」


背後から声をかけられ、振り返る。ユウや、彼に寄り添うマナとクレハ。学園で知り合った仲間達に、一度は敵として戦った英雄達。彼らの視線が、ヴィータに集まっていた。


「ううん、何でもない。お別れ(・・・)の前に、色々考えていただけだよ」

「っ……」


もう、ヴィータの体は薄れ始めていた。終末領域が消滅した事で、いよいよ肉体を維持できなくなったのである。


「ふふ、そんな顔をしないで?折角なんだから、最後は君の笑顔が見たいな」

「でも、やっとヴィータを自由にできたと思ったのに!そんな……こんなの、俺は……」

「私が願い続けていた、平和な世界。終末領域を止めるという私達2人の目的は叶えられたんだ。今はとても、幸せだよ」


俯くユウの頭を撫で、ヴィータは微笑む。暫くしてから彼女はユウの後に立つマナ達に目を向け、頭を下げた。


「マナ先生、短い間でしたがお世話になりました。私が貴女にしてしまった事は到底許される事ではありませんが、どうか幸せになってください。心から、そう思っています」

「ヴィータちゃん……」

「クレハちゃんも、ユウ君を支えてあげてね。彼、君達に黙って色々抱え込んでしまうと思うから」

「は、はい、お任せ下さい!」


涙を流すマナを見て、ユウの言う通り本当に優しい人だなとヴィータは頬を緩める。


「リースさん、貴女の明るさには元気を貰えたよ。これからも、皆のムードメーカーでいてあげてね」

「ヴィータちゃぁん……!」

「エリナさんは、もっと素直になった方がいいかな?ふふっ、私は今のエリナさんも好きだけど」

「ぐすっ……もう、ヴィータさんったら……」

「ソルさんとは一度遊んでみたかったですね。ユウ君とはまた違った楽しさを味わえたかもしれませんし」

「……ああ、最高に楽しめたと思うぜ」

「ユリウス君は真面目過ぎるからなぁ。たまには先輩達とはっちゃけてみるといいよ。勿論、程々にね」

「ええ、すぐにでも」

「アーリアちゃん、最近ユウ君以外のとある人とも結構仲良しだよね。応援しているから、頑張って」

「なな、何のことでしょうか!?」


次に、英雄達へと目を向けた。


「皆さん、この度は世界に混乱を招いてしまい、本当に申し訳ございませんでした。ですが、人々の為に立ち上がる貴方達の姿は美しく、勇気を貰えた。これからも、この世界を守る英雄として、どうか人々の希望となってください」


最後に、ヴィータはいつの間にか顔を上げていたユウと目を合わせる。


「ユウ君……君に出会えて本当に良かった。君との出会いが私を変え、この世に生まれた事に新たな意味を与えてくれた。ありがとうね」

「俺もだよ、ヴィータ。君の勇気が俺の背中を押してくれた。あの時ロイドに立ち向かえたのは、すぐ近くに君が居てくれたからだ。本当に、ありがとう。それに……」

「……ふふ、泣かないでよユウ君」


勝利の先に待っていたのは、大切な仲間との別れだった。涙を流すユウをまるで弟のように見つめながら、ヴィータはほぼ消えてしまっている手をユウの頬に当てる。


「確かに一旦お別れはするけど、また会えると私は信じているよ。どんな時でも、私はユウ君達を見守っているから。だから、笑って?ね、ユウ君」

「……ああ、そうだな」


涙を拭いて、ユウは笑う。そんな彼を見て安心した後、いたずらっぽい笑みを浮かべてヴィータはマナに声をかけた。


「マナ先生、いいですか?」

「うん、勿論だよ」

「ふふ、やったぁ……!」


まるで小さな子供のように、ヴィータはユウに抱き着く。驚きながらもユウはヴィータを優しく受け止め、そして別れを惜しむように抱きしめる。


「ずっとずっと、君が好きだよ。これからもずっと、どんな事があっても、生まれ変わったとしても。私はずっと、君を忘れないから────」


最後に、そっとユウから離れたヴィータは満面の笑みを浮かべた。


「またね、ユウ君」








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆








時の流れというものは、多くの出会いと別れを人々にもたらす。世界に絶望と希望を届けた永遠黄昏から一年以上が経過した今日、少年少女達は思い出の場所を巡りながら、この後訪れる別れを惜しんでいた。


「うぅ〜、クレハは寂しいです……」

「家族なんだから、家で毎日会えるだろう?」

「私が学園に居る間は会えません……」


目を潤ませているクレハの頭を撫でながら、ユウは苦笑する。昨年ソルが学園を卒業し、今年はいよいよ自分達の番だった。


卒業証書授与の時にはリースが号泣したり、マナも泣いてしまい誰を呼んでいるのか一時分からなくなったり、ユリウスが緊張して送辞をど忘れしたりと色々大変だったが、オーデム魔法学園らしい賑やかな卒業式となった。


「マナ先生、俺と付き合ってください!!」

「え、ええと、ごめんなさい」

「うわあああ!!後悔はしないぞおおお!!」


そして、毎年恒例の卒業生による告白ラッシュも繰り広げられていた。リースやエリナ、クレハ達も告白されていたが、ずば抜けて多かったのはやはりマナで、卒業生の大半が玉砕覚悟の告白をするという人気っぷり。


また1人、振られてしまった男子生徒が泣きながら去り、そんな光景をある者は笑いながら、ある者は呆れたように見ていた。


「ええい、寄るな寄るな。いい加減諦めるんだな」

「うるせえハゲ!英雄になったからって俺達は恐れないぞ!お前をぶっ倒してマナ先生とクレハちゃんに告白してみせる!」

「ちょっとぐらい俺達にも夢見させろやああ!」

「全員でかかれえええ!」

「「「うおおおおおおッ!!」」」


門番として立ちはだかるユウは、今では〝英雄の息子〟ではなく〝若き英雄〟として人々から尊敬されている。


「いいだろう……来い、神雫ティアーズ!」

『ユウ様の危機と聞いて参戦です!』

「「「それは反則だーーーー!!」」」


そんな彼は女神ティアーズを呼び、神刀へと姿を変えた彼女を持って群がる男子生徒達を蹴散らし始めた。騒ぎを聞いてやって来たソンノも、楽しげに笑いながらそれを見ている。


「もう、ソンノさんったら!学園長なんですから止めてくださいよ!」

「ははっ、しんみりしてるよりかはいいだろ」

「これで怪我人が出たら大問題ですよ、まったく!こらー、喧嘩はやめなさい!」

「やれやれ、お前が原因だっての……」


やがて、マナの手によって騒ぎは止められ、自然といつものメンバーで集まっていた。今は特別に鍵を借りて屋上に向かい、雑談で盛り上がっている最中である。


「あー、ウチらも卒業かー。なんかこの3年間、あっという間やったなぁ」

「そうね。とても有意義な時間を過ごせたわ」


ソンノから貰ったお菓子を食べながら、リースとエリナがしみじみとそう言う。その隣では様子を見に来たソルが眠そうに欠伸をしており、反対側ではアーリアとユリウスが今後について話し合っていた。


「先輩達は、卒業後何をするんですか?」

「俺は可愛い子達とデートを────」

「ソル先輩には聞いてません」


アーリアの質問にまず答えたのはユウだった。それからエリナ、リースが続く。


「俺は教師を目指しているから、とりあえず暫くはマナ姉から色々教わるよ」

「私はお父様の手伝いをするつもりよ」

「ウチは一旦東方に戻ろうと思ってる」

「そ、そうですか。オーデムに住んでいるユウ先輩以外は会う機会が減っちゃいますね……」


寂しそうにアーリアが目を伏せる。彼女の言う通り、今日でエリナとリースは寮を出る。それぞれが自分達の故郷に戻れば、毎日顔を合わせる事はできなくなるのだ。


「あはは、時間があればまた来るつもりやけどな」

「そうね、定期的に集まりたいとは思うし……あら、このユウ変な顔してるわ」

「これは寝起きの顔やな、あっはっはっ!」

「おいやめろ」


エリナとリースが、見ていた卒業アルバムに使用されていた授業風景の写真を見て笑った。他にも学園祭や修学旅行などの写真も多数あり、それぞれが懐かしさと寂しさで胸がいっぱいになる。


「本当に、色々あった学園生活だったな」

「ふふ、弟の成長が見られて私は嬉しかったよ」


マナに頭を撫でられ顔を赤くするユウを見て、エリナ達は笑う。学園の名物だったシルヴァ姉兄のやり取りも、今日で見納めだ。


楽しい時間とは、あっという間に過ぎるもの。いつもなら明日があるが、本当にこれで彼らの学園生活はお終い。別れを惜しむように、少年少女達は日が暮れるまで語り合う。


「あ……もうこんな時間」

「やばっ、そろそろ駅行かないと東方地方行きの列車来ちゃうわ」

「なら、全員で駅まで行くか」


永遠黄昏を思い出す空の下、遂にユウ達は移動を始めた。道中も盛り上がりながら、やがて辿り着いたオーデム駅で別れの時が訪れる。


「ユウ、3年間ありがとうな。ユウに出会えたおかげで、ウチは毎日楽しく過ごせたよ」

「それは俺の台詞だ。リースの明るさにはいつも助けられたよ」

「照れるなぁ。ちょっとでも役に立てたらって思ってたけど、頑張ってよかったわ」


にっこり笑い、リースはユウと握手する。次にマナやクレハ達にも挨拶をしながら、最後にユウの背中を思いっきり叩いた。


「あはは、これからも頑張ってなっ!」

「ああ、またな!」


手を振り、リースは到着した東方地方行きの列車に駆け込んでいった。そして、反対側のホームにはエリナが乗る予定の列車がやって来る。


「はぁ、こんなに誰かと仲良くなるとは思っていなかったのだけれど……別れというのは辛いものね」

「っ、泣くなよエリナ……」

「ぐすっ、ごめんなさい。学園は魔法について学ぶだけの場所だと最初は思っていたから、皆に出会えて本当に良かった……」

「そうだな、喧嘩ばかりしていたからな。でも、今のエリナは皆が憧れる立派な女性だよ。素敵だと思う」

「も、もう、最後まで貴方は……」


涙を拭き、差し出されたユウの手を握る。それからリースと同じくマナ達にもきちんと挨拶し、エリナは出発直前の列車に乗り込んでいった。


「そんじゃ、俺も帰ろうかね」

「ソルは馬車で来たんだったか。今から王都に戻るとなると、かなり遅くなるんじゃないか?」

「別にいいさ。特に予定も無いしな〜」


家族ぐるみの付き合いなので、シルヴァ家とハーネット家は定期的に会っている。なのでまた近いうちに会おうぜとソルは笑い、背を向けて手を振りながらソルは駅から出て行った。


「うぅ、まだ1年間は私達もオーデムで暮らすので、また絶対遊びましょうね」

「僕も皆さんから教わりたい事が沢山あるので、是非」

「恋愛相談ですか?最近いい感じですものね。それは兄さんと姉さんから教わるのがおすすめですよ」

「「違います!!」」


最後に、アーリアとユリウスが肩を並べて学園に向かって去っていく。それを見送った後、ユウ達はそろそろ帰ろうかと顔を見合わせる。


「う〜〜〜、寂しいよ〜〜〜」

「こ、こらマナ姉、こんな所で引っ付くな」

「ユウ君勉強頑張ってね?卒業したからって遊んでばかりじゃ駄目だからね」

「はいはい、泣かないの」


これ以上注目されるのは面倒なので、クレハと共に泣き出したマナを連れ、ユウはオーデムの中を歩く。


(なんだかんだあったけど、俺達はしっかりやってるよ。これからも頑張って、一生懸命生きていくからさ……だから見守っていてくれ、ヴィータ)


やがて3人の声と姿は、街の喧騒の中へと消えていった。

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