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レベル1の時点で異世界最強  作者: ろーたす
真・終章 希望を胸に夜は明ける
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100.剣神

果てしない闇の中を、ユウとヴィータは駆け抜けていた。骨のようなものが合わさってできた地面を、ただひたすらに走り続ける。


終末領域……負の感情が流れ込む終わりの空間。ヴィータが使っている魔法に守られていなければ、ユウは数分で死に至るだろう。


「今の私では、地上に戻って君のお父さん達を連れてもう一度世界樹に戻る余裕が無かった。ごめんねユウ君、こんな事に巻き込んでしまって……くぅっ!?」

「ヴィータ!?」

「だ、大丈夫、大丈夫だから……」


己の肉体を構成する領域を乗っ取られ、ヴィータの限界はすぐそこまで迫っていた。しかし、止まるわけにはいかない。真っ青な顔でユウを見て微笑み、ヴィータは再び前を向く。


「君と一緒なら、絶望なんてクソ喰らえだ」

「はは、こっちの台詞だよ!」


前方から、瘴気を纏った怪物が押し寄せてくる。終末領域が生んだ、負の感情の集合体。舌打ちし、ユウは神雫を抜き放つ。


「くそっ、邪魔するなあ!!」


連続で斬撃を飛ばし、次々と怪物を斬り裂いていく。しかし、数が多い。あまり魔力を無駄遣いできないこの状況では、何よりも面倒な相手だった。


「出でよ、魔剣クロノス……!」


ユウが迫る怪物の相手をしている隙に、ヴィータは先程の戦いで砕けた魔剣を再び呼び出す。そして跳躍し、群れの中心部に剣先を突き刺した。


「【カラミティバースト】!!」

「ギギいぃ……!?」


乱れる魔力を解き放ち、怪物達を吹き飛ばす。そのおかげで前方の敵が消え、足が止まりそうになったヴィータの腕を引いてユウは駆け出した。


「ごめん、ヴィータ」

「ううん、少しでも力にならせて……?」

『っ、凄まじい魔力を感じます。この先に、恐らく終末の化身が居る筈です』

「……いよいよか」


やがて、2人の視線の先に神殿のようなものが見えてきた。ヴィータの説明によると、あれが終末領域の中心らしい。


「あの中に、ロイドが……」

「うん、このまま飛び込むよ」


入口を蹴破り、中へと駆け込んだ2人。そんな彼らを待っていたのは、どす黒い影を身に纏った終末の化身だった。


「ようこそ、終の女神と英雄の息子。愚か者を心から歓迎させてもらうよ」

「お前の好きにはさせないぞ、ロイド……!」


神雫を構え、ユウがロイドを睨む。しかしロイドは馬鹿にするように笑うだけで、微塵も余裕を崩さない。


「この終末領域は、私の想いを認めてくれたのさ。マナ先生を誰よりも愛しているこの私こそ、新世界の主に相応しいと」

「何が新世界の主だ。人間の身でありながら、神にでもなったつもりか!?」

「なったんだよ!そう、今の私は完全無欠!終末神ロイドなんだァーーーーッ!!」


凄まじい魔力を解き放ち、ロイドが終末領域を震わせる。これにはさすがのユウとヴィータも後ずさり、冷や汗を流した。


「はーーーはっはっはっはっ!!どうだ、これが神の力だ!!君達程度では辿り着けない、絶対なる究極の領域に私は立っている!!」

「くっ、化物め……!」

「さあ、始めようかァ!!まずは君達を、マナ先生と私の理想郷を創造する為の最初の犠牲にしてあげるよォ!!」

「ユウ君、構えて!」


次の瞬間、ロイドの姿が消えた。気が付けば、2人の間にロイドは立っている。


(っ、速─────)

「ひゃあーーーーはっはっはァ!!」


拳がユウの頬を歪め、回し蹴りがヴィータの肋骨を粉砕。吹っ飛ばされた2人は、そのまま壁に衝突した。


「ぐっ、がはっ……!」

「おいおい、もう終わりじゃないだろうねぇ!君が一番の邪魔者なんだよユウ君んんんんッ!!」

「さ、参ノ太刀……!」

「遅いんだよノロマァッ!!」


強烈なボディブローを食らい、ユウは血を吐く。神力を纏っているというのに、その一撃は彼の身体を突き抜けた。


「私のマナ先生を穢しやがってぇ!彼女の全ては私だけのものなんだああひゃははははははッ!!」

「ユウ君……!【ブラックラグナロク】!!」


更にユウを殴ろうとしたロイドに、ヴィータが闇の最上位魔法を放った。しかし、どうやらそれを読んでいたらしい。振り返ったロイドは魔法を吸収し、倍以上の威力で同じ魔法を連発する。


「この神殿は素晴らしいねぇ!これだけ派手に魔法を使っても、全然壊れないなんて!そうだ、ここを私とマナ先生の家にしよう!どれだけ彼女が抵抗しても、絶対に逃げ出さないように!」

「このクズがあああッ!!」


激怒したユウが神雫を振るうが、ロイドは指一本でそれを受け止める。それを見て硬直したユウを、ロイドはそのまま蹴り飛ばした。


「悔しかったら止めてみろよ!ほら、ほらほらほらァッ!!」

「ぐふっ!!」


床を跳ねるユウに追いつき、更に彼の腹部に爪先をめり込ませたロイド。彼を止めようとヴィータが背後から迫るが、振り返りもせずにロイドは後方に魔法を放ち、彼女を吹き飛ばす。


「いい気分だなぁ!君は楽には殺さないぞ?そうだ、手足をもいだ君の前でマナ先生を死ぬほど犯そう!そして身も心も壊れたマナ先生の前で、芋虫みたいになった君をグチャグチャにするんだ!あっはっはっはっ、想像しただけで興奮してきたよユウ君んん〜〜〜〜ッ!!」

「ッ──────」


何度も何度も殴られ蹴られ、全身から血を流してユウは膝をつく。そんな彼の髪を掴んで持ち上げ、ロイドは寒気がする笑みを浮かべて魔力を纏う。


「張り合いがないなぁ。終の女神も、さっきの1発で動けなくなっているし……ああ、そうだ。君の前で彼女を挽肉にすれば、もっと絶望を与えられるかな?」

「っ、や、やめろ……!」

「負の感情を得れば得る程終末の化身である私は強くなれる。ありがとうユウ君、君のおかけでもっとも〜〜っと私は神の力が強化されるんだああ〜〜〜ッ!!」

「ぬあああッ!!」


本気でユウがロイドの顔面に蹴りを放ったが、ロイドは軽く足を小突いて骨を粉砕。口角を吊り上げてユウを地面に叩きつけた。


「ぐあああ……ッ!」

「もっと楽しませてくれよな、オイぃッ!?」


ユウを踏み、ロイドが大量の魔法陣を展開する。歪み切った今のロイドは、ヴィータ以上に終末領域の力を制御できていた。このままでは手も足も出ずに敗北する。しかし、ユウはただ痛みに耐える事しかできない。


「終わりか。最後まで君は本当につまらない存在だったね。それじゃあ死ね、これでマナ先生は私のものだ……!」

「【カオスクロス】!!!」

「ムッ……!?」


全ての魔法陣から魔法を放とうとした直後、離れた場所からヴィータが黒十字の刃を放った。咄嗟にロイドはそれを消し飛ばしたが、それによって魔法陣が掻き消える。


「チッ、おのれぇ……!」

「ユウ君は私が守る……守ってみせる!」

「瀕死のカスに何が出来るんだァッ!?」


駆け出し、ヴィータが振るう魔剣を避けて拳を叩き込む。更に衝撃で浮いた彼女を蹴り上げて手のひらを向けた。


「ほら、守ってみせろよ!」

「【絶空ぜっくう】!!」

「うおっ……!」


そんなロイドを背後からユウが斬る。僅かだが蹌踉めいたロイドは、怒りに染まった瞳でユウを睨む。


「本当に君は私をイラつかせてくれるねぇッ!!」

「うぐっ!!」

「さっさと死ねよゴミいいぃッ!!」

「がッ!?」


吹っ飛ばされ、壁に突っ込んだユウ。もう立つ力も無い程追い込まれているユウを、ロイドは徹底的に痛めつける。


「神とはねぇ、人に救いや祝福を授ける存在ではないんだよ。絶望を、呪いを、そして死を!そう、私はそんな神になってみせる!だけどマナ先生には愛を与えなくては。一生私に依存して、身も心も捧げてくれるような……そんな天使に育てるんだ。子供は何人作ろうか。子孫は全員私達を始祖だと崇めるんだぁ……本当に素晴らしい世界だねぇ!!」

「何が、神だ……」

「アァ?」

「神になったとしても、気持ち悪い神だよお前は……。悪いけどな、マナ姉は俺の彼女だ」

「図に乗るなよゴミが。お前程度がマナ先生に釣り合うわけねえだろッ!?」

「はは、キャラ崩壊してるぞ……?お前が神になったとしても、絶対にマナ姉は渡さない。お前に愛なんてものは存在していないだろうが……!」

「うるっせえよおおおおッ!!」


腕を踏まれ、骨がへし折れる。それでもユウは、神力を纏ってロイドを睨み続けた。


「もういいよ、死ね。目障りだ、耳障りだ。生きてる価値も無いよクソゴミいいいいッ!!」

「うああああッ!!」


トドメを刺そうとしたロイドを、突進でヴィータは吹っ飛ばした。しかし、今ので限界を迎えてしまった。ユウの隣に倒れ込み、震えながらヴィータは笑う。


「あ、はは……情けないね、私も」

「ぐっ、ヴィータ……!」

「今のままでは、彼を止める事はできない。ユウ君、私の全てを託してもいい……?」

「え……?」


向こうでロイドが立ち上がる。時間が無い。二人共、既に立ち上がる気力すら無くなっているのだ。震える手をユウの頬に当て、ヴィータは目を閉じる。


「私の中には、まだ全世界の生命から得た魔力が残っている。だけど、肉体を維持できない私ではその魔力を引き出せない。だからユウ君、代わりに君に皆の魔力を……」

「だけど、そんな事が可能なのか?」

「君とクレハちゃんは世界樹の魔力を引き継ぎ、クレハちゃんは世界樹の根を使役する能力を。そして君は世界樹の再生能力を手に入れた。その能力を利用すれば、魔力保有限界による肉体崩壊を防ぐ事ができる……と思う」

「なるほど、賭けってわけか」


徐々にヴィータの魔力が高まっていく。ユウは傍に寄り添う少女を見つめながら、やがて覚悟を決めて笑った。


「君を信じるよ、ヴィータ」

「よし、なら────」

「何をするつもりなのかなァーーーー!?」


猛スピードで駆け出したロイドが魔法を放ち、ユウとヴィータを吹き飛ばす。


「ヴィータ、準備を頼む。どれだけ耐えられるか分からないけど、俺が時間を稼ぐから!」

「うん、任せるね!」

「ゴミとゴミが足掻いたところで何になるってんだあああッ!?」

「ティアーズ、全魔力解放だ!!」

『ええ、参りましょう!』


魔力、神力を全て神雫に纏わせ、ユウが跳躍する。防御をやめた捨て身の特攻。稲妻を呼び寄せ、ユウは神雫を振り下ろした。


「うおおおッ!!【衝破神鳴斬しょうはしんめいざん】!!」

「ふーん、それってマナ先生の魔力を借りなきゃカス以下の威力だよねぇ……?」


腕に終末領域を大量に纏わせ、ロイドが笑う。


「残念だねええッ!!君の全力も、神には届かないのさあッ!!」

「はっ─────」


次の瞬間、ロイドの拳と衝突した神雫が砕け散った。宙を舞う破片を見て、ユウは絶望感に包まれる。マナの魔力無しで放った技とはいえ、神力と魔力を込めたとてつもない威力の一撃だった。それなのに、ただ殴っただけで。女神が姿を変えた神刀を、ロイドは粉砕したのだ。


「ティ、ティアーズ……!?」

「あーあ、無様な特攻で女神様は死んでしまいましたとさッ!!」

「ごふッ!?」


殴られ、ユウの腹に穴が空く。更に首を殴られ、ユウは派手に吹っ飛んだ。その先ではヴィータが立っており、彼女はユウを受け止めて地面を滑る。


「うっ、ぐぅ……ごめん、ヴィータ……ちょっと、俺じゃあ無理かも……」

「……ううん、大丈夫。君の勇気を私は称えるよ。おかげで覚悟は決まった(・・・・・・・)から」

「ヴィー、タ……?」


とても悲しそうに、寂しそうにヴィータがユウを見つめる。そんな彼女を見て瀕死のユウは必死に何かを言おうとしたが、突然口を塞がれて何も言えなかった。


涙を流すヴィータからの、最初で最後の口付けだった。次の瞬間、凄まじい魔力がユウの中へと流れ込み、あまりの量に思わず吐きそうになったが、彼の再生能力が肉体崩壊を抑え込む。


「愛しているよ、ユウ君。今までも、これからも。ずっとずっと、私は君を愛しているから」

「ッ────────」


閃光が終末領域を照らす。何事かとロイドは警戒したが、突如凄まじい衝撃を顔面に浴びて吹っ飛んだ。


「なっ、にいぃ……!?」


着地し、頬を押さえながら直前まで自身が居た場所を睨めば、白銀の魔力に身を包んだ少年が立っていた。白く染まった髪は雪のようで、握りしめられた拳には血が付着している。


(殴られたのか!?神であるこの私が、め、目で追えなかったぞ!?)

「……これがこの世界全ての魔力か。マナ姉やクレハ、リース、エリナ、ソル、ユリウス、アーリア……親父に母さん、学園長達の魔力も感じる。俺は、一人じゃないんだな」


手を前に出し、少年は魔力を集中させる。するとその魔力は光となり、美しい女性の形へと変化し始めた。


「あぁ、なんて素晴らしい気分なのでしょう。ユウ様の力が流れ込んでくる……まるで、心と体が一つになったかのようです……」

「なっ!?ば、馬鹿な……!?」

「女神ティアーズは、ユウ様のおかげで生まれ変わりました。これからは貴方様が我が主。この命、魂、その全てをユウ様に捧げる事を誓います」

「女神を蘇らせたというのか!?そんな、それこそ神が成せる奇跡じゃないかッ!!」


怒鳴るロイドの前で、少年は女性の頬に優しく手を添える。もう、女性はうっとりとしながら少年を見つめていた。


「もう一度力を貸してくれ、ティアーズ」

「はい、私はもう貴方様のものです────」


眩い輝きを放ち、女性が刀と姿を変える。それを手に取り、白銀の少年は落ち着いた表情でロイドを見た。あまりにも膨大な魔力は終末領域を絶えず揺らし、神の力を得た筈のロイドでさえも後ずさるしかない。


「今の彼は、私以上に人々の魔力を我がものにできている。そうだね、名付けるとしたら───剣神けんしん


少年が、刀を構えた。


「剣神、ユウ・シルヴァだ」

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